
生成AIの国内リージョンとは、AIサービスが扱うデータを日本国内のデータセンターに置くための提供地域や設定のことです。会社で使う生成AIのデータは法人向けの一部のプランで国内に置くことが出来ますが、多くの場合それは保存時のデータの話で、回答を作る処理(推論)やログ・ログイン情報は別の扱いになります。たとえば新しく契約するChatGPT Enterprise/Eduは会話やファイルを日本に保存する設定に対応している一方、2026年9月28日時点で、推論を地域内に限る機能の対象地域に日本は入っていません。確かめるときは、保存・推論・ログの3つに分けて、サービスごとの公式文書を読んでいくことになります。
各サービスの料金や管理機能の横並びは、法人向け生成AI38サービスの料金比較にまとめています。
国内に置けるかは、保存・推論・ログの3つに分けて考える
生成AIのデータが国内にあるかどうかは、1つの質問ではなく、保存・推論・ログという3つの質問に分けて答える必要があります。提供元の資料に日本リージョン対応と書かれていても、どの層の話なのかは読み進めないと分かりません。公式文書を読み比べると、保存は日本を選べるのに推論は日本を選べない、という組み合わせのサービスがいくつも見つかります。
| 層 | 中身の例 | 公式文書での呼び方の例 | 日本を指定できるか(傾向) |
|---|---|---|---|
| 保存(保存時のデータ) | 会話の本文、アップロードしたファイル、カスタムGPT、メモリー、バックアップ | data residency/stored at rest/Regional storage | 日本を選べる法人向けサービスがある(ChatGPT Enterprise/Edu、Microsoft 365 Copilot など) |
| 推論(回答を作る処理) | 質問を受けてモデルがGPU上で回答を作る処理 | inference residency/regional processing/In-Region | 日本を指定できないもの、モデルによって可否が分かれるものがある |
| ログ・メタデータ | ログイン情報、請求情報、ワークスペース名、内容を含まないログ、利用統計 | metadata/logs without content/account data | 保存の国内指定の対象外と明記されていることがある |
※公式文書での呼び方は、OpenAI・AWS・Microsoft の公式ヘルプと技術文書で使われている表記の例です(2026年9月28日確認)。
保存場所:会話やファイルが置かれる場所(データレジデンシー)
1つ目の層は、会話の本文やアップロードしたファイルが保存されている場所です。英語の文書ではdata residency(データレジデンシー)と呼ばれ、保存時のデータ(stored at rest)を特定の国や地域に置く仕組みを指します。OpenAIのヘルプでは、対象となるデータのバックアップや複製も同じ地域に置くと説明されています。国内リージョン対応という言葉が使われるとき、多くはこの層のことを指していると考えてよいでしょう。
推論の場所:回答を作る処理が動く場所
2つ目の層は、質問を受けてモデルが回答を作る処理(推論)が動く場所です。OpenAIはこれをinference residencyと呼び、GPUでの実行を地域内に限る仕組みとして、保存とは別の設定にしています。保存先が日本でも、回答を作る処理まで日本で動くとは限りません。さらにOpenAIのヘルプは、推論を地域内に限る設定であっても、認証・振り分け・索引作成・内容を含まないログ記録といった処理は地域外で行われることがある、と注記しています。推論の場所は、保存の場所よりも提供元ごとの差が大きいところになります。
ログとメタデータ:ログイン情報・請求情報・利用統計
3つ目の層は、会話の中身ではなく、サービスを動かすために残る情報です。ログイン履歴、請求情報、ワークスペース名、内容を含まないログ、利用状況の統計などがこれにあたります。OpenAIのヘルプでは、これらは保存の国内指定の対象外とされており、日本を選んでも国外に置かれることがあります。会話の中身ほど機微ではないものの、誰がいつ使ったかという情報も含まれるため、社内規程で国内保管を求めている会社は、この層まで含めて確認してみてください。
「学習に使わない」と「保存しない」は別の約束
学習に使わないという約束は、入力した内容をモデルの改良に使わないという意味で、データを保存しないという意味ではありません。法人向けのサービスは学習に使わないことを明記している一方で、不正利用の監視などのために一定期間は保存する、と別に定めている例があります。公式文書で確認できた例は、次のとおりです。
- OpenAI の API:送られたデータは学習に使わない一方、不正利用監視のために最大30日保存されることがある(API ドキュメント「Your data」、2026年9月17日確認)
- Google Cloud の Claude Fable 5.1:すべてのプロンプトと応答が、利用規約違反の監視だけを目的に最大30日保存される(Google Cloud ドキュメント、2026年9月17日確認)
- Amazon Bedrock:Claude Fable 5/5.1 はすべての通信が、一部の OpenAI 系モデルは分類器が検知した通信が、不正利用の検知のために最大30日保持される(AWS の技術文書、2026年9月17日確認)
- Microsoft Foundry(Azure OpenAI):人が確認するためのデータの保管先は、利用者のリソースと同じ地理区域とされる(Microsoft Learn、2026年9月17日確認)
保存期間と保存場所は、学習の有無とは別の項目として書かれていることが多く、3つを分けて読むことになります。学習に使わない設定をしても、監視用の保存が国外で行われる場合があります。見るべきは、何日保存されるのかと、その保存先がどの地域なのかという2点です。国内リージョンを選んだつもりでも、監視用の保存先が別の地域という書き方になっていないかを確かめましょう。
個人情報の観点では、個人情報保護委員会が2023年6月2日の注意喚起で、個人データを含むプロンプトを入力する場合は、提供事業者がそのデータを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めています。学習の設定そのものの手順は、ChatGPTに学習させない方法をご覧ください。
ChatGPTで日本に置けるもの・置けないもの
ChatGPTで会話やファイルを日本に保存できるのは、APIの対象顧客と、新しく契約するChatGPT Enterprise/Eduです。OpenAIの公式ヘルプ「Data residency and inference residency for ChatGPT」には、保存の対応地域として日本を含む10の国・地域が並んでいます。Enterprise/Eduでは追加料金なしで使えると書かれています。一方、個人向けの無料版・Go・Plus・Proは、料金ページの比較表でデータレジデンシーの行がいずれも「いいえ」です。Businessは、ヘルプの対象の記載にEnterprise/Eduとだけあり、Businessの名前は挙がっていません。
推論を地域内に限る機能は、日本が対象外
推論を地域内に限るinference residencyの対応地域は、2026年9月28日時点で欧州(EEA+スイス)・米国・アラブ首長国連邦の3つだけとなっています。日本で選べるのは保存までで、推論を日本に限る設定は用意されていません。日本の会社がEnterpriseで日本保存を選んだ場合、保存は日本、回答を作るGPUでの処理は日本とは限らない、という組み合わせになります。推論の地域内処理は、同じ地域で保存の設定が有効になっていることが前提とされています。
日本に保存される対象と、地域外に置かれうるもの
地域内に保存される対象として、ヘルプに挙がっているのは次の6つです。
- ChatGPTのメモリー
- Code Interpreter やデータ分析で作られたファイル
- 会話(テキスト・画像・音声)
- カスタムGPT
- アップロードしたファイル
- 画像生成の入力と出力
反対に、地域外で保存・処理されうるものとして、Web検索やアプリ・MCPなど外部連携を通じた処理、サービスの動作に必要な一時的な処理、ワークスペースの名前やメタデータ、請求情報、ユーザーのログイン情報が挙げられています。今後追加される新しい機能は、この一覧に載るまではデータレジデンシーの対象にならないとも明記されているため、新機能を使い始める前に一覧を見直すことが大切になります。
Web検索と外部アプリ連携は、地域外になりうる
見落としやすいのは、Web検索や外部アプリとの連携を有効にしている場合です。OpenAIの日本語ヘルプでは、接続したサードパーティのサービスに送った情報は、保存・処理・データレジデンシーについて、そのサービス提供元の条件で扱われると説明されています。データレジデンシーが有効なワークスペースで新しい同期接続を使える地域として、Google Drive・SharePoint・Microsoft Teamsには日本が含まれていますが、ほかのアプリすべてが日本で完結するという意味ではありません。社内の規程で国内保管を求めているなら、Web検索や外部アプリを誰に許可するかも、保存場所と一緒に決めておきたいところです。
既存のワークスペースは後から切り替えられない前提で考える
OpenAIの発表とヘルプが日本での保存の対象としているのは、新規のEnterprise/Eduの顧客と、新しいワークスペースに限られます。既存のワークスペースを後から日本の保存に切り替える方法は、確認した公式文書には書かれていません。すでにEnterpriseを使っている会社は、切り替えられない前提で計画を立て、OpenAIの担当者に個別に確認してみてください。
もう1つの副作用は、カスタムGPTの共有範囲です。データレジデンシーを有効にしたワークスペースでは、GPTの共有設定を「全員(Anyone)」にできず、共有したGPTを使えるのは同じデータレジデンシー地域のユーザーだけになります。対応していない機能として、Apple Intelligence、ベータ版などの一般提供前の機能、サードパーティのGPT、Codex Web(アプリとCLIは対応)、ChatGPT Sitesも挙がっています。社外の取引先とGPTを共有している会社は、日本保存を選ぶ前に運用を見直す必要が出てきます。
設定画面で、日本になっているかを確かめる手順
自社のワークスペースがどの地域に保存しているかは、管理画面で確かめることが出来ます。ヘルプに書かれている手順は次のとおりです。
- 確認したいワークスペースに切り替える
- プロフィールメニューを開き、Workspace settings を選ぶ
- General を選ぶ
- 組織IDとワークスペースIDが並ぶ欄で、Data Residency Region の表示を見る
- Inference Residency Region が表示されていれば、推論の地域も同じ欄で見る
※画面の項目名は、OpenAIのヘルプ英語版の表記です(2026年9月28日確認)。日本語表示の画面では訳語が異なる場合があります。
この欄に表示されるのは設定済みの地域で、ここから地域を変えることは出来ないとヘルプに書かれています。表示が日本になっていない場合は、会話が日本に保存されていないものとして扱い、OpenAIの担当者に確認しましょう。Enterpriseの契約の仕組みは、ChatGPT Enterpriseとはで整理しています。
地域の表示や設定の確認を社員任せにせず、使う環境を会社で1つにまとめる方法もあります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
主要サービス別|日本に置けるものの一覧
主要な法人向けのサービスを、保存と推論に分けて並べると次のようになります。
| サービス | 保存を日本に置けるか | 推論を日本に限れるか | 確認した公式文書 |
|---|---|---|---|
| ChatGPT Enterprise/Edu | 置ける(新規の顧客・新しいワークスペース。追加料金なし) | 限れない(推論の地域内処理は欧州・米国・UAEのみ) | OpenAI ヘルプ「Data residency and inference residency for ChatGPT」 |
| ChatGPT 無料版・Go・Plus・Pro | 置けない(比較表で「いいえ」) | ― | ChatGPT 料金ページ |
| Microsoft 365 Copilot | 日本でサインアップしたテナントは、やり取りの内容を日本の地域に保存 | 文書に推論の場所の記載なし | Microsoft Learn(Microsoft 365 Copilot のデータ所在) |
| Google Workspace(Gemini を含む) | 置けない(データリージョンは米国・EU・指定なしの3択) | ― | Google Workspace 管理者ヘルプ |
| Claude API(Anthropic と直接契約) | ワークスペースの地域は現在 us のみ | 指定できるのは us と global のみ | Claude API ドキュメント「Data residency」 |
| Amazon Bedrock(Claude) | ― | 東京・大阪からは、モデルによって Global のみのものと Geo に対応するものがある | Amazon Bedrock のモデルカード |
| Microsoft Foundry(Azure OpenAI を含む) | ― | データゾーンは米国・EU・アジア太平洋で、日本だけの区域はない | Microsoft Learn(デプロイの種類) |
| Google Cloud(Claude Fable 5.1) | ― | 提供地域・処理地域に東京の記載なし | Google Cloud ドキュメント |
※ChatGPT・Microsoft 365 Copilot・Google Workspace・Claude API・Microsoft Foundry は2026年9月28日、ChatGPT 料金ページは2026年9月16日、Amazon Bedrock と Google Cloud は2026年9月17日に、各社の公式ヘルプ・技術文書で確認した内容です。「―」は確認した文書に記載がない項目です。提供地域は変わることがあるため、契約前に最新の文書で確かめてください。
Microsoft 365 Copilot:日本のテナントはやり取りの内容を日本に保存
Microsoftの技術文書には、Microsoft 365 Copilotとのやり取りの内容と、それに関連する索引(セマンティックインデックス)は、該当する地域に保存時のデータとして置かれると書かれています。対象となる条件には、テナントのサインアップ国・地域として日本を含む17の国・地域が並びます。ただし、この文書が述べているのは保存場所で、推論がどこで動くかは書かれていません。Advanced Data Residency(ADR)というアドオンに関する条件も同じページにあるため、自社のテナントがどの条件にあたるかは、管理者の方がページの記載と照らし合わせてみてください。
Google Workspace:データリージョンに日本の選択肢はない
Google Workspaceのデータリージョン機能で選べる保存場所は、米国・欧州連合(EU)・指定なしの3つで、日本は選択肢に入っていません。この機能を使えるエディションも、Business Standard・Business Plus・Enterprise Standard・Enterprise Plusなどに限られます。より細かい詳細設定(Frontline Plus・Enterprise Plus・Enterprise Essentials Plus が対象)を有効にすると、Gemini in Workspaceで画像の生成と編集が使えなくなり、Geminiで作るスライドやドキュメントは文字だけになるとGoogleのヘルプに書かれています。データの置き場所を優先すると、使える機能が減る場合があるという例です。
Claude:製品紹介ページと技術文書で、書かれている範囲が違う
AnthropicのClaudeは、製品紹介のページと開発者向けの技術文書で、書かれている範囲が異なります。同社の製品紹介ページには、日本を含むアジア太平洋の地域でデータレジデンシーを提供すると書かれています。一方で API の技術文書によると、推論の地域として指定できるのは us(米国)と global(どこでも)の2つだけで、既定値は global です。ワークスペースの地域も現在は us のみで、作成後は変更できないと記載されています。製品紹介ページは同社の説明、技術文書は実際の設定項目の説明と読み分け、Claude.ai の Team・Enterprise で日本に保存できるかは契約前に個別に確かめることになります。
Amazon Bedrock:同じサービスでもモデルによって国内で完結できるかが違う
Amazon Bedrockでは、同じClaudeでも、モデルによって東京(ap-northeast-1)と大阪(ap-northeast-3)から使える推論の方式が変わります。2026年9月17日時点のモデルカードでは、Claude Fable 5.1・Opus 5・Sonnet 5・Opus 4.6は、国内で完結させるIn-Regionにも、地域内に留めるGeoにも対応しておらず、世界中のリージョンに振り分けるGlobalだけが使えます。Sonnet 4.6とHaiku 4.5はGeoに対応し、Haiku 4.5は一部の方式で東京のIn-Regionにも対応しています。同じBedrockのClaudeでも、国内で完結できるかはモデルごとに違います。
AWSは2025年10月に、東京と大阪の間で振り分ける日本向けの推論プロファイル(Claude Sonnet 4.5・Haiku 4.5 が対象)を発表しました。現在どのモデルで使えるかは、モデルカードで確かめるのが確実でしょう。地域内に留める方式は料金が上がる点も知っておきたいところで、AWSの料金表ではClaudeのGeo/In-Regionの単価がGlobalの1.1倍となっています。モデル別の単価はAmazon Bedrockの料金をご覧ください。
Microsoft Foundry(Azure OpenAI):データゾーンに日本だけの区域はない
MicrosoftのFoundry(Azure OpenAIを含む)は、デプロイの種類によって処理される場所が変わります。Globalの種類はどのAzureリージョンでも処理されうる、データゾーンの種類は米国・EU・アジア太平洋(APAC)のいずれかの区域の中で処理する、と技術文書に書かれています。日本だけのデータゾーンはないため、日本の中で処理させたい場合はリージョンを指定するStandardなどの種類を選び、そのモデルが日本の地域で提供されているかを個別に確かめることになります。新しいモデルはまずGlobal Standardで提供され、それ以外の種類での提供は保証されないという説明もあり、国内指定で使えるまでに時間差が出ることがあります。
Google Cloud:Claude Fable 5.1の処理地域に東京の記載はない
Google CloudでClaude Fable 5.1を使う場合、2026年9月17日時点のドキュメントでは、提供地域は米国・欧州のマルチリージョンとグローバルエンドポイントで、東京リージョンの記載はありません。Geminiを含むほかのモデルの処理地域は、モデルごとのページで確かめる必要があります。同じ提供元のクラウドでも、モデルが変われば答えが変わると考えておくのが安全です。
グローバル設定のまま使うと推論が海外に出ることがある
国内リージョンに対応したサービスでも、既定の設定やエンドポイント設定のまま使うと、推論が海外で動くことがあります。開発会社に社内ツールを作ってもらう場合や、情シスの方がAPIをつなぐ場合に起きやすいのが、次の3つの落とし穴です。
Claude APIは、推論の地域の既定値が global
Claude APIの推論の地域は既定値が global で、技術文書では性能と可用性のために利用可能などの地域でも推論が動きうる、と説明されています。us を指定しない限り、処理の場所は提供元に任される形となります。なお、Amazon BedrockやGoogle Cloud経由で使う場合は、推論の地域はエンドポイントのURLや推論プロファイルで決まるとも書かれています。
Bedrockは、世界中に振り分けるGlobalが安く選ばれやすい
Bedrockのクロスリージョン推論には、米国やEUなど特定の地理区域に結びついた推論プロファイルと、世界中に振り分けるグローバルプロファイルがあります。AWSの比較表では、グローバル側を約10%の節約、コストを抑えることを優先する組織向けと説明しており、費用だけを見て選ぶと推論は国外になりえます。データの所在に規制がある組織には地理区域側が向く、とAWS自身が書き分けています。安い方を選ぶと、推論の場所を国内に限れなくなります。
FoundryのGlobalデプロイは、どのリージョンでも処理されうる
Foundryでも、Globalのデプロイはどのリージョンでも処理されうる種類です。管理画面でリソースを東日本などに作っていても、デプロイの種類がGlobalなら処理の場所は限定されません。開発会社に社内ツールを作ってもらうときは、どのデプロイの種類や推論プロファイルを使っているかを、納品物の説明に書いてもらいましょう。見た目の画面が同じでも、裏でどの経路を使っているかは設定を見ないと分からないため、担当者が交代しても追えるように記録を残しておくことが大切になります。
ログ管理と監査ログ、アクセス制御と権限をどう持つか
国内にデータを置く目的が取引先への説明にあるなら、置き場所と同じくらい、利用の記録を会社側で持てるかが重要になります。記録と権限の2つを、置き場所とあわせて確かめていきます。
ログ管理と監査ログは、誰がどこで持つかまで確かめる
生成AIのログには、提供元がサービスを守るために持つログと、会社が監査のために持つログの2種類があります。前者は先に見たとおり、保存の国内指定の対象外とされることがあるものです。後者は、誰が・いつ・どのAIを・どう使ったかを管理者が見られるかどうかで、会社の説明責任に直結します。監査に使うログを確かめるときは、次の4点を見ておきましょう。
- ログの保存場所(国・事業者)会話本文を国内に置いても、利用ログが国外にあれば、取引先への説明が分かれてしまいます。
- ログの保存期間社内規程の保管年数に足りるか、期間を過ぎると自動で消えるのかを確認します。
- 書き出しの形式CSVなどで取り出せるか。問い合わせを受けたときに、必要な期間だけ抜き出せるかを見ます。
- ログを見られる人管理者のうち誰が閲覧できるか。閲覧そのものの記録が残るかも確かめます。
会話本文だけを国内に置き、利用の記録が別の国に置かれていると、国内で管理していると言い切れない状態となってしまいます。置き場所の説明と記録の説明を、同じ資料の中でそろえておけるかを基準に考えてみてください。
アクセス制御と権限の設計:設定を変えられる人を絞る
データの置き場所や推論の経路は、管理者の設定ひとつで変わりうるものです。Microsoft Foundryでは、Entra IDで推論だけを行える役割(Cognitive Services OpenAI User)と、デプロイを作成・編集できる役割が分かれていると技術文書に書かれています。ChatGPTでは、外部アプリの利用可否を、Businessはワークスペース全体で、Enterprise/Eduは役割ごとに管理者が決める形です。設定を変えられる人を少数に絞り、変更したときは日付と理由を記録しておきましょう。使わせるAIや機能を部署ごとに制限できるかどうかも、選ぶ際の確認項目になります。
個人アカウント(シャドーAI)には国内の設定が届かない
会社がEnterpriseなどで日本保存を選んでも、社員が個人のアカウントで使った分には、その設定は及びません。ChatGPTの個人向け4プランは、料金ページの比較表でデータレジデンシーが「いいえ」です。Geminiアプリの個人アカウントでも、アクティビティの保存をオフにしたチャットは72時間アカウントに保持されると、Googleのプライバシーハブに書かれています。個人アカウントで使われた分は、会社の国内設定の外に出てしまいます。
会社が把握していない生成AIの利用は野良AI(シャドーAI)と呼ばれ、国内に置くための設定をどれだけ整えても、この経路のデータは会社の管理の外に置かれることになります。全体像は野良AI(シャドーAI)とは、社内での実態のつかみ方は野良AIの見つけ方で解説しています。禁止するだけでは利用が見えにくくなるため、同じことが出来る環境を会社側で用意することが近道です。
ISMAP登録や業界のガイドラインとの関係
ISMAPは、政府が求めるセキュリティ要求を満たすクラウドサービスをあらかじめ評価・登録する制度で、国家サイバー統括室の説明では令和2年6月に運用が始まっています。制度の目的は政府機関等のクラウドサービス調達における水準の確保とされ、民間企業に登録サービスの利用を義務づける制度としては説明されていません。登録されているかどうかは、ISMAPクラウドサービスリストで確かめることが出来ます。取引先に官公庁や自治体があり、その要件が契約で求められる場合は、要件の原文を発注元から受け取って照らし合わせてください。
ガバメントクラウドや自治体向けの要件は、この記事では扱っていません。国内リージョンを選べばそうした要件を満たせる、とは限らない点に注意が必要です。
業界のガイドラインの例として、厚生労働省「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」第7.0版の企画管理編は、医療情報の外部保存を委託する際、保存した情報を置く機器が国内法の適用と執行の及ぶ範囲にあることを確実にするよう求めています。生成AI向けに書かれた規定ではないものの、医療機関が生成AIに患者の情報を入れる場面では、この考え方を当てはめて確認することになります。業界ごとの規程がある会社は、置き場所の要件が保存・推論・ログのどの層を指しているのかを、規程の担当部署と一緒に読み解いてみましょう。
保存も推論も国内で完結させたいときの選択肢
保存・推論・ログのすべてを国内に置きたい場合、海外の大手サービスの日本リージョンだけでは条件を満たせないことがあります。そうしたときは、国内のクラウドで動く生成AIの基盤を使う方法と、国内で開発されたモデル(国産LLM)を自社の環境で動かす方法が候補になります。こうした構成は、国内完結型のAI基盤やソブリンAIと呼ばれることもあります。
国内クラウドの生成AI基盤:モデルの実行と通信を国内で完結
さくらインターネットの「さくらのAI Engine」は、モデルの実行と通信をすべて国内クラウドで完結させる、と製品ページで説明しています。同じページのよくある質問では、入力データと生成された応答は国内のデータセンターで処理され、入力データが学習やサービス改善に使われることもないとされています(いずれも同社の説明、2026年10月16日確認)。2025年12月からはNECの国産LLM「cotomi v3」も提供されており、申請してモデル提供元の承認を受ければ選ぶことが出来ます。ただし提供されるのはAPIなので、社員がチャット画面で使うには、その画面を別に用意することになります。
国産LLMを自社の環境で動かす:tsuzumi 2・cotomi
NTTは2025年10月20日に「tsuzumi 2」の提供を始め、1GPUで動く軽量なモデルなのでオンプレミスやプライベートクラウドで運用できる、と発表しています。NECの「cotomi」は、専用ハードウェア・データセンター・APIサービスなど要件に合わせた提供形態がある、というのが自治体向けページでの同社の説明です。社内のサーバーで動かす形を選べば、保存・推論・ログのすべてを自社の管理下に置くことが出来ます。性能についての説明はどれも各社の発表で、第三者が検証した結果ではない点には気を付けてください。cotomiの料金の考え方はcotomi(NEC)の料金とできることで、自社で動かすときに要るGPUや費用はローカルLLMとはで確かめることが出来ます。
国内完結を選ぶ前に比べておきたいこと
国内完結の構成にすると、データの置き場所を取引先や監査に説明しやすくなります。一方で、使えるモデルはChatGPTやClaudeの最新モデルとは別のものであることが多く、自社で動かす場合はGPUの用意や保守の手間も加わります。すべての業務を国内完結にそろえるより、患者の情報や顧客の機密のように置き場所の要件が厳しい業務だけを国内完結の環境に回し、それ以外は法人向けサービスの日本保存で使う、という分け方が現実的な選び方になるでしょう。
契約前に提供元へ聞く質問のひな形
提供元の資料だけで判断がつかないときは、次の質問をそのまま送ってみてください。答えが保存・推論・ログのどれについての話かを分けて返してもらうのがコツとなります。
【データの置き場所についてのご質問】 1. 会話の本文とアップロードしたファイルは、保存時にどの国・地域のデータセンターに置かれますか。バックアップと複製も同じ地域でしょうか。 2. 回答を作る処理(推論)は、どの国・地域で行われますか。日本に限定する設定はありますか。ある場合、追加の料金はかかりますか。 3. ログイン履歴・請求情報・利用統計・内容を含まないログは、どの国・地域に保存されますか。 4. 入力内容を学習に使わない設定は、全利用者に一律で適用されますか。 5. 不正利用の監視などのために入力内容を保存する期間と、その保存先の地域を教えてください。 6. Web検索や外部サービスとの連携を使った場合、データはどの事業者のどの地域で処理されますか。 7. 利用中の環境を、後から日本での保存に切り替えることはできますか。 8. AIモデルを、どの事業者のどのリージョン経由で呼び出していますか(再委託先を含めて教えてください)。 9. 管理者は利用ログを見られますか。ログの保存場所・保存期間・書き出しの形式を教えてください。 10. 上記の条件が変わる場合、事前の通知はありますか。
回答はメールや書面で受け取り、確認した日付と一緒に保管しておきましょう。条件は提供元の都合で変わることがあるので、年に1回など見直す時期を決めておくと安心です。可能であれば、保存地域と保存期間を見積書や契約書の条件に書いてもらえるかも聞いてみる価値があります。
会社で安全に使うには|置き場所の次に決める4つ
データの置き場所で選ぶなら、国内でログを管理できる環境かを確かめることが、次の一歩となります。置き場所がはっきりしても、社員が安全に使える状態になるには、あと4つの準備が要ります。
学習させない設定を、会社として全員にかける
1つ目は、入力内容を学習に使わない設定を、社員ごとではなく会社として一律にかけることです。個人の設定に任せると、1人の設定漏れがそのまま情報の出口になってしまいます。
利用ログを、国内で会社側が持つ
2つ目は、誰がいつどのAIを使ったかを、会社側が国内で見られる状態にすることです。取引先から問われたときに、置き場所とあわせて利用の記録を示せるかどうかが、説明の説得力を左右します。
使う環境を、社員全員に配る
3つ目は、使う環境を一部の人ではなく全員に配ることです。配られなかった方が個人のアカウントで使い始めると、先に見たとおり国内の設定は届かなくなります。1人ごとの月額で課金されるサービスでは、全員に配ると人数分の費用がかかり、配る範囲を絞りたくなるのが実情でしょう。人数別の費用はChatGPT Businessの料金で試算しています。
複数のAIを、用途と機密度で使い分ける
4つ目は、用途に合わせて複数のAIを使い分けられるようにすることです。ここまで見たとおり、国内で完結できるかはサービスやモデルごとに違うため、機密度の高い仕事は国内で処理できる経路のAI、それ以外は性能で選ぶ、といった使い分けが考えられます。複数のAIを1つの環境で使う方法はマルチAIとはで整理しており、社内ルールは生成AIの社内ガイドラインの作り方、点検項目は生成AIセキュリティチェックリストにまとめています。
会話とログは日本リージョンで管理。4つのAIを1つの契約で
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。全モデルで学習非利用を標準適用し、基盤はAWSの日本リージョンで稼働。会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理し、AIモデルごとの接続経路はサービスページで確認できます(各AIモデル側での入力データの扱いは、各提供元の仕様に従います)。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
生成AIの国内リージョンとは何ですか?
ChatGPTのデータを日本に保存できますか?
日本リージョン対応と書かれていれば、データは国外に出ませんか?
学習に使わない設定なら、データは保存されませんか?
すでに使っているChatGPT Enterpriseを日本保存に切り替えられますか?
保存も推論も日本国内で完結できる生成AIはありますか?
中小企業でもISMAPに登録されたサービスを選ぶ必要がありますか?
まとめ
生成AIのデータを国内に置けるかという問いには、保存・推論・ログの3つで答えが変わります。法人向けの一部のプランでは会話やファイルを日本に保存できますが、推論やログイン情報、請求情報は国外で扱われることがあります。ChatGPT Enterprise/Eduは日本での保存に対応する一方、推論を地域内に限る機能の対象に日本は入っておらず、Google Workspaceのデータリージョンには日本の選択肢がありません。
Amazon BedrockやMicrosoft Foundryのように、同じサービスでもモデルや設定によって国内で完結できるかが変わるものもあります。確かめるときは、公式の技術文書と設定画面を見て、分からない点は質問のひな形で提供元に聞いてみてください。置き場所を決めたら、学習の設定、国内でのログ管理、全員への配布、複数AIの使い分けまでを会社として整えることが、安全に使うための道筋となります。ほかの記事はAI活用コラム一覧からご覧いただけます。
