
ホテルのAI活用とは、チャットボット・顔認証・価格設定・清掃管理などの設備やシステムにAIを組み込むことと、ChatGPT・Claude・Geminiなどの生成AIで口コミ返信や多言語の案内文を下書きし、事務の手間を減らすことの両方を指す言葉です。設備投資を伴わずに始められるのは後者で、その前提として、宿泊者の個人情報を入れない線引きと、人が確認してから宿泊客に出す手順を先に決めておく必要があります。この記事では、ホテルで使われるAIの種類を整理したうえで、生成AIで減らせる事務の一覧、多言語の口コミ返信プロンプトの例、実名の活用事例5件、宿泊者情報の線引き、社内ルールのひな形、費用の考え方までを、支配人・本部の担当者向けにまとめます。
※本記事の統計・事例・法令の記述は2026年9月17日に、料金は2026年9月16日に、各公式ページ・一次資料で確認した内容です。
ホテルでAI活用が求められる背景|人手不足とインバウンド
ホテルでAIが検討される背景には、人手不足と、年によって増減する訪日客への対応を、限られた人数で回さなければならない状況があります。
帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査(2026年4月)」(調査期間2026年4月16日〜30日、対象2万3,083社・有効回答1万538社、回答率45.7%、2026年5月19日公表)では、旅館・ホテルで非正社員が不足していると答えた企業の割合は38.5%でした。同社は、旅館・ホテルの非正社員の人手不足割合が3割台になったのは2022年2月以来、4年2カ月ぶりとしています。不足感は以前より和らいでいるものの、全業種計の非正社員の割合(28.3%)を10ポイント以上上回っています。なお、全業種計の正社員の割合は50.6%です。同社は改善の背景として、DXやスポットワークの普及による生産性向上のほか、物価高の影響や中国人観光客の減少で来客数が落ち着いてきていることを挙げています。
訪日客の数は大きく伸びてきました。日本政府観光局(JNTO)の推計では、2025年の訪日外客数は4,268万3,600人で、前年比15.8%増でした(2026年1月21日公表)。観光庁「宿泊旅行統計調査」の2025年年間値(速報値、2026年2月27日公表)では、外国人延べ宿泊者数が1億7,787万人泊(前年比8.2%増)、日本人延べ宿泊者数が4億7,561万人泊(同3.8%減)、全体では6億5,348万人泊(同0.8%減)です。宿泊全体に占める外国人客の比重が高まっていることがわかります。
一方で、2026年に入ってからは前年を下回る月も出ています。観光庁が2026年8月31日に公表した宿泊旅行統計調査では、2026年7月(第1次速報)の延べ宿泊者数が5,467万人泊(前年同月比3.5%減)、うち外国人延べ宿泊者数が1,358万人泊(同4.6%減)、客室稼働率は60.8%でした。2026年6月(第2次速報)は、延べ宿泊者数4,582万人泊(同8.4%減)、外国人延べ宿泊者数1,222万人泊(同14.0%減)です。
※観光庁は、宿泊旅行統計調査の2026年1月分から、調査対象を選ぶ際の層化の基準を客室数に変更したと注記しています。前年の数字と比べる際は、この変更を踏まえて読む必要があります。2026年7月の数字は第1次速報の値です。
訪日客が増える局面でも減る局面でも、少ない人数で多言語の問い合わせや口コミに応える業務はなくなりません。客数が落ちた月ほど、口コミや問い合わせへの丁寧な対応が次の予約を左右します。人手不足とインバウンドの2つが、ホテルのAI活用を考える出発点になるのはこのためです。
ホテルで使われるAIの種類|設備型AIと生成AI
ホテルのAIは、機器やシステムに組み込まれて特定の業務を自動化する設備型と、文章を作る汎用の生成AIに大きく分かれ、始め方と費用のかかり方がまったく違います。
ここでは設備型の代表的な4つを、一般的な仕組みの範囲で整理します。個々の製品の性能や削減効果は製品ごとに異なるため、提供元の発表と見積もりで確認してください。
AIチャットボットとAIコンシェルジュ
公式サイトやLINE、客室のタブレットで、宿泊客の質問に自動で答える仕組みです。従来は、あらかじめ用意したQ&Aの中から選んで答えるシナリオ型が中心でした。生成AIを組み込んだ型では、施設のホームページやFAQを参照して文章で答えるものもあり、後の事例の節で紹介する函館大沼プリンスホテルが導入したAIナレッジ基盤がこの流れに当たります。
向いているのは、チェックイン時刻、駐車場、朝食会場、周辺の交通など、答えが決まっていて件数の多い質問です。一方で、料金の例外、アレルギー対応、キャンセルの交渉のように施設側の判断が要る質問は、人に引き継ぐ設計が欠かせません。電話やメールの一次対応をAIで受ける考え方は、コールセンターのAI活用も参考になります。
セルフチェックインと顔認証
自動チェックイン機やスマートフォンで宿泊客自身が手続きを行い、本人確認に顔認証を組み合わせる仕組みです。フロントの待ち時間を減らしたり、深夜帯の人員配置を見直したりする目的で導入されます。
注意したいのは、顔画像や、そこから作られる顔の特徴のデータを扱う点です。何のために撮影し、いつまで保存し、どう削除するかを、提供元との契約と宿泊客への案内の両方で説明できるようにしておく必要があります。機械の操作に慣れない宿泊客のために、有人の窓口をどの時間帯に残すかも、導入前に決めておきます。
レベニューマネジメント(価格の最適化)
レベニューマネジメントとは、需要に応じて客室の販売価格や販売枠を調整し、収益を高める考え方です。AIを使うレベニューマネジメントシステム(RMS)は、過去の予約の動き、曜日や季節、周辺のイベント、競合施設の価格などのデータをもとに、価格の案を出します。
担当者の経験に頼っていた値付けを、データで補えるのが利点です。ただし、提案された価格を自動で反映させるか、担当者が承認してから反映させるかは、製品の仕様と運用の決め方によります。ブランドの価格帯を崩さないための下限と上限を決めておくことが前提になり、予約システムとつながっていなければ、提案された価格を手で入力し直す作業が残ります。
清掃・館内管理のAI活用
清掃や館内管理では、清掃ロボット、客室の清掃状況を管理するシステム、カメラの映像から混雑や設備の異常を知らせる仕組みなどにAIが使われます。清掃の進み具合をフロントと共有できれば、アーリーチェックインを受けられるかどうかを早く判断しやすくなります。
カメラを使う仕組みでは、宿泊客や従業員が映り込むため、設置場所の案内と映像の保存期間を決めておく必要があります。ロボットは段差やエレベーターとの連携など建物の条件に左右されるため、導入前に実際の館内で試しておくと、想定外の手戻りを減らせます。
設備型AIと汎用の生成AIの違い
2つの違いは、何を買うかにあります。設備型は業務ごとに製品を選んで導入し、生成AIは文章を作る道具を契約して、使い道を施設側で決めます。
| 比べる点 | 設備型AI(顔認証・RMS・清掃ロボットなど) | 汎用の生成AI(ChatGPT・Claude・Geminiなど) |
|---|---|---|
| 何を自動化するか | チェックイン、値付け、清掃など特定の業務 | 文章の下書き・翻訳・要約など、部署をまたぐ作業 |
| 始めるまでに必要なこと | 製品の選定、見積もり、機器の設置や既存システムとの連携 | サービスの契約と、入れてよい情報のルールづくり |
| 費用のかかり方 | 製品・客室数・連携の範囲によって大きく異なる | 利用者ごとの月額が多い(会社単位の定額のサービスもある) |
| 宿泊客から見た変化 | チェックインや問い合わせの流れそのものが変わる | 人が確認してから出すため、接客の流れは変わりにくい |
| やめるときの戻しやすさ | 機器や契約が残るため戻しにくい | 使うのをやめれば元の手順に戻せる |
| 向く施設 | 客室数が多く、同じ手続きが大量に発生する施設 | 規模を問わず、文面の作成に時間を取られている施設 |
どちらが優れているかではなく、順番の問題です。問い合わせや口コミ対応の文面を生成AIで整えていくと、どの質問が多いか、どの言語の対応に時間がかかっているかが見えてきます。その結果をもとにチャットボットに載せる内容や設備投資の対象を決めれば、無駄の少ない導入につながります。
生成AIで減らせるホテルの事務一覧
生成AIで減らしやすいのは、毎日発生し、型はあるのに毎回少しずつ書き直している文面の作業です。部署ごとに、機器を入れずに試せるものを挙げます。
- 予約の問い合わせメールへの返信(予約係)英語・中国語・韓国語などで届いた問い合わせの要旨を日本語に訳し、返信の下書きを相手の言語で作ります。料金や空室は、予約システムで確認した事実だけを人が書き足します。
- Googleや予約サイトの口コミへの返信(支配人・フロント)口コミの言語に合わせて返信文を下書きします。指示文の例は次の節で紹介します。
- 館内・周辺の案内文(フロント・営業)朝食会場、大浴場の利用時間、最寄り駅からの行き方などの案内を、日本語の原文から多言語に展開します。
- 求人票とスカウト文(人事)仕事内容、シフトの例、寮や食事の有無を箇条書きで渡し、読みやすい求人文に整えます。
- 会議の議事録と申し送り(支配人・各部門)朝礼やミーティングのメモから、決定事項・担当者・期限を抜き出して一覧にします。
- クレーム記録の要約(フロント・本部)経緯を時系列に並べ、事実と宿泊客の要望と施設の対応を分けて整理します。氏名や部屋番号は伏せてから入れます。
- 外国人スタッフ向けの社内文書(人事・現場リーダー)マニュアル、清掃のチェックリスト、シフトの連絡を、スタッフの母語に訳した版と、やさしい日本語の版で用意します。
- 複数施設の口コミ・日報の比較(本部)施設ごとの口コミや日報を要約し、共通する不満と施設固有の課題を分けて整理します。
どの作業にも共通する条件:生成AIの出力は下書きです。料金・空室・営業時間・アレルギー表示・キャンセル規定のように、誤ると宿泊客の損害につながる情報は生成AIに答えさせず、施設の正式な情報を人が確認して書き入れます。
外国人スタッフ向けの社内文書を多言語化する
外国人スタッフと一緒に働く職場では、社内文書の多言語化が生成AIの取り組みやすい使い方です。宿泊客に出す文面と違って社内で確認しながら直せるため、最初の練習にも向いています。進め方は次の5段階です。
- 日本語の原文を、主語と手順がはっきりした短い文に直す(清掃のチェックリストなら1行に1つの動作)。
- 生成AIに、やさしい日本語の版と、スタッフの母語の版の両方を作らせる。
- 部屋タイプ名、備品名、フロアの呼び名など施設内の固有名詞は、訳さずにそのまま残すよう指示する。
- その言語が読めるスタッフに、意味が通るかを確認してもらう。
- 確認済みの版を正本として保存し、原文を直したら訳文も作り直す。
シフトの連絡のように毎回変わる文面は、日本語で書いた連絡を生成AIで訳し、原文と訳文を並べて送ると、読み違いがあったときに双方で原文を確かめられます。スタッフの携帯番号や在留資格など、従業員の個人情報は入れません。
本部・支配人が複数施設の口コミを要約して比べる
複数の施設を運営する本部では、施設ごとに届く口コミや日報を、同じ観点で要約して並べる使い方ができます。現場の設備の話ではなく、本部の判断材料を早くそろえるための使い方です。
手順は、①口コミの本文だけを施設別に集め、投稿者名は外す、②清掃・接客・朝食・設備・立地・価格など、比べる観点を先に決めて指示する、③施設ごとに、良い評価と不満を観点別に要約させる、④複数施設に共通する不満と、1施設だけに集中する不満を分けて出させる、の4段階です。
生成AIが示す件数や傾向は目安であり、集計ツールの代わりにはなりません。気になる傾向が出たら、元の口コミを人が読み直して確かめます。長い文章の読み込みと表への整理で別のAIを使うなど、複数のAIを使い分ける方法はマルチAIの解説で紹介しています。
多言語の口コミ返信を生成AIで下書きするプロンプト例
口コミ返信は、施設の方針と伏せる情報を指示文に書き込んでおけば、言語が変わっても同じ水準の下書きを作りやすくなります。以下は、社内で共有して使える形の指示文の例です。
基本の指示文(言語を問わず共通)
指示文の例:
あなたは〇〇ホテルの支配人として、宿泊客の口コミに返信します。次の条件を守って返信文を作ってください。
・口コミと同じ言語で書き、あわせて日本語訳を付ける
・宿泊客の名前、部屋番号、宿泊日、同行者の情報は書かない
・口コミに書かれていない事実(原因、対応済みの内容、今後の改善策)を作らない。書くべき事実は【】の空欄にする
・料金、返金、補償の約束はしない
・長さは日本語で150〜250字程度、英語なら80〜120語程度
・最後に、また泊まりに来てほしいという一文を入れる
口コミ:(ここに口コミの本文を貼る。投稿者名は消してから貼る)
要になるのは、事実を作らせない一文と、空欄にさせる指示です。生成AIは、もっともらしい原因や改善策を書き足すことがあります。【】の空欄を人が埋める形にしておけば、実際には行っていない対応を公開してしまう事故を減らせます。
英語の高評価への返信
高評価への返信は、口コミの中で具体的に褒められた点に触れると、定型文に見えにくくなります。基本の指示文に続けて、次のように加えます。
追加の指示の例:
上の条件で、英語で返信してください。口コミで触れられているスタッフの対応と朝食について、それぞれ1文ずつ具体的にお礼を書いてください。口コミにスタッフの個人名があっても、返信ではフロント、レストランなどの部署名に置き換えてください。
低評価への謝罪(中国語・韓国語など)
低評価への返信は、言い訳に読める表現を避け、不快な思いをさせた点へのお詫び、施設が確認した事実、問い合わせ窓口の案内の3つに絞ります。
追加の指示の例:
上の条件で、簡体字の中国語で返信してください。お詫びは1回だけにし、【確認した事実】【改善の内容】は空欄のままにしてください。詳しい事情をうかがうため、施設の問い合わせ窓口に連絡してほしいという一文を入れてください。
韓国語やタイ語で返す場合は、言語の指定だけを変えます。読めない言語の返信を公開する前には、別の生成AIに日本語へ訳し戻させて、意図と違う表現がないかを確かめます。作ったAIとは別のAIで訳し戻すと、1つのAIの癖だけに頼らずに確認できます。
返信を公開する場所ごとの注意
Google ビジネス プロフィールのヘルプでは、口コミへの返信は審査を経てから企業からの返信として表示され、審査は通常10分以内、最長で30日かかる場合があると案内されています。予約サイトの管理画面から返信する場合は、各サイトの掲載ルールに従います。
指示文は、スタッフがそれぞれ書き換えて使うのではなく、施設で1つの版を保存して使い回すと、返信の口調がそろいます。改訂したら日付を残し、古い版が使われ続けないようにします。
ホテル・旅館と宿泊サービスの生成AI活用事例5件
国内のホテル・旅館でも、予約センターのメール返信、企画や文章の作成、宿泊客向けの案内に生成AIを使う事例が公表されています。ただし、事例の多くは導入したシステムの提供元(ベンダー)による発表で、成果の数字は発表した会社の説明です。ここでは出所の種類を分けて紹介します。
- 東急「TsugiTsugi」のAIコンシェルジュ(出所:東急の自社発表)
東急株式会社は2023年5月17日のニュースリリースで、定額制の宿泊サービス「TsugiTsugi」に、ChatGPTの技術を活用し、旅先や宿泊施設選びを相談できるAIコンシェルジュ機能「旅先こんしぇるじゅ」を導入すると発表しました。 - 星野リゾートの宿泊予約センター(出所:ベンダー発表)
カラクリは2024年8月6日のプレスリリースで、星野リゾートの全施設の宿泊予約センターが、生成AIを搭載したオペレーター支援ツール「KARAKURI assist」を導入したと発表しました。OMO・界・BEBの3ブランドでは、生成AIによる問い合わせメールの返信代筆を実践し、実用化を目指しているとされています。発表では、5,000を超える返信テンプレートを探す手間と、新人の早期戦力化が導入の背景に挙げられています。 - 星野リゾートのGemini活用(出所:Google公式ブログの顧客事例)
Google Workspaceの公式ブログ(2025年9月4日掲載)の顧客事例では、星野リゾートがGoogle WorkspaceのGeminiを、施設の魅力を高める企画づくり(同社の呼び方で「魅力造成」)の企画立案・文章作成・校正に活用し、この業務の作業時間が約30%削減されたと紹介されています。数字はGoogleが公開した顧客事例の記載で、第三者が検証したものではありません。 - 函館大沼プリンスホテル(出所:ベンダー発表)
アクティバリューズは2026年7月24日、函館大沼プリンスホテルが、ホームページやFAQを参照して回答するAIナレッジ基盤「talkappi KNOWLEDGE」を導入したと発表しました。発表に定量的な成果の記載はありません。 - JR西日本ホテルズ(出所:ベンダー発表)
ユーザーローカルは2025年7月2日、JR西日本ホテルズの統括会社であるジェイアール西日本ホテル開発(5ブランド13ホテル・4,422室を展開)に、法人向け生成AIサービス「ChatAI」の提供を開始したと発表しました。発表では全社的な生成AI活用の推進を掲げ、目的は、付加価値の高いおもてなしと、バック部門の業務効率化とされています。ChatAIの料金の条件や契約期間、データの扱いは「ユーザーローカル ChatAIの評判は?500円の条件・契約期間・データの扱い」で整理しています。
※各事例は2026年9月17日に発表元のページで確認した内容です。発表以降の運用状況や変更は含みません。
5件のうち3件(星野リゾートの2件とJR西日本ホテルズ)は、予約センターのメール、企画や文章の作成、バック部門の業務といった、スタッフの手元の作業を目的に挙げています。宿泊客に直接AIを接客させる前に、スタッフの文面づくりから使い始めるという順序は、中小規模の施設でもそのまま参考にできます。
ホテルがAIを使うメリットとデメリット
メリットは同じ人数で対応できる問い合わせや言語の幅が広がることで、デメリットは誤った情報や冷たく感じる対応が宿泊客に直接届くおそれがあることです。
メリット
- 対応できる言語が増える:スタッフが話せない言語の問い合わせや口コミにも、下書きを起点に返信できます。
- 文面の水準がそろう:施設共通の指示文を使えば、担当者の経験による差が出にくくなります。
- 新人が早く戦力になる:下書きが出ることで、書き出しに迷う時間が減ります。星野リゾートの予約センターの事例でも、新人の早期戦力化が導入の背景に挙げられています。
- 本部が施設の状況をつかみやすくなる:口コミや日報の要約で、施設ごとの違いを比べやすくなります。
- 設備型は人が張り付けない業務を補える:チャットボットは夜間の定型的な質問に、RMSはデータ量の多い値付けの判断に使えます。
デメリット
- 誤った情報を出すおそれ:生成AIは、営業時間や料金などをもっともらしく間違えることがあります。人の確認を省けば、誤りがそのまま宿泊客に届きます。
- 冷たい対応と受け取られるおそれ:定型的な返信や、人に代わらないチャットボットは、かえって不満を大きくすることがあります。
- 個人情報の取り扱い:ホテルは宿泊者名簿や顔画像など、慎重に扱うべき情報を多く持っています。入れてよい情報の線引きがないまま使えば、漏えいの経路になります。
- 費用と手間:設備型は導入と連携の費用がかかり、生成AIも契約の費用と社内ルールづくりの手間がかかります。
- 障害時の対応:システムが止まったときに、紙や有人の対応に戻す手順を用意しておく必要があります。
デメリットの多くは、使い方の決めごとで小さくできます。次の3つの節で、情報の線引き、社内ルール、確認の流れを順に説明します。
宿泊客のプライバシー保護|生成AIに入れない情報の線引き
生成AIを使うときの線引きは、宿泊者名簿に載る情報、健康や支払いに関わる情報、個人を特定できる組み合わせは入れず、固有の情報を伏せた文面だけを入れる、というのが基本です。
線引きを考えるうえで押さえておきたい資料は2つあります。1つは、個人情報保護委員会が令和5年(2023年)6月2日に公表した「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」です。事業者向けの注意として、本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答の出力以外の目的で取り扱われる場合は、個人情報保護法に違反する可能性があることが示されています。あわせて、個人情報を入力する場合は利用目的の範囲内であることを十分に確認すること、生成AIサービスを提供する事業者が、入力された個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認することを求めています。
もう1つは、旅館業法にもとづく宿泊者名簿です。旅館業法施行規則第4条の2は、記載事項を宿泊者の氏名・住所・連絡先のほか、国内に住所のない外国人の国籍と旅券番号、その他都道府県知事が必要と認める事項と定め、名簿は作成の日から3年間保存するとしています。名簿は法令にもとづいて集めて保存する情報のため、本記事の線引き表では生成AIに入れない扱いにしています。
| 情報の種類 | 生成AIへの入力 | 扱い方 |
|---|---|---|
| 宿泊者名簿の情報(氏名・住所・連絡先・国籍・旅券番号) | 入れない | 返信文では【お名前】などの空欄にし、送信前に人が書き入れる |
| クレジットカード番号などの支払い情報 | 入れない | 決済は決済システムの中だけで扱う |
| アレルギー・体調・障害・宗教上の配慮などの申告 | 入れない | 対応の可否は担当部署が個別に判断し、文面の型だけを生成AIで作る |
| 顔画像・防犯カメラの映像 | 入れない | 設備型の仕組みの中で、保存期間と削除の手順を決めて扱う |
| 部屋番号・宿泊日・同行者の構成 | 原則として入れない | 組み合わせると個人の特定につながるため伏せる |
| 口コミの本文 | 投稿者名などを消して入れる | 公開されている文章でも、名前や部屋番号が書かれていれば消してから入れる |
| 一般的な問い合わせの文面 | 固有の情報を伏せて入れる | 氏名・メールアドレス・予約番号を消し、質問の中身だけを入れる |
| 館内案内・FAQ・社内マニュアル | 入れてよい | 公表前の料金改定や取引条件が含まれる場合は、社内の判断に従う |
会社で契約する法人向けプランには、入力を学習に使わない扱いを標準にしているものがあります。たとえばOpenAIはChatGPT Businessの料金ページで「デフォルトではビジネスデータを学習に使用しません」と示しています。Anthropicは、Claude for Workなどの商用製品の入力と出力を、既定でモデルの学習に使わないとしています。Google Workspaceのヘルプでは、Workspaceのデータを許可なく生成AIや大規模言語モデルのトレーニングに使うことはないと説明されています。
一方で、ChatGPTやClaudeの個人向けプランは、学習への利用を利用者が設定で止める方式です。学習に使われない設定になっていても、宿泊者名簿の情報を入れてよいことにはなりません。線引き表は、どのサービスやプランを使う場合でも共通のルールとして扱ってください。情報が漏れる経路と対策の全体は、生成AIのセキュリティ対策チェックリストで点検できます。
フロントのスタッフがそれぞれのAIを使うと、宿泊客の情報がどこに入ったかを追えません。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
シャドーAIのリスクと、ホテル向け社内ルールのひな形
会社が使う環境を用意しないまま生成AIの便利さが広まると、スタッフが個人のアカウントや無料のアプリに予約客のメールを貼り付ける、いわゆるシャドーAI(会社が把握していないAIの利用)が起きやすくなります。
フロントや予約係は、読めない言語のメールが届いたその場で返事を求められることの多い職種です。手元のスマートフォンに入っている無料のAIに貼り付ければ、すぐに訳せます。本人に悪気はなくても、その文面に氏名や旅券番号、到着日時が含まれていれば、会社が設定も記録も確認できない場所に宿泊客の情報が渡ります。個人のアカウントでは、学習に使うかどうかは本人の設定次第で、会社からは利用の記録も見えません。
禁止だけでは解決しにくいのは、困っている業務がそのまま残るからです。会社として使ってよい環境を用意し、そこで何を入れてよいかを決めるほうが、見えない利用を減らしやすくなります。詳しくは野良AI(シャドーAI)の対策で解説しています。
ホテル向け社内AI利用ルールのひな形
以下は、社内の会議でそのまま議題にできる項目のひな形です。施設の規模や部署の数に合わせて、削ったり足したりして使ってください。
- 使ってよいAI会社が契約したサービスだけを業務に使う。個人のアカウントや無料のアプリに、業務の文面を貼り付けない。
- 入れてよい情報館内案内、FAQ、社内マニュアル、投稿者名を消した口コミの本文、固有の情報を伏せた問い合わせの文面。
- 入れない情報宿泊者名簿の情報、カード情報、アレルギーや体調の申告、顔画像や映像、部屋番号と宿泊日の組み合わせ、従業員の個人情報。
- 宿泊客に出す前の確認者口コミ返信は支配人または副支配人、多言語のメールは予約係の責任者、館内の掲示物は各部門の責任者が確認してから出す。
- 生成AIに答えさせないこと料金、空室、返金、補償、アレルギー対応の可否、法令に関わる案内は、施設の正式な情報を人が書く。
- 共通の指示文の管理口コミ返信や問い合わせ返信の指示文は施設で1つの版を保存し、改訂したら日付を残す。
- 迷ったときの相談先線引きに迷う情報は入れずに、あらかじめ指定した担当者に相談する。
- 見直しの時期半年に1回、または新しいAIサービスを使い始めるときにルールを見直す。
ルール文書全体の組み立て方は、生成AIの社内ガイドラインの作り方にまとめています。
生成AIの下書きを人が確認して宿泊客に出すフロー
誤った案内を防ぐには、生成AIの出力をそのまま宿泊客に出さず、作る人と確認する人を分け、施設の正式な情報と照らしてから送る流れを決めておくことが有効です。
- 入力の前に伏せる:問い合わせや口コミから、氏名・メールアドレス・予約番号・部屋番号を消す。
- 下書きを作る:施設共通の指示文を使い、事実が必要な箇所は【】の空欄にさせる。
- 事実を照らし合わせる:営業時間、料金、空室、アレルギー表示、キャンセル規定は、予約システムや館内の正式な資料で確認し、人が空欄を埋める。
- 訳し戻して確かめる:読めない言語の文面は、別のAIで日本語に訳し戻し、意図と違う表現がないかを見る。
- 確認者が承認する:ルールで決めた確認者が読み、問題がなければ送信・公開する。
- 指示文に反映する:何度も直した表現や、よく使う言い回しを共通の指示文に反映し、次の下書きの精度を上げる。
確認を省いてよい場面はありません。下書きを作る速さより、誤った案内を出したあとのお詫びと訂正のほうが時間がかかります。忙しい時間帯でも、空欄の埋め忘れと料金・時間の表記だけは必ず見る、と決めておくと運用が続きます。
導入手順とスタッフ教育
導入は、困っている業務を1つ選んで小さく試し、ルールと教育を整えてから対象を広げる順序で進めると、現場の負担が少なく済みます。
小さく始める5つの手順
- 困っている業務を1つ選ぶ:外国語の問い合わせ返信や口コミ返信など、件数が多く型のある業務から選ぶ。
- 今の状態を記録する:1件あたりにかかっている時間と、月の件数を控えておく。導入後に比べる基準になる。
- ルールを決める:入れない情報の線引きと確認者を決め、使うサービスを会社で契約する。
- 1〜2か月試す:少人数で使い、うまくいった指示文と、直しが必要だった例を集める。
- 広げるかを判断する:かかる時間の変化と、確認で見つかった誤りの件数を見て、対象の業務や施設を広げる。設備型AIの検討も、この結果を踏まえて行う。
スタッフ教育で伝えること
教育で伝えるべきなのは操作方法より、入れない情報と、確認してから出すという2つのルールです。操作は数回使えば覚えますが、ルールは説明しなければ伝わりません。
研修では、投稿者名を消した実際の口コミを使って返信の下書きを作る演習、別のAIで訳し戻して意味を確かめる練習、線引き表の読み合わせを組み合わせると、現場の業務に結びつきやすくなります。外国人スタッフが使う場合は、線引き表そのものも母語に訳して渡します。社内研修の組み立て方は生成AI研修の進め方で解説しています。
既存システム(PMS)との連携
PMS(宿泊管理システム)は、予約・客室・会計などを管理する、ホテル業務の中心になるシステムです。設備型のAIは、PMSや予約システムとつながっていないと、データを手で移す作業が残り、導入の効果が出にくくなります。導入前に、使っているPMSとの連携の実績があるか、連携に別の費用がかかるか、データがどちらの向きに流れるかを提供元に確認します。
汎用の生成AIは、PMSとつながなくても文面の作業に使えます。反対に、PMSの宿泊者情報を生成AIに自動で渡す仕組みを作る場合は、線引き表で入れないと決めた情報が流れ込まないかを、設計の段階で確認する必要があります。
導入費用の相場と考え方
導入費用は、設備型AIは製品・客室数・連携の範囲で大きく変わるため一律の相場では判断しにくく、汎用の生成AIは公式の料金ページで利用者ごとの月額を確認して計算できます。
設備型AIの費用
顔認証、RMS、清掃ロボットなどの費用は、機器の台数、客室数、PMSとの連携開発の有無、保守の範囲によって変わり、公的な統計のような相場はありません。見積もりは、客室数・連携するシステム・保守の範囲・契約期間という同じ条件を複数の提供元に伝えて取り、初期費用、月額、解約時の条件を並べて比べてください。
生成AIの費用
生成AIの法人向けプランは、利用者1人あたりの月額で課金するものが多くあります。OpenAIの料金ページでは、ChatGPT Businessの標準シートが、日本から表示した場合に月3,050円(年額課金の場合)、月3,850円(月額課金の場合)と表示され、従業員数2〜200名のチーム向けとされています。料金ページに税込か税別かの記載はありません。AnthropicのClaude Teamは、日本から表示すると消費税10%込みの米ドルで、スタンダードシートが年払い時に月22ドル、月払い時に月27.50ドルです。
仮にフロントと予約係の10名に配る場合、ChatGPT Businessの標準シート(年額課金)では、月3,050円×10名で月30,500円、12か月で366,000円になります。人数に比例して費用が増えるため、全スタッフに配るか、文面の作業が多い担当者に絞るかを先に決めます。絞る場合は、配られなかったスタッフが個人のアカウントで使い始めないよう、代わりの手順も伝えておきます。会社単位の定額のサービスと比べる場合は、各サービスの人数の目安と初期費用を含めて確認してください。
法人向け生成AIサービスの料金の横並びは法人向け生成AIサービスの比較、ChatGPTの法人プランの詳細はChatGPT法人プランの料金で確認できます。
※料金は2026年9月16日に各社の公式料金ページで確認した表示です。表示される通貨や金額は、閲覧する環境や改定によって変わります。
補助金を使う場合
観光庁の補助事業「令和8年度 全国の観光地・観光産業における観光DX推進事業」(財源は令和7年度補正予算)は、「観光産業の収益・生産性向上」の区分で補助率1/2・1施設あたり上限1,500万円(1事業者あたり合計3施設まで)で、計画申請の受付は2026年4月24日〜5月29日でした。公募要領では、補助対象のデジタルツールの例に「生成AI(サービスとして既に提供されているものに限る)」が挙げられています。一方で、事務用のパソコンや文書作成ソフトウェアなど汎用性の高い物品の購入費は対象外です。事務局サイトでは二次公募の予定はないとされているため、今後の公募は観光庁の発表で確認してください。
多言語の案内文と口コミ返信を、4つのAIで下書き
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。多言語の案内文や口コミ返信の下書きを複数のAIで作り比べられ、全モデルで学習非利用を標準適用しています。会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理し、管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・使わせるAIを管理できます。よく使う返信の指示文は、カスタムプラスで社内限定のBOTとして共有できます。UPGEAR AIの料金は月額30,000円(税抜)からで、ユーザーごとの課金はありません(人数の目安はライト1〜5名・スタンダード6〜20名・プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
ホテルのAI活用は、小規模な旅館やビジネスホテルでも始められますか?
宿泊客の名前が入った問い合わせメールを、生成AIで翻訳してもよいですか?
口コミ返信を生成AIで作ると、定型文だと気づかれませんか?
AIチャットボットと生成AIは何が違いますか?
ホテルのAI導入に補助金は使えますか?
まとめ
ホテルのAI活用には、チャットボット・顔認証・RMS・清掃管理などの設備型と、口コミ返信や多言語の案内文を下書きする汎用の生成AIの2つがあります。設備型は業務の流れそのものを変える投資で、費用は製品・客室数・連携の範囲で大きく変わります。生成AIは機器を入れずに始められ、スタッフの文面づくりの負担を減らせます。
背景には、旅館・ホテルの非正社員の人手不足割合が38.5%と、改善しつつも全業種計(28.3%)を上回る状況と、年によって大きく増減する訪日客への対応があります。公表されている事例でも、予約センターのメール返信や企画・文章作成など、スタッフの手元の作業から生成AIを使い始める動きが見られます。
始めるときは、宿泊者名簿の情報やカード情報、健康に関わる申告を入れない線引きを決め、生成AIの下書きを人が確認してから宿泊客に出す流れを作ってください。会社として使ってよい環境を用意することが、スタッフが個人のアカウントで宿泊客の情報を扱うシャドーAIを防ぐ近道です。
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