
生成AIとは、文章・画像・プログラムなどを新しく作り出せるAIの総称です。会社で使うときに大切なのは、どのサービスが賢いかより先に、社員の個人アカウントではなく会社が管理できる環境で使い、入力してよい情報を決めておくことです。この記事では、総務省・経済産業省のガイドラインにある公的な定義と、2026年7月公表の情報通信白書の数字を使って、生成AIの意味・仕組み・種類・リスクを整理し、社員10〜200名の会社が最初の1か月でやることまでを解説します。
生成AIとは|簡単に言うと何か
簡単に言うと、生成AIは、指示(プロンプト)を受けて、文章や画像などの新しい中身をその場で作るAIです。これまで業務で使われてきたAIの多くは、データを見分けたり将来の数値を予測したりするものでしたが、生成AIは答えそのものを文章や画像の形で出してくれる点が違います。
たとえば「来週の会議の案内メールを、丁寧な文体で3行で書いて」と入力すると、生成AIはその場で案内文を作ります。「この議事録から決定事項だけを箇条書きにして」と頼めば要約を作り、「この表の数字を読み取れるグラフにするコードを書いて」と頼めばプログラムを書きます。同じ指示でも、実行するたびに少しずつ違う文が返ってくることがあるのも、生成AIの特徴です。
公的な定義:AI事業者ガイドラインの原文
日本の公的な文書では、総務省と経済産業省が策定した「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(令和8年3月31日)が、生成AIを次のように定義しています。
AI事業者ガイドラインの定義(原文):文章、画像、プログラム等を生成できるAIモデルにもとづくAIの総称を指す。
ポイントは総称という言葉です。生成AIは特定の製品名ではなく、文章を作るもの、画像を作るもの、プログラムを書くものなどをまとめて呼ぶ言葉です。個人情報保護委員会も、令和5年6月2日の注意喚起で、生成AIサービスを「質問・作業指示(プロンプト入力)等に応えて文章・画像等を生成するAIを利用したサービス」と説明しています。
※AI事業者ガイドラインは、同ガイドライン自身が「非拘束的なソフトロー」と位置づけている文書で、守らないと罰則がある法律ではありません。ただし、事業でAIを使う会社(ガイドラインの言葉ではAI利用者)が取り組むことが具体的に書かれているため、社内ルールを作るときの土台として使えます。
ChatGPTとの関係:ChatGPTは生成AIの一種
生成AIとChatGPTは、同じ意味ではありません。生成AIが分類の名前で、ChatGPTはその中の1つのサービスの名前です。ChatGPTはOpenAIが2022年11月30日に公開した、対話の形で使う生成AIサービスです。自動車という分類の中に個別の車種があるのと同じ関係で、生成AIという分類の中に、ChatGPTのほか、GoogleのGemini、AnthropicのClaude、MicrosoftのCopilotなどのサービスがあります。
社内で「生成AIを導入する」と話すときは、特定のサービスを入れる話なのか、生成AIを使える環境を用意する話なのかを分けておくと、議論が早く進みます。
従来のAIと生成AIの違い
違いは、AIが出すものにあります。従来のAIは既存のデータを見分けたり、分類したり、予測したりする道具で、生成AIは新しい文章や画像を作る道具です。
AI事業者ガイドラインは、2000年代以降、ディープラーニングによる画像認識・自然言語処理(翻訳等)・音声認識が使われるようになり、特定の分野に特化して予測・提案・決定を行うシステムをAIと呼ぶようになってきたと説明しています。そのうえで、2021年以降に基盤モデルが台頭し、「予測」「提案」「決定」にとどまらず、画像・文章等を生成する生成AIも普及しつつある、と整理しています。
- 従来のAIが得意なこと:不良品を画像で見分ける、問い合わせメールを種類ごとに振り分ける、来月の売上を予測する、といった、正解の型が決まっている作業です。
- 生成AIが得意なこと:メールの下書き、長い文書の要約、企画のたたき台、翻訳、プログラムの作成など、決まった正解がなく、文章や画像の形で結果を出す作業です。
- 使い方の違い:従来のAIは多くの場合、専門の担当者が目的ごとに作り込んで業務システムに組み込みます。生成AIは、誰でも普段の言葉で指示を出して使えます。
どちらが優れているという関係ではありません。在庫の予測のように数字の正確さが求められる仕事は従来型のAIや統計の手法が向き、文章の下書きのように人が最後に手を入れる仕事は生成AIが向きます。
生成AIの種類(文章・画像・音声・動画・プログラム)
生成AIは、作り出すものの種類で分けると整理しやすくなります。総務省の令和8年版情報通信白書(概要)も、利用状況の調査で、テキスト生成・画像や動画の生成・音声生成・音楽生成・プログラムコード生成のサービスを分けて尋ねています。
- 文章(テキスト)の生成:質問への回答、メールや報告書の下書き、要約、翻訳、言い換えなど。会社で最初に使われることが多い種類です。
- 画像の生成:文章の指示から、イラスト、広告のイメージ案、資料用の図などを作ります。
- 音声・音楽の生成:文章を読み上げる音声、ナレーション、短い音楽などを作ります。
- 動画の生成:文章や画像をもとに短い動画を作ります。
- プログラム(コード)の生成:表計算の関数、業務を自動化する小さなプログラム、既存コードの修正案などを作ります。
文字だけでなく画像や音声もまとめて扱える性質は、マルチモーダルと呼ばれます。同白書は、日本では画像・動画生成などテキスト生成以外のサービスの利用率はまだ低いとまとめています。
分け方の軸による種類の数の違いや、種類ごとの代表サービスと会社で使う前の確認点は生成AIの種類の解説で詳しく整理しています。
生成AIの仕組み
生成AIは、大量のデータから言葉や画像のパターンを学んだモデルが、指示に続く可能性の高い中身を1つずつ組み立てて出力する仕組みです。人間のように意味を理解して答えを調べているわけではない、という点を押さえておくと、後で説明するリスクが理解しやすくなります。
LLM(大規模言語モデル)とは:次に来る言葉を予測する
文章を作る生成AIの中心にあるのが、LLM(大規模言語モデル)です。Googleの開発者向け解説は、言語モデルを、長い文の中にある語(トークン)や語の並びが現れる確率を推定するもの、と説明しています。トークンは単語、単語の一部、1文字のいずれにもなり得ます。
たとえば「本日はお忙しいところ」という文の次には、「ありがとうございます」が来る確率が高いと推定できます。LLMはこの推定を膨大な文章で学んだうえで、次に来る語を1つ選び、その語を加えた文に対してまた次の語を選ぶ、という処理を繰り返して文章を作ります。大規模と呼ばれるのは、学習に使う文章の量と、モデルの中で調整される数値(パラメータ)の数が非常に多いためです。
AI事業者ガイドラインは、大規模言語モデルに代表される基盤モデルを、さまざまなサービスを支える個別モデルを生み出すコアの技術基盤と説明しています。1つの基盤モデルが、要約にも翻訳にも質問への回答にも使えるのはこのためです。
LLMの仕組みや主要なモデル、ChatGPTとの違い、会社で使う前に確かめる契約とデータの扱いは、LLM(大規模言語モデル)とはで詳しく解説しています。
生成モデルの種類(Transformer・VAE・GAN・拡散モデル)
生成AIを支えるモデルにはいくつかの系統があります。技術者でなければ細部を覚える必要はありませんが、名前が出てきたときに何の話かわかる程度に整理します。論文の年は、いずれも論文公開サイトarXivの書誌情報によるものです。
- Transformer(トランスフォーマー):2017年の論文「Attention Is All You Need」で発表された仕組みです。それまで主流だった再帰型や畳み込み型のネットワークを使わず、文の中のどの語に注目するかを計算するアテンション(注意機構)だけで組み立てたもので、論文では翻訳の品質が高く、並列処理がしやすく、学習時間も大幅に短いと報告されました。大規模言語モデルの土台として広く使われています。
- VAE(変分オートエンコーダ):2013年の論文「Auto-Encoding Variational Bayes」で発表された手法をもとにした仕組みです。データの背後にある目に見えない特徴を確率として扱い、その特徴から元に近いデータを作り直すことを、大量のデータで効率よく学習します。
- GAN(敵対的生成ネットワーク):2014年の論文「Generative Adversarial Networks」で発表されました。データを作る側のモデルと、そのデータが本物か作られたものかを見分ける側のモデルを同時に学習させ、作る側が見分ける側をだませるように鍛える仕組みです。
- 拡散モデル:データにノイズを少しずつ加えていく過程を逆にたどり、ノイズを取り除きながらデータを作り出すことを学ぶ仕組みです。2020年の論文「Denoising Diffusion Probabilistic Models」は、この方法で高品質な画像を生成できた結果を示しました。
プロンプト(指示)の出し方で結果が変わる
生成AIの出力は、指示の書き方で大きく変わります。次に来る言葉を予測する仕組みである以上、指示に含まれる情報が少なければ、ありきたりな答えが返ってきやすくなるためです。業務で使うときは、次の4つを指示に入れると結果が安定します。
- 役割:「総務担当者として」「取引先に送る前提で」など、誰の立場で書くか
- 目的と読み手:何のための文章で、誰が読むか
- 材料:要約する元の文章、守るべき条件、使ってよい数字
- 形式:文字数、箇条書きか文章か、敬語の程度
よく使う指示は、部署で共有しておくと、社員ごとの出来のばらつきが減ります。
RAG・ファインチューニングで自社データを使う
生成AIに自社の規程や商品情報をふまえて答えさせたいときに使われるのが、RAGとファインチューニングです。
- RAG(検索拡張生成):質問を受けたときに、社内文書などから関係する部分を検索し、その内容を材料として生成AIに渡して答えさせる方法です。AI事業者ガイドラインは、推論(学習済みモデルに答えを出させる処理)で、RAG等を介して外部の知識を補った情報が使われると説明し、RAGの活用等によってハルシネーション(後述)の抑制や根拠の透明性の向上が期待されている、と注記しています。
- ファインチューニング:学習済みのモデルに追加の学習をさせ、特定の用途に合わせる方法です。同ガイドラインは、事前学習済みのモデルを特定の用途に適応させる事後学習の主な手法の1つとして挙げています。
中小規模の会社では、モデルそのものに学習させるファインチューニングより、文書を読み込ませて答えさせるRAG型の機能から始めるほうが、費用も手間も抑えやすくなります。
AIエージェントとの関係
AIエージェントは、生成AIを頭脳として使い、目標に向けて自分で手順を考え、ツールを操作しながら作業を進める仕組みです。AI事業者ガイドラインは、AIエージェントを「特定の目標を達成するために、環境を感知し自律的に行動するAIシステム」と定義しています。
生成AIが質問に対して答えを返すところで止まるのに対し、AIエージェントは、調べる・まとめる・ファイルを作る・送るといった複数の手順を続けて実行する点が違います。便利な反面、AIが自分で操作する範囲が広がるため、どのシステムに触らせるか、誰が結果を確認するかを、生成AI以上に先に決めておく必要があります。
生成AIが一気に広がった背景
広がった理由は、技術の進歩が積み重なったところに、専門知識なしで対話の形で使えるサービスが登場したことです。
- 仕組みの進歩:2017年に発表されたTransformerにより、大量の文章を効率よく学習できるようになりました。
- 基盤モデルの台頭:AI事業者ガイドラインは、2021年以降、基盤モデルの台頭により、特定の分野だけに特化しない汎用的なAIの開発が進んだと整理しています。
- 誰でも使える形になった:2022年11月30日にChatGPTが公開され、普段の言葉で質問するだけで使える形が一般に広がりました。同ガイドラインは、対話型の生成AIによって「AIの民主化」が起こり、多くの人が対話によってAIをさまざまな用途へ容易に活用できるようになった、と書いています。
学習と利用にかかる計算資源と電力
生成AIは、学習にも利用にも大きな計算資源を使います。モデルを大きくするほど性能が上がりやすい一方で、学習には大量の計算機と電力が必要になり、利用する段階でも質問のたびに計算が発生します。AI事業者ガイドラインは、ライフサイクル全体で地球環境への影響も検討するとし、特に生成AIなど計算量の多いAIシステムでは、モデルの軽量化や目的に応じたモデルの使い分け等の対策を講じる、としています。
利用する会社の立場では、簡単な作業には軽いモデル、難しい作業には高性能なモデルというように、目的に応じて使い分けることが、費用の面でも無駄を減らす考え方になります。
代表的な生成AIサービス
会社で名前が挙がることが多いのは、ChatGPT・Gemini・Claude・Microsoft Copilotです。個人向けと会社向けの両方の提供形態を持つものが多く、同じ名前のサービスでも、どちらで契約するかによって入力データの扱いが変わります。この違いは後の章で詳しく扱います。
- ChatGPT(OpenAI):2022年11月30日に公開された、対話の形で使うサービスです。個人向けの無料版・有料版と、会社向けのBusiness・Enterpriseがあります。
- Gemini(Google):Googleの生成AIです。個人のGoogleアカウントで使う形と、Google Workspaceなど仕事用のアカウントで使う形があります。
- Claude(Anthropic):Anthropicのサービスです。個人向けのFree・Pro・Maxと、会社向けのTeam・Enterpriseがあります。
- Microsoft Copilot(旧Microsoft 365 Copilot、Microsoft):WordやExcel、Outlook、Teamsなどと組み合わせて使うサービスです。Microsoftの公式文書によると、Microsoft 365 Copilotの名前はMicrosoft Copilotに変わっています。
どのサービスが一番優れているかは、各社が短い周期で新しいモデルを出すため、固定されません。特定のモデル名で選ぶより、会社として管理できる形で使えるかどうかで選ぶほうが、判断が長持ちします。料金の比較は法人向け生成AIサービスの料金比較、ChatGPTの会社向けプランはChatGPT法人プランの料金、用途ごとの向き不向きは主要4AIの違いと使い分けで解説しています。
国産LLM(cotomi・tsuzumi)
日本企業が開発した大規模言語モデルもあります。NECは自社開発のAIコア技術を「cotomi(コトミ)」と名づけて提供しています。NTTは「tsuzumi 2」を提供しており、NTTの研究開発サイトは1GPUで動作可能な軽量モデルと説明しています。海外のサービスを画面で使う形とは違い、モデルを自社のシステムに組み込む形で検討されることがあり、動かすのに必要な設備の規模も選ぶときの判断材料になります。
※性能に関する数値は各社の自社発表であり、第三者による検証を経たものではないため、この記事では取り上げていません。
数字で見る日本の生成AI利用
最新の公的な調査では、日本でも個人の半数以上が生成AIを使ったことがあり、デジタル化に取り組む企業の管理職への調査では8割を超える企業が業務で使っていると回答しています。ただし、生成AIによる業務変革への組織的な取り組みは、他の国より進んでいません。数字はすべて、総務省「令和8年版情報通信白書(概要)」(2026年7月)によるものです。
※調査の条件:個人向けは2026年1月〜2月のインターネットアンケートで、日本の有効回答は1,236件(15歳以上。10代〜60代で年代・性別が偏らないよう割り付け)。企業向けは同期間のインターネットアンケートで、従業員10名以上かつ2025年までにデジタル化の取組を始めた企業の管理職以上が対象、日本の有効回答は515件(大企業353件・中小企業162件)。企業向けの設問のうち、回答者数(n)が示されているものは本文に記載しています。
個人の利用経験は58.8%
日本で生成AIを使ったことがある人の割合は、2025年度調査で58.8%でした。2024年度調査の26.7%、2023年度調査の9.1%から大きく伸びています。米国・ドイツ・中国よりは低い水準です。利用している人のうち、ほぼ毎日使う人は約3割でした。
※2023年度・2024年度の調査は20歳以上が対象で、2025年度調査から15〜19歳が加わっています。2025年度調査で20歳以上に限った利用率は52.2%です。年度をまたいで比べるときは、この違いにご注意ください。
業務で使う企業86.4%と、組織的な取り組みなし27.0%
企業向けの調査では、自社の何らかの業務で生成AIを利用していると答えた日本の企業は86.4%(n=477)でした。米国90.9%、ドイツ91.6%、中国98.1%との差は小さくなっています。生成AIを積極的に活用する方針、または領域を限定して利用する方針と答えた企業の合計も、2024年度調査の49.7%から68.9%に上がりました。
一方で、生成AIによる業務変革について、組織的な取り組みはないと答えた日本の企業は27.0%(n=497)でした。米国は1.4%、ドイツは4.9%、中国は2.6%です。
この2つの数字が示すこと:設問と回答者の範囲が異なるため単純に比べることはできませんが、業務で使われていても、会社として使い方を整えるところまでは進んでいない企業が一定数あることがうかがえます。なお、社員が会社の把握していないAIを業務に使う状態は、野良AI(シャドーAI)と呼ばれます。
会社で生成AIを使うメリットと活用例
会社で使う主な目的は、文章を読む・書く・まとめる時間を減らし、人が判断や対話に使える時間を増やすことです。
企業で使うメリット
- 業務の効率化:メールや報告書の下書き、議事録の要約など、毎日発生する文章作業の時間を短くできます。
- アイデア出しの相手になる:企画のたたき台、キャッチコピーの案、想定問答の洗い出しなど、ゼロから考える負担を減らせます。
- 外注や残業の費用を抑えられる:翻訳の下訳や資料の構成案など、これまで外部に頼んでいた作業の一部を社内で進められます。
- お客様への対応の質をそろえられる:問い合わせへの返信案をAIに作らせてから人が直すことで、担当者による差を小さくできます。
AI事業者ガイドラインも、AI利用者が適正に利用することで、業務効率化、生産性・創造性の向上等の恩恵を受けられる、としています。
業務別の活用例
情報通信白書(概要)によると、日本の企業で業務の種類ごとの活用状況を見ると、議事録・メール作成補助の回答割合が約7割と最も高く、効果を実感する割合も同様でした。まずはこうした身近な文章作業から始める会社が多いということです。
- 総務・人事:社内通知文の作成、就業規則の条文の要約、研修資料の構成案
- 営業:提案メールの下書き、商談メモの整理、提案書の見出し案
- 経理:取引先への連絡文、表計算の関数の作り方の確認、手順書の作成
- カスタマー対応:よくある問い合わせへの返信案、FAQの原稿(進め方はコールセンターのAI活用で解説しています)
- 情報システム:簡単なプログラムやマクロの作成、エラーメッセージの意味の確認
どの例も、AIが作ったものを人が確認してから使う前提です。何を入力してよいかの線引きは、次の章で説明します。
個人のアカウントで使われると、線引きを守れたかを会社から確かめられません。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
生成AIのリスクと注意点
生成AIのリスクは、大きく、出力の誤り・偏り・権利侵害・情報漏洩の4つに分けられます。総務省の入門教材「生成AIはじめの一歩」も、注意点として、情報の正確性、情報流出、知的財産権の侵害、活用者としてのモラルの4つを挙げています。
ハルシネーション(もっともらしい誤り)と人による確認
生成AIは、事実と違う内容を、自然で自信のある文章で出力することがあります。これをハルシネーションと呼びます。IBMの解説は、AIシステムがもっともらしく聞こえるが事実として誤っている、無関係である、または完全に作り上げられた出力を出すことだと説明しています。
次に来る言葉を確率で選ぶ仕組みである以上、存在しない法令の条文や、実在しない統計の数字が出てくることがあります。個人情報保護委員会の注意喚起も、応答結果には不正確な内容が含まれることがあり、文章は確率的な相関関係に基づいて生成されると説明しています。数字・日付・固有名詞・法令は、必ず元の資料で確かめてから使うことを社内のルールにしてください。
バイアス・不適切な出力
生成AIは学習したデータの偏りを引き継ぐため、性別・年齢・国籍などについて偏った表現や、場面にそぐわない表現を出すことがあります。AI事業者ガイドラインは、AI利用者に対して、入力データやプロンプトに含まれるバイアスに留意し、責任をもって出力結果を事業に使うかどうかを判断するよう求めています。採用の書類選考や人事評価のように、人に対する評価にAIの出力を使う場合は、同ガイドラインが、AIを使っていることを評価の対象者に知らせることなども挙げています。
著作権・知的財産のリスク
生成AIで作った文章や画像でも、既存の作品に似ていれば著作権侵害になり得ます。文化庁の文化審議会著作権分科会法制度小委員会がまとめた「AIと著作権に関する考え方について」(令和6年3月15日)は、既存の著作物との類似性と依拠性の両方が認められれば、生成AIによる生成物であっても著作権侵害になり得るという考え方を示しています。
同じ文書は、利用者が既存の作品を知っていた場合の例として、既存の著作物そのものを入力する場合や、作品の題名などの固有名詞を入力する場合を、依拠性が認められる例に挙げています。この文書は文化審議会の小委員会が考え方を整理したもので、法的な拘束力を持つものではありませんが、判断の目安になります。広告やWebサイトに使う画像・文章を作るときは、特定の作品名や作家名を指示に入れない、公開前に似たものがないか確認する、といったルールを決めておくと安全です。
情報漏洩:個人情報・機密情報を入力しない
会社にとって身近なリスクが、入力した情報の漏洩です。生成AIサービスによっては、入力した内容をモデルの改善(学習)に使うことがあるため、顧客の名前や取引条件を入れると、会社の外に情報を出したのと同じ状態になり得ます。AI事業者ガイドラインも、AI利用者が、個人情報や機密情報等を不適切に入力しないよう注意を払うことを求めています。
入力しない情報の例は、次のとおりです。
- 顧客・取引先の氏名、連絡先、契約金額などの取引条件
- 従業員の氏名・住所・給与・評価・健康に関する情報
- 顧問先から預かった決算書や申告の資料(会計事務所の場合)
- 公表前の決算の数字、新商品の情報、M&Aや人事の予定
- 社内システムのパスワード、APIキーなどの認証情報
どうしても業務の文書を扱いたい場合は、名前を記号に置き換える、数字を丸めるといった加工をしたうえで、次の章で説明する会社の環境で使うのが基本です。対策の全体像は生成AIのセキュリティ対策チェックリスト、漏洩の経路と事例は生成AIの情報漏洩リスクと対策で解説しています。
個人アカウントで業務に使うと何が起きるか
社員が自分の無料版や個人の有料プランで業務に使うと、入力データの扱いを決めるのが会社ではなく本人の設定になり、会社からは誰が何を入力したかが見えなくなります。同じサービス名でも、個人向けと会社向けでは、入力データの学習への使い方の既定が違います。
| サービス | 個人向けプラン(無料版を含む) | 会社向けプラン |
|---|---|---|
| ChatGPT | 料金ページの比較表で、コンテンツをモデルの学習に使用する設定は「無効化可能」。本人が設定のデータコントロールで「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにする | Business・Enterpriseなどは、デフォルトでユーザーのデータをモデルの学習に使わないと公式に記載 |
| Claude | 料金ページの比較表でFree・Pro・Maxのモデルのトレーニングは「オプトアウト」。本人がモデルの改善への利用を許可した場合などに使われる | Team・Enterpriseなどの商用製品は、デフォルトで入出力を学習に使わないと公式に記載 |
| Gemini | 個人のGoogleアカウントでは、本人が「アクティビティの保存」をオフにすると、今後のチャットはAIモデルのトレーニングに使われない(フィードバックを送った場合を除く)と案内 | Google Workspaceでは、コンテンツが人間にレビューされることも、許可なく組織外で生成AIモデルのトレーニングに使われることもないと公式に記載 |
※2026年9月16日時点で、OpenAI・Anthropic・Googleの公式の料金ページ、ヘルプ、プライバシーに関するページの記載を確認した内容です。設定の名前や条件は変わることがあるため、利用前に各社の公式ページでご確認ください。Microsoft Copilotは、公式文書で、Microsoft Graph経由でアクセスされるプロンプト・応答・データは基礎となるLLMのトレーニングに使われないと説明されています。
起きること1:学習させない設定が社員任せになる
個人向けプランでは、学習に使わせない設定をするかどうかを、社員一人ひとりが決めます。30人の会社なら30人全員が設定を変え、その状態を保ち続けなければなりません。1人でも設定を忘れれば、その人が入力した業務情報はモデルの改善に使われる可能性があります。
さらに、設定をオフにしていても例外があります。ChatGPTのヘルプは、良い回答・良くない回答といったフィードバックを送ると、その会話全体がモデルのトレーニングに使われることがあると説明しています。Claudeも、高評価・低評価のフィードバックを送ると、関連する会話全体を最長5年間保存すると説明しています。回答を評価するボタンを押しただけで、学習をオフにしていたはずの業務の会話が、モデルの学習に使われたり長期間保存されたりする場合があるということです。
起きること2:会社から利用状況が見えない
個人向けプランは、会社が利用状況を確認することを前提にしていません。たとえばClaudeの料金ページの比較表では、個人向けのFree・Pro・Maxのいずれも、使用状況の分析と一元的な請求・管理が「いいえ」となっています。万一、顧客情報が入力されていたとしても、会社はいつ誰が何を入力したかを確かめられません。取引先から、預けた情報をAIに入力していないかと聞かれたときに、根拠を持って答えられない状態です。
起きること3:退職・異動のときに会話履歴が本人の手元に残る
個人のアカウントは本人の管理下にあります。会社の判断で利用を止めたり、会話の履歴を会社で引き継いだりすることは、本人の協力なしには難しくなります。業務で作った文書のたたき台や、取引先の情報を入力した会話が、退職後も本人のアカウントに残る可能性があります。
起きること4:個人情報保護法上の確認が会社の手を離れる
個人情報保護委員会は、令和5年6月2日の注意喚起で、会社(個人情報取扱事業者)が本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答結果の出力以外の目的で扱われる場合、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるとしています。そのため、入力する場合は、サービスの提供者がその個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めています。個人のアカウントで使われていると、この確認を会社として行えません。
結論:禁止するだけでは、便利さを知った社員が個人のアカウントで使い続けることになりがちです。会社で使うなら、学習させない設定を全員に一律で適用でき、利用ログを会社が確認でき、アカウントを会社が配布・停止できる、会社の環境を用意するのが現実的です。個人アカウントの利用を把握する方法は野良AI(シャドーAI)の見つけ方で解説しています。
生成AIに関わる日本のルール
生成AIに関わる日本のルールは、AI法の責務の規定、事業者向けのガイドライン、個人情報保護法にもとづく注意喚起の3つを押さえておけば、社内ルールを作る前提になります。AI法には罰則を定めた条文は見当たりませんが、個人情報の扱いは個人情報保護法の規律を受けます。
AI法:企業への義務と罰則はどうなっているか
正式名称は「人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律」(令和7年法律第53号)で、略してAI法と呼ばれます。内閣府の資料によると、令和7年(2025年)5月28日に成立し、6月4日に公布・一部施行、9月1日に全面施行されました。
この法律は、AIの研究開発と活用を国として推進するための基本となる事項を定めたものです。事業でAIを活用しようとする者は活用事業者と呼ばれ、第7条で、積極的なAIの活用により事業活動の効率化・高度化や新産業の創出に努めるとともに、国や地方公共団体が実施する施策に協力しなければならない、と定められています。また第16条では、国が、不正な目的や不適切な方法による研究開発や活用によって国民の権利利益が侵害された事案を分析し、活用事業者などに指導・助言・情報提供などの措置を講じるとしています。
※2026年9月16日に、e-Gov法令検索で公開されている条文を確認した範囲では、罰則を定めた条文は見当たりません。法律の条文で使われている言葉は人工知能関連技術で、生成AIという言葉は出てきません。個別の事案への法的な判断は、弁護士などの専門家にご確認ください。
AI事業者ガイドラインが「AI利用者」に求めること(社内ルール・利用規約の確認)
AI事業者ガイドラインは、事業でAIを使う会社をAI利用者と呼び、取り組むことを挙げています。社員10〜200名の会社が社内ルールに落とし込みやすい項目を、原文の趣旨に沿って抜き出すと次のとおりです。
- AIの出力の精度とリスクの程度を理解し、リスク要因を確認したうえで利用する
- 個人情報を不適切に入力しないよう注意を払う
- 機密情報等を不適切に入力しないよう注意を払う
- AI提供者が定めたサービス規約を守る
とくに最後の項目は見落とされがちです。個人向けと会社向けでは適用される規約が違う場合があり、同じサービスでも契約の形を変えたときは規約を読み直す必要があります。社内ルールの作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方で、ひな形とあわせて解説しています。
個人情報保護委員会の注意喚起(令和5年6月2日)
個人情報保護委員会は、令和5年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しました。会社(個人情報取扱事業者)に向けた注意点は2つです。
- 個人情報を含むプロンプトを入力する場合は、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること
- 本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、それが応答結果の出力以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるため、提供者が機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること
一般の利用者向けにも、提供事業者の利用規約やプライバシーポリシー等を十分に確認するよう求めています。総務の担当者が従業員の情報を扱うとき、会計事務所が顧問先の資料を扱うときは、この2点を確認できる環境かどうかが判断の基準になります。
社員10〜200名の会社が最初の1か月でやること
最初の1か月は、使い方を教える前に、今の利用状況を知り、入力してよい情報を決め、会社の環境を用意する順番で進めます。専任の情報システム担当がいない会社でも、総務と各部署の代表者で進められる内容です。登録から最初の1回までの操作、業務別の使い方、部署ごとに配るプロンプトは生成AIの使い方にまとめています。
1週目:誰が何を使っているかを聞く
全社員に、業務で生成AIを使っているか、どのサービスを、無料版か有料版か、どんな業務に使っているかを、匿名で聞きます。責めるための調査ではないと最初に伝えると、正直な回答が集まります。個人の利用経験が58.8%に達していることを考えると、会社として導入していなくても、個人で使い慣れた社員がいることは珍しくありません。
2週目:入力してはいけない情報を決める
前の章の例をもとに、自社で入力してはいけない情報を1枚にまとめます。個人情報、取引先の情報、公表前の情報、認証情報の4分類から始めると、決めやすくなります。あわせて、出力をそのまま社外に出さず、数字・固有名詞・法令は必ず元の資料で確認する、というルールも入れます。
3週目:会社の環境を用意する(学習させない設定・ログ管理・アカウント配布)
社員が個人のアカウントに戻らずに済むよう、会社として使える環境を用意します。選ぶときに確認する点は次の4つです。
- 学習させない設定を、全員に一律で適用できるか社員ごとの設定に頼らず、会社側で入力データを学習に使わない状態を保てるかを確認します。
- 誰がいつどのAIを使ったか、会社側でログを確認できるか取引先や監査で聞かれたときに、利用の記録を示せるかどうかの基準になります。
- 会社がアカウントを配布・停止できるか入社・退職・異動のたびに、管理者の操作だけで利用者を増減できるかを見ます。
- 用途に応じて複数のAIを使い分けられるか生成AIには得意分野の違いがあり、新しいモデルも短い周期で出ます。1つのサービスに固定しない形にしておくと、乗り換えの手間が減ります。
複数のAIを1つの環境で使う方法はマルチAIとは、費用の考え方は生成AIのコスト管理で整理しています。
4週目:部署ごとに1業務で試し、社内ルールを1枚にまとめる
各部署で、議事録の要約やメールの下書きなど、効果がわかりやすい業務を1つ選んで試します。使ってみてよかった指示文を集めて共有し、2週目に決めた入力禁止の情報と合わせて、社内ルールを1枚にまとめます。最初から完璧な規程を作る必要はありません。3か月ごとに見直す前提で、運用しながら育てるほうが定着します。
試した業務を部署の外へ広げ、AIを前提に仕事の進め方そのものを見直していく取り組みは、AX(AIトランスフォーメーション)とはで解説しています。
会社で使う生成AIを、1つの契約と管理画面で
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。全モデルで学習非利用を標準適用し、会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理します。UPGEAR AIの料金は月額30,000円(税抜)からで、ユーザーごとの課金はありません(人数の目安はライト1〜5名・スタンダード6〜20名・プレミアム21〜50名)。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
生成AIとは簡単に言うと何ですか?
生成AIとChatGPTの違いは何ですか?
AIと生成AIの違いは何ですか?
無料版の生成AIを業務で使ってもよいですか?
生成AIを使うことに法律上の罰則はありますか?
生成AIが作った文章や画像は自由に使えますか?
まとめ
生成AIとは、文章・画像・プログラムなどを新しく作り出せるAIの総称で、AI事業者ガイドラインは「文章、画像、プログラム等を生成できるAIモデルにもとづくAIの総称」と定義しています。ChatGPTはその中の1つのサービスです。従来のAIが見分ける・予測する道具だったのに対し、生成AIは指示に応じて新しい中身を作ります。
令和8年版情報通信白書(概要)では、日本の個人の利用経験は58.8%、業務で使う企業は86.4%に達した一方で、生成AIによる業務変革に組織的な取り組みはないと答えた企業が27.0%ありました。会社としての取り組みはこれからという企業も少なくありません。
生成AIには、ハルシネーション、偏った出力、著作権侵害、情報漏洩のリスクがあります。個人のアカウントで業務に使うと、学習させない設定が社員任せになり、会社からは利用状況が見えず、個人情報保護委員会が求める確認も会社として行えません。会社で使うなら、入力してよい情報を決めたうえで、学習させない設定・ログの確認・アカウントの配布を会社が管理できる環境を用意することから始めてください。
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