弁護士の生成AI活用。業務別の使い方と守秘義務を守る事務所ルール

弁護士の生成AI活用とは、ChatGPT・Claude・Geminiなどの生成AIを、契約書の起案やレビュー、訴訟記録の整理、調査の下準備、事務所運営の文書づくりに使うことです。使い方そのものより先に決めておきたいのは、依頼者の秘密を扱ってよい環境を、事務所として1つに揃えることになります。学習に使われない設定とログの管理ができる法人向けの環境を用意し、所員全員に同じルールで配ることが出来れば、個人アカウントへの持ち出しも減らしやすくなるでしょう。

法律事務所の生成AI活用はどこまで進んでいるか

法律事務所の生成AI活用は、個々の弁護士が試す段階から、事務所として環境とルールを揃える段階へ移りつつあります。東京弁護士会の会報LIBRA(2026年7・8月号)の特集では、同会が2025年3月27日から生成AIサービスの適正利用ガイドラインを施行していること、日弁連のAI戦略ワーキンググループが2025年9月に注意事項を取りまとめ、2026年2月に更新版を公表したことが紹介されています。弁護士会の側で、利用を前提にした指針づくりが進んでいるのは、個々の事務所にとっても判断の拠り所になるでしょう。

同じ特集では、ChatGPT・Claude・Geminiの比較や、訴訟業務・企業法務・事務所運営それぞれでの活用事例も取り上げられています。東京弁護士会のウェブサイトで会報のPDFとして公開されているため、事務所で方針を話し合う前の共通の資料として、所員で目を通しておくのもよいでしょう。

一方で、指針があることと、事務所の中で使い方が揃っていることは別の話です。同じ事務所の中に、毎日のように使う弁護士と、まったく使わない弁護士、無料版を自分の判断で試している事務職員が混在していることも珍しくありません。どこから手を付けるかを考えるために、まず利用の実態と事務所の規模を確かめておきましょう。

利用の実態を示す調査

利用の広がりを示す数字としては、リーガルテック企業の株式会社Legalscapeがプレスリリースで紹介した調査があります。株式会社未来トレンド機構が2025年9月10日〜29日に弁護士100名と社会保険労務士100名を対象に行ったアンケートで、生成AIの業務利用率は66%とされています。ただしこの数字は弁護士と社会保険労務士を合わせた200名の値で、弁護士だけの割合ではない点に注意が必要です。

企業で法務を担当する方については、契約審査AIを提供する株式会社LegalOn Technologiesの「法務業務担当者の生成AI活用に関する調査」があります。調査期間は2025年7月18日〜25日、対象は法務業務を担当する会社員・会社役員500名(調査はクロス・マーケティングに委託)で、法務業務で生成AIを活用している方は22%、法務業務以外で利用している方は18%でした。どちらも生成AI関連のサービスを提供する企業による発表で、対象も母数も異なるため、数字どうしを並べて比べるのは避けたほうがよいでしょう。読み取れるのは、使う人と使わない人が同じ職場に混在しているという状況のほうになります。

事務所の規模から見た導入の現実

日弁連の弁護士白書2025年版によると、2025年3月31日現在の法律事務所18,591のうち、弁護士1人の事務所は11,558で62.17%を占めています。2人事務所が3,181(17.11%)、3〜5人事務所が2,654(14.28%)で、弁護士5人以下の事務所を合わせると93.56%に達する計算になります。6〜10人事務所は804(4.32%)、11〜20人事務所は253(1.36%)で、21人以上の事務所は合計しても141です。

この区分は所属する弁護士の人数によるもので、事務職員を含めた所員の数ではありません。それでも多くの事務所では、生成AIの契約・設定・ルールづくりを専任の担当者に任せることは難しく、経営弁護士か事務局長が本業の合間に判断することになるでしょう。大規模な組織向けの管理の仕組みをそのまま持ち込むより、少人数でも回せる形を選ぶことが、導入を途中で止めないための現実的な考え方となります。

※弁護士白書2025年版(日本弁護士連合会)の資料1-3-2「事務所の規模別に見た事務所数の割合」によります。弁護士法人の主たる事務所・従たる事務所などはまとめて1事務所として数えられています。

規模ごとの入口の目安としては、弁護士1人の事務所なら弁護士本人と事務職員が同じ環境を使えるかどうか、数名の事務所なら弁護士ごとに使うサービスがばらばらになっていないか、10名を超える事務所なら所員の出入りに合わせたアカウントの管理が回るかどうかが、最初に確かめたい点でしょう。どの規模でも、弁護士の判断を代わりにさせる道具ではなく、下書きと整理の時間を減らす道具として位置づけることから始めてみてください。

業務ごとの生成AIの使い方

生成AIが役に立つのは、弁護士の判断そのものではなく、判断の前後にある下書き・整理・要約の工程です。書面に最終的な責任を持つのは弁護士であり、出力は必ず自分で確認して直す前提で使うことになります。業務ごとに、向いている使い方と気をつけたい点を見ていきましょう。

契約書レビュー・起案での生成AI活用

契約書の業務では、ひな形からの初稿づくり、相手方ドラフトの論点の洗い出し、条項の言い換え案の作成に生成AIを使うことが出来ます。例えば業務委託契約のドラフトを渡し、依頼者の立場から不利になり得る条項を挙げさせると、見落としがないかを確かめる確認リストとして役立ちます。一方で、出てくる修正案は一般論に寄りやすく、取引の経緯や依頼者の交渉上の立場までは踏まえていません。

実際の運用では、固有名詞や金額を伏せて条項だけを入力する方法と、学習に使われない法人向けの環境で原文ごと扱う方法の2つが考えられます。伏せる方法は手間がかかるうえに伏せ漏れも起きやすく、件数が多い事務所ほど、環境の側で守る考え方のほうが続けやすいでしょう。企業法務の案件では、条文の読み違いや準拠法の前提の取り違えが出力に混ざることもあり、修正案を採用する前に、条文と現行の法令を自分で当たり直すことが欠かせません。

起案の場面では、依頼者から聞き取った取引の条件を箇条書きで渡し、条項の並びと抜けている条項の候補を出させる使い方が現実的です。そのまま使える完成品を求めるより、構成の叩き台と確認の観点をもらう道具と考えると、出力の質のばらつきにも振り回されにくくなります。英文契約の下訳や、和文の条項を英語でどう表現するかの候補出しも、弁護士が原文と照らし合わせる前提であれば作業時間の短縮につながるでしょう。

訴訟関連業務での生成AI活用

訴訟業務では、記録の要約、時系列表の作成、主張と証拠の対応関係の整理、尋問事項の案出しといった使い道があります。大量のメールや陳述書から日付と出来事を抜き出して並べる作業は、人が一から行うと時間のかかる工程で、下書きを生成AIに任せる効果が見えやすい部類に入ります。準備書面については、主張の骨子や反論の観点を並べさせ、構成を考える材料にする使い方が現実的です。

注意したいのは、訴訟記録には依頼者だけでなく、相手方や証人、第三者の個人情報が多く含まれる点になります。証拠の要約をそのまま書面に使うと、原文にない事実が紛れ込むこともあるため、引用する箇所は必ず記録の原本と照らし合わせてください。また法務省が2026年8月に公表したガイドラインは、訴状などの裁判所への提出書面の作成に係るサービスを、法律事務の取扱いと評価され得る例に挙げています。これはサービスを提供する側についての整理ですが、訴訟向けをうたう外部サービスを選ぶときの目安にもなるでしょう。

時系列表をつくる場合の流れとしては、記録から日付と出来事を抜き出させて表の形に並べさせ、各行に記録のどの部分が根拠かを添えさせる方法が考えられます。根拠の箇所が示されていれば、弁護士や事務職員が原本と照らし合わせる作業も短く済みます。尋問事項の案出しでは、主張と証拠の対応を渡したうえで、相手方の立場から突かれそうな点を挙げさせると、準備の漏れを確かめる材料になります。いずれも出てきた案をそのまま使うのではなく、事件を知る弁護士が取捨選択することが前提です。

書き上げた準備書面の推敲にも使い道があります。誤字や表記の揺れ、主語と述語のねじれ、同じ事実の書き方が箇所によって違っていないかを指摘させれば、提出前の見直しの補助になります。ただし、指摘に従って直すかどうかは書き手の判断で、主張の中身に関わる修正まで生成AIに任せるのは避けたいところです。

法律相談・依頼者対応での使い方

依頼者対応では、相談メモの整理、依頼者への説明文の平易な言い換え、定型的な連絡メールの下書きに使うことが出来ます。法律用語の多い説明を、依頼者が読みやすい言葉に直す作業は、出力をそのまま使わなくても、下書きとして時間の短縮につながります。一方で、相談内容を入力する時点で依頼者の秘密を扱うことになるため、どの環境に入れてよいかを先に決めておく必要があります。

相談の受付で使うチャットボットのように、依頼者と直接やり取りする形に踏み込む場合は、誤った案内が依頼者の判断に影響するおそれも出てきます。まずは事務所の中で、弁護士が確認してから外に出す使い方から始めるのが無理のない順番です。

外国籍の依頼者や海外の取引先とのやり取りでは、英文メールの下書きや、受け取った英文の要旨の把握にも使うことが出来ます。訳文は意味の取り違えが起きることもあるため、法的な意味を持つ部分は弁護士が原文と照らし合わせてから送るようにしましょう。

面談の後に相談メモを整える作業も、使い方の候補に入ります。聞き取った事実を時系列に並べ直し、追加で確認すべき点を挙げさせると、次回の面談で聞き漏らしを減らす助けになります。この場合も、メモには依頼者の秘密が含まれるため、事務所が契約した環境だけで扱うことが前提です。

リサーチ・判例調査の下準備

調査の場面では、論点の整理や調べる順番の組み立て、関連しそうな法令名の洗い出しに生成AIを使うことが出来ます。反対に、判例の事件番号や判決日、条文の文言を生成AIの答えから直接拾うことは避けましょう。生成AIは、実在しない判例や条文を、もっともらしい体裁で示すことがあるためです。調べものの起点には使っても、根拠として書面に載せるのは、判例データベースやe-Gov法令検索などの一次資料で確かめたものだけにする運用が安全でしょう。

事務所運営と事務職員の業務

事務所の運営では、所内の手順書やお知らせ文、打合せの議事メモ、採用の募集文、ウェブサイトの文章の下書きなど、依頼者の秘密を含まない文書から使い始めることが出来ます。事務職員が担う書類の整形や期日の一覧づくりも、入力してよい情報の範囲を決めておけば効率化の対象になります。弁護士だけでなく事務職員も使う前提に立つと、次の節から扱う守秘義務とルールの話は、事務所全体で考えるべき問題になってきます。

業務ごとに入力してよい情報の線を引く

業務別の使い方を事務所で揃えるときは、何に使うかと同時に、何を入れてよいかの線を業務ごとに引いておくことが大切です。同じ契約書の業務でも、ひな形の条項の言い換えと、依頼者の取引条件が入った相手方ドラフトのレビューでは、扱う情報の重さがまったく違います。例えば次のように情報の種類で3段階に分けておけば、所員が迷ったときの判断の目安になります。

  • どの環境でも入れてよい情報:法令や公開された判例の一般的な内容、ひな形、所内の手順書、募集文など、秘密や個人情報を含まないもの
  • 事務所が契約した法人向けの環境でのみ入れてよい情報:依頼者の取引条件、事件の経過、陳述書や証拠の内容など、秘密や個人情報を含むもの
  • 原則として入れない情報:依頼者が入力を望まないと伝えている事件の情報や、秘密保持契約で外部への開示が制限されていて条項の確認が済んでいない情報

この線引きは、次の節以降で扱う守秘義務や学習の扱いの確認と組み合わせて初めて意味を持ちます。使ってよい環境が事務所で決まっていなければ、2段目の情報をどこに入れればよいのか、所員には判断のしようがないでしょう。

生成AIへの頼み方の例

生成AIへの頼み方は、役割・材料・出してほしい形の3つを伝えると、使える下書きが返ってきやすくなります。次の例は、いずれも事務所が契約した法人向けの環境で使う前提のものです。

  • 契約書のレビュー:あなたは受託者側の立場で契約書を確認する担当者です。次の業務委託契約書について、受託者に不利になり得る条項を挙げ、その理由と確認すべき点を箇条書きで示してください。
  • 時系列表:次のメールと陳述書から、日付・出来事・根拠の箇所の3列で時系列表を作ってください。日付が読み取れないものは推測せず、不明と書いてください。
  • 依頼者への説明文:次の説明を、法律に詳しくない依頼者が読んで分かる言葉に直してください。法的な結論は変えず、専門用語には短い説明を添えてください。
  • 調査の下準備:次の論点について、確認すべき法令名と、判例データベースで使う検索語の候補を挙げてください。判例名や事件番号は挙げないでください。

最後の例のように、あえて判例名を挙げさせない頼み方にすれば、架空の判例を受け取ってしまう危険を小さくすることが出来ます。出てきた答えはどの例でも下書きとして扱い、弁護士が確かめてから使ってください。

ハルシネーション(架空の判例・条文)と一次資料での確認

ハルシネーションとは、生成AIが事実と異なる内容を、正しい情報のような文章で出力してしまう現象のことです。法律実務では、存在しない判例、実在する判例の誤った要旨、改正前の条文、別の法律の条文番号といった形で現れることになります。出力の文章が整っているほど誤りに気づきにくいため、確認の手順を人の側で決めておくことが対策の中心となるでしょう。

東京弁護士会の会報LIBRA(2026年7・8月号)の紹介によると、同会のガイドラインは、出力結果を業務に用いる場合には一次資料の確認を含む検証を行うことを推奨しているとのことです。同じ紹介では、ガイドラインの内容が弁護士職務基本規程の秘密保持義務(23条等)、信用(6条)、法令等調査義務(37条)などとも関係するとされています。誤った判例を書面に引用した場合に責任を負うのは、生成AIではなく書面を出した弁護士です。

確認の手順を決めておく

確認の手順は、書類の種類ごとに最低限のものを決めておくと、事務職員が下調べに使う場合にも同じ基準を当てはめることが出来ます。例えば次のような手順が考えられます。

  • 判例は、事件番号・裁判所・判決日を判例データベースで検索し、本文を開いて要旨と一致するかを見る
  • 条文は、e-Gov法令検索などで現行の条文を開き、施行日と改正の有無を確かめる
  • 文献や論文を引用するときは、書誌情報だけでなく、該当するページを実際に開いて確認する
  • 生成AIに出典を示させた場合も、その出典が実在し、内容が一致するかを別に確かめる
  • 重要な論点は、別の生成AIに同じ質問をして、答えが食い違う箇所を重点的に確認する

最後の項目は、複数の生成AIを使える環境があれば手間をかけずに加えられる確認になります。答えが一致しても正しいとは限りませんが、食い違った箇所は人が確かめるべき場所の目印になるでしょう。事務所のルールとして、どの確認をどの書類に必ず行うかを決め、確認した人と参照した一次資料を起案の記録に残してください。

生成AIに調べものを頼むときの問いかけ方も、誤りを減らす助けになります。判例を挙げさせるより、論点の整理と、調べるべき法令や判例データベースの検索語の候補を出させるほうが、架空の判例をそのまま受け取ってしまう危険を小さく出来ます。答えの中に日付や番号が出てきたら、それは確認すべき項目の一覧だと受け止めるのが、実務に合った付き合い方でしょう。

弁護士と事務職員の確認の分担

事務職員が生成AIで下調べをする場合は、どこまでを事務職員が確かめ、どこからを弁護士が確かめるかを決めておくと、確認の抜けを防げます。例えば、判例や条文が実在するかと出典のページの確認までは事務職員が行い、その内容が事件の主張に使えるかの判断は弁護士が行う、という分け方が考えられます。分担を決めずに任せると、事務職員は弁護士が見ると思い、弁護士は事務職員が確かめたと思い込むすき間が生まれてしまいます。

守秘義務・個人情報保護法と生成AIへの入力

依頼者の情報を生成AIに入力してよいかは、条文に答えが書かれているわけではなく、使う環境の条件と依頼者への説明によって判断が変わる問題です。弁護士法にも弁護士職務基本規程にも、生成AIを名指しした規定は見当たらないため、秘密保持の規定をどう当てはめるかを事務所として考えておく必要があります。先に、関係する条文を正確に押さえておきましょう。

弁護士法23条と弁護士職務基本規程23条

弁護士法23条は「秘密保持の権利及び義務」の見出しのもと、弁護士又は弁護士であった者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負うと定めています。弁護士職務基本規程23条(秘密の保持)は、弁護士は正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならないと定めるもので、法律ではなく日弁連の会規になります。同じ23条という番号のため混同されやすいのですが、前者は法律、後者は会規という違いがあります。

同じ規程の19条は、事務職員など自らの職務に関与させた者が、法律事務所の業務に関して知り得た秘密を漏らしたり利用したりすることのないよう、弁護士が指導・監督しなければならないと定めています。18条は、事件記録を保管・廃棄するときに、秘密やプライバシーに関する情報が漏れないよう注意することを求めるものです。生成AIに入力した記録や会話履歴がどこに残るかは、この18条の観点からも確認しておきたい点でしょう。

※弁護士職務基本規程は平成16年11月10日会規第70号、最終改正は令和3年6月11日会規第116号(令和4年11月1日施行)の版で確認しています。

刑法134条の秘密漏示罪

刑法134条1項は、弁護士などが正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処すると定めています。条文に生成AIの語はなく、入力がこれにあたるかは、入力した情報を誰が見られるのか、どのように保存されるのかといった事情を踏まえて考えることになるでしょう。刑事罰の規定まである職業であることを前提に、入力の可否を所員それぞれの感覚に任せない体制を作っておきたいところです。

個人情報保護委員会の注意喚起

個人情報保護法の面では、個人情報保護委員会が2023年6月2日に、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しました。事業者が本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、そのデータが応答の出力以外の目的で取り扱われる場合には、個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性があるとしています。入力する場合は、提供事業者が機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めている点が、実務の手がかりになります。依頼者の氏名や住所に限らず、相手方や証人、従業員の情報も個人データに含まれ得ることを忘れないでください。

依頼者との間で秘密保持の条項を別に結んでいる場合や、企業の依頼者から受け取った資料に秘密保持契約が付いている場合は、その契約の条項も確認が必要です。契約で外部への開示が制限されている情報を扱うときは、生成AIの提供事業者がその外部にあたるかどうかも含めて、条項ごとに判断することになります。

入力してよいかを判断する4つの材料

入力の可否を考えるときの材料は、東京弁護士会のガイドラインが選定基準として挙げる項目と重なる部分が多くあります。LIBRAの紹介では、入力情報が学習に利用されないこと、サービス提供事業者が入出力された情報に正当な理由なくアクセスできないこと、暗号化等の厳格なセキュリティ対策が実施されていること、入出力情報が一定期間経過後に自動的に削除されるか利用者において削除できることを、利用規約等により確認することが推奨されているとされています。事務所で判断するときは、次の4点に整理すると考えやすくなるでしょう。

  • 入力した情報が学習に使われるか既定で学習に使わないプランか、利用者が設定を変えないと学習に使われ得るプランかを確認します。
  • 提供事業者が入出力の中身を見られるかどのような場合に事業者がアクセスし得るのかを、利用規約とデータの取扱いの説明で確かめます。
  • どこに、どれだけの期間残るか会話履歴の保存期間、削除の方法、削除した後の扱いを確認します。事件記録の保管・廃棄と同じ目で見ます。
  • 依頼者にどう説明しているか秘匿性の高い情報を入れる場合の説明、同意の取り方、委任契約書への記載を決めておきます。

4つのうち最初の3つは、使うサービスとプランを選んだ時点でほぼ決まる条件です。所員が思い思いのサービスを使っている状態では、事務所としてこの3つを確かめようがなくなってしまいます。

4つ目の依頼者への説明は、環境を選んだ後に事務所のルールとして決める事柄になります。環境の条件が確かめられていれば、依頼者から尋ねられたときにも、学習に使われないことや保存の期間を具体的に説明することが出来ます。

依頼者への説明と委任契約書

LIBRAの紹介によると、東京弁護士会のガイドラインは、秘匿性の高い情報を入力する場合には、その利用について説明を行い、必要に応じて同意を得る、委任契約書に明記するなどの適切な対応を求めているとされています。事務所として生成AIを使う方針を決めたら、委任契約書や受任時の説明に、利用する範囲と安全管理の方法を書き加えることを検討してみてください。依頼者から使わないでほしいと求められた場合の扱いも、あらかじめ決めておけば現場で迷わなくなります。

事務職員と外部の協力先への目配り

守秘の問題は、弁護士本人の使い方だけでは完結しません。職務基本規程19条が事務職員などへの指導・監督を求めている以上、事務職員が生成AIに何を入れているかも、弁護士が把握しておくべき範囲に入ってきます。翻訳や資料作成を外部の協力先に頼んでいる場合は、その先で生成AIが使われていないか、使われているならどの環境かを確かめる必要も出てくるでしょう。

外部に頼む作業については、依頼の段階で生成AIの利用の可否と条件を伝え、事務所のルールと同じ水準を求めることを検討してみてください。事務所の中だけを整えても、外に出した先で個人向けの無料版に入れられてしまえば、同じ問題が残ることになります。

所員が個人アカウントに依頼者の情報を入れてしまったと分かった場合の初動も、あらかじめ決めておきたい事柄です。会話履歴の削除や学習の設定の確認、担当弁護士への報告の順番を決めておけば、慌てずに対応出来ます。一般的な初動の考え方はChatGPTに機密情報を入力してしまったときの対応も参考になります。

学習に利用されない設定と法人版の選定基準

主要な生成AIは、個人向けプランと法人向けプランで入力データの学習の扱いが違い、法人向けは既定で学習に使わない形になっています。個人向けには、利用者が自分で設定を変えない限り学習に使われ得るものがあるため、所員の個人アカウントに任せる運用では確認が行き届かなくなってしまいます。個人向けプランの設定は所員が自由に変えられるため、事務所から一律に担保できません。

ChatGPT(OpenAI)の学習の扱い

OpenAIのヘルプでは、ChatGPT BusinessやChatGPT Enterprise、API Platformのデータは、明示的にオプトインしない限り既定でモデルの学習に使わないと説明されています。一方、個人向けのChatGPTでは提供されたコンテンツを学習に使うことがあるとされ、止めるには設定のデータコントロールにある「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにする必要があります。一時チャットは30日後にシステムから削除され、モデルのトレーニングには使用されないと案内されています。ChatGPT Businessの料金ページにも、業務データはデフォルトではモデルの学習に使用されない旨の記載があります。

Claude(Anthropic)の学習の扱い

Anthropicは、TeamやEnterpriseなどの商用製品の入力と出力を、既定でモデルの学習に使わないと説明しています。公式の料金ページの比較表でも、モデルのトレーニングはTeam・Enterpriseが「デフォルトではなし」、Free・Pro・Maxが「オプトアウト」と表示されているのを確認出来ます。個人向けのFree・Pro・Maxについては、2025年8月28日の発表で、学習に使うかどうかを利用者が選ぶ形に変わりました。学習を許可した場合のデータ保持は5年、許可しない場合は30日とされています。設定はプライバシー設定のモデル改善(Model Improvement)の項目で確認します。

Gemini(Google)の学習の扱い

Google Workspaceの管理者向けヘルプでは、Workspaceのコンテンツが人間によってレビューされることも、許可なくドメイン外で生成AIモデルのトレーニングに使用されることもないと説明されています。個人のGeminiアプリは、Geminiアプリ アクティビティの「アクティビティの保存」で履歴の扱いを設定する仕組みで、オフにしても72時間はアカウントに保持されたうえで削除されます。フィードバックを送った場合はその内容が最長3年保持されることもあるため、依頼者の情報を扱う業務で個人のGeminiアプリを使うことはおすすめしにくいでしょう。

所員の個人向けプランの設定を確かめる手順

法人プランへ移るまでの間や、移行の際に個人側の設定を点検してもらう場面では、確かめる場所をサービスごとに示しておくと所員が迷いません。各社の公式ヘルプで確認できた設定の場所は次のとおりです。

  • ChatGPT(個人向け):プロフィールアイコンから設定を開き、データコントロールの「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにする。学習に使わせたくない会話には一時チャットを使う方法もある
  • Claude(Free・Pro・Max):プライバシー設定のモデル改善(Model Improvement)の項目で、学習に使うかどうかを確かめる
  • Geminiアプリ(個人のGoogleアカウント):Geminiアプリ アクティビティの「アクティビティの保存」の状態を確かめる。オフにしても72時間はアカウントに保持される

ただし、個人側の設定を点検してもらっても、その設定が続いているかを事務所から確かめる手段はありません。点検はあくまで移行までのつなぎと考え、依頼者の情報を扱う業務は法人プランの環境に集めていくのが筋でしょう。

3社の法人プランの条件を確認日つきで並べる

学習の扱いと人数の条件、料金を、確認日つきで並べると次のようになります。

  • ChatGPT Business(OpenAI)は、従業員2〜200名のチーム向けで、業務データは既定でモデルの学習に使われない扱いです。標準のスタンダードシートは年払いで月20ドル、月払いで月25ドル、日本語の料金ページの円表示では年払いで月3,050円、月払いで月3,850円です。上位のプレミアムシートは年払いで月100ドル、月払いで月125ドルです。
  • Claude Team(Anthropic)は、2〜150名のチーム向けで、商用製品として既定で学習に使われない扱いです。スタンダードシートは年払いで月20ドル、月払いで月25ドル、プレミアムシートは年払いで月100ドル、月払いで月125ドルです。
  • Google Workspace(Gemini)は、Business Starterが月800円、Business Standardが月1,600円、Business Plusが月2,500円(税別・年間プランの月額)で、許可なくドメイン外で生成AIモデルのトレーニングに使われない扱いです。GeminiアプリはBusiness Starterから基本的なアクセスがあり、ドキュメントやスプレッドシートの中でGeminiを使えるのはBusiness Standard以上です。

※確認日:ChatGPT Businessのドル表示と学習の記載は2026年9月29日、円表示は2026年9月19日、OpenAIの個人向けの設定は2026年9月17日、Claudeの料金・学習の記載とGoogle Workspaceの料金・学習の記載は2026年9月29日に、各社の公式ページで確認しています。ChatGPTの料金表示に税の記載はありません。Claudeの料金ページは税別の表示で、2026年9月16日の確認では、日本から開くと消費税10%込みの金額で表示されました。価格とプランは変わることがあるため、契約前に公式ページで最新の内容をご確認ください。

法人プランを選べば学習の問題は既定で片付きますが、東京弁護士会のガイドラインが挙げる事業者のアクセスや削除の条件までは、プラン名だけでは分かりません。契約前に、各社の利用規約とデータの取扱いの説明で、前の節の4つの材料を確かめておきましょう。

確かめる際は、プラン名の比較だけで終わらせず、実際に契約する画面や管理者の設定画面で、学習の扱いの表示を自分の目で見ておくと確実です。各社の説明は英語のヘルプにしか書かれていないこともあり、日本語の画面の表記と対応させて記録しておけば、所員への説明にもそのまま使えます。

所員が個人アカウントで使うリスク(シャドーAI)

シャドーAIとは、事務所が把握・管理していない生成AIを、所員が自分の判断で業務に使っている状態のことです。法律事務所では、弁護士が自分で契約した個人向けプランや、事務職員が無料版で試しているケースが典型になります。悪意がなくても、事務所から見えない場所に依頼者の情報が残ってしまう点が問題でしょう。

管理者から見えなくなるもの

所員が個人アカウントで使っていると、経営弁護士や事務局長からは、次のことが分からなくなってしまいます。

  • 学習の設定がオンになっているか、オフになっているか
  • どの事件の情報を、いつ、どのAIに入力したか
  • 会話履歴がどこに、どれだけの期間残っているか
  • 退所した後も、本人のアカウントに依頼者の情報が残り続けていないか
  • 無料版や個人向けプランの規約が変わったときに、誰が気づくのか

職務基本規程19条は、事務職員などが業務に関して知り得た秘密を漏らしたり利用したりしないよう、弁護士に指導・監督を求めています。所員の使い方が見えない状態では、この指導・監督を尽くしていると説明することは難しくなるでしょう。禁止のルールだけを配っても、使える環境がなければ利用は見えなくなるだけです。

まず今の使い方を聞き取る

対策の最初の一歩は、所員がいま何を使っているかを、責めずに聞き取ることでしょう。使っているサービスの名前、無料版か有料の個人向けプランか、どの業務に使ったか、学習の設定を確かめたことがあるかの4点を聞けば、事務所の状況はおおむね見えてきます。正直に答えてもらうためには、これまでの利用を問題にするためではなく、事務所として使える環境を用意するための確認だと先に伝えることが欠かせません。

聞き取りの結果、個人向けプランで依頼者の情報を扱っていたことが分かった場合は、その会話履歴の扱いを本人と一緒に確かめ、事務所の環境へ移る段取りを決めましょう。禁止を言い渡して終わりにすると、次からは聞き取りにも本当のことが出てこなくなってしまいます。

シャドーAIが生まれやすい3つの経路

1つ目の経路は、費用を抑えるために弁護士だけに法人プランを配り、事務職員には配らないケースになります。記録の整理や書面の整形を担う事務職員こそ文章を加工する機会が多く、手元の無料版に頼ってしまうことが起こり得ます。

2つ目は、事務所で1つのAIだけを契約し、ほかのAIも試したい所員が個人で別のサービスに登録するケースです。生成AIは得意分野が分かれており、答えを見比べたい場面も多いため、1種類に絞る運用がかえって持ち出しの動機を生むことがあります。

3つ目は、自宅や移動中に、私物のスマートフォンで作業の続きをするケースでしょう。事務所のパソコンでは使っていなくても、個人のアプリに依頼者の情報が入っていれば、同じ問題が残ってしまいます。

どの経路も所員の注意だけでふさぐのは難しく、事務所として全員が使える環境を用意し、そこに利用を集めることで、ようやく見える状態にできるものです。シャドーAIの考え方と対策は、シャドーAI(野良AI)の解説でも詳しく扱っています。

個人アカウントに頼らず、事務所の環境を1つにする

所員全員が同じ環境を使えれば、学習の設定もログも事務所でまとめて確かめられます。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

弁護士法72条と生成AIサービスの関係

弁護士法72条は、弁護士又は弁護士法人でない者が、報酬を得る目的で、訴訟事件その他一般の法律事件に関して法律事務を取り扱うことなどを業とすることを禁じる規定です。AIを使った契約書関連のサービスがこれに触れるかについては、法務省が2023年8月と2026年8月にガイドラインを出しています。どちらもサービスを提供する側が72条に触れるかを整理したもので、弁護士が自分の業務でAIを使ってよいか否かを定めた文書ではない点を、先に押さえておきましょう。

令和5年8月のガイドラインの整理

法務省大臣官房司法法制部の「AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について」(令和5年8月)は、報酬を得る目的、事件性、法律事務の3つの要件のいずれかに該当しなければ72条に違反しないという整理を示しています。利用料等を受けない場合は通常は報酬目的に当たらないものの、他の有償サービスへの誘導などで実質的な対価関係があれば該当し得るとされました。事件性については、企業法務で扱う通常の業務に伴う契約の締結に向けた話合いや法的問題点の検討は、多くの場合事件性がないとの当局の指摘に留意しつつ判断されるべきとされ、紛争後の和解契約書の作成などは該当し得るとされています。

法律事務に当たり得る例としては、非定型の入力に応じて個別の事案を法的に処理し、具体的な契約書や修正案、法的リスクの有無や程度を表示する機能が挙げられました。反対に、ひな形の選択・反映にとどまる機能や、チェックリストとの字句の一致を表示するにとどまる機能は、該当しないとなり得る例とされています。

弁護士が自ら精査・修正して使う場合

弁護士が、サービスの結果も踏まえて契約書を自ら精査し、必要に応じて自ら修正する方法で利用するときは、通常72条に違反しないと考えられるというのが、同ガイドラインの4項の整理です。提供先の職員・役員である弁護士が使う場合も同じ扱いとされており、法律事務所の弁護士が出力を自分で確かめて使う形は、この考え方に沿うものといえます。出力を精査せずにそのまま依頼者へ渡す運用は、この整理が前提とする使い方から外れてしまいます。

令和8年8月の補完ガイドライン

2026年8月には法務省が「ビジネス分野におけるAI等法務業務支援サービス提供と弁護士法第72条の関係について(ガイドライン概要)」を公表し、令和5年のガイドラインを踏まえつつ、生成AI等の技術進展を受けて、分水嶺となり得る要件にしぼって解釈指針を補完しました。サービスの具体的な利用方法の最終判断は基本的に利用者に委ねられ、価値中立的なサービス提供と評価し得る場合には、利用者が事件性のある案件に使ったことだけで、提供者が法律事務を取り扱ったと評価するのは困難とされています。

そのうえで、事件性のある案件での利用を目指した設計でないこと、その利用に特化した機能を持たないこと、ガバナンス措置で不適切な利用を避ける体制があることを満たせば、一般的に抵触しないと考えられるサービスの例が示されました。文献その他のリサーチや法的問題点の検討の支援、書面の作成・審査・管理の支援、社内研修や経営判断の適法性確認を含むコンプライアンス業務の支援、内部通報事案の調査支援などが挙がっています。反対に、法的紛議が現に顕在化している事案や紛議がほぼ不可避な案件の処理を目指したサービス、訴状などの裁判所への提出書面や和解契約書など紛議を前提とした対外使用書面の作成に係るサービスは、法律事務の取扱いと評価され得る例として挙げられました。

提供者への推奨事項としては、弁護士に代わる判断や法的結論の正確性を保証すると想起させる表現を厳に慎むこと、事件性のある案件では利用できない旨のディスクレーマーの表示、根拠や参照元の情報の表示、弁護士資格者の監修・実質的関与、国内の問合せ窓口の設置が示されています。

弁護士が使う立場から読むときの注意

2つのガイドラインはサービスを提供する側の整理のため、弁護士が事務所の業務でAIを使う場面にそのまま当てはめて、使ってよいか・いけないかを決める文書ではありません。それでも、弁護士が自ら精査・修正して使う形が前提とされていることや、根拠の表示や弁護士の関与が推奨されていることは、事務所の使い方を考えるうえで参考になります。依頼者に出す成果物の中身に責任を持つのが弁護士であるという点は、どのサービスを使っても変わらないでしょう。

事務所がリーガルテックや汎用AIを選ぶときの確認項目

2つのガイドラインは提供者向けの整理ですが、事務所がサービスを選ぶときの確認項目に置き換えることも出来ます。弁護士が最終的に精査する使い方を前提に、次の点を確かめてみてください。

  • 弁護士が精査・修正する前提の設計になっているか弁護士の確認なしで結論まで完結するかのような説明をしていないか、法的結論の正確性を保証するような表現がないかを見ます。
  • 事件性のある案件での利用についての説明があるか利用できない場面を示すディスクレーマーがあるか、事務所の使い方がその範囲に収まるかを確認します。
  • 回答の根拠や参照元が表示されるか一次資料で確かめる手間が変わります。参照元が出ないサービスは、確認の手順を厚くする必要があります。
  • 弁護士資格者の監修や関与の体制が示されているかコンテンツや機能の設計に、資格者がどう関わっているかを説明資料で確かめます。
  • 国内の問合せ窓口があるか不具合や規約の解釈について、日本語で問い合わせられる窓口があるかを確認します。
  • 訴訟の提出書面や和解契約書の作成に特化していないか特化している場合は、提供の形態や弁護士の関与の仕方を提供者に確認します。
  • 汎用AIの場合は、法人プランの学習とデータの条件既定で学習に使わないか、事業者のアクセス、保存期間と削除の方法を、守秘義務の節の4つの材料と合わせて確かめます。

汎用の生成AIは特定の法律業務のために設計されたものではないため、選ぶときの確認は72条の観点よりも、守秘義務と学習の扱いが中心になるでしょう。契約書審査に特化したサービスの選び方は、リーガルチェックAIの解説も参考になります。

ChatGPT・Claude・Geminiと法律特化型ツールの使い分け

汎用の生成AIと法律特化型のリーガルテックは、どちらか一方を選ぶものではなく、役割を分けて併用する考え方が現実的です。法律特化型は、契約審査や法令・文献の調査といった特定の業務に向けて作られたサービスを指します。汎用のChatGPT・Claude・Geminiは、提供元も法人プランの形もそれぞれ異なるため、事務所の使い方に合わせて組み合わせを考えることになるでしょう。

法律特化型のサービスと汎用AIを両方契約すると、それぞれに費用と管理の窓口がかかります。まず汎用AIを事務所の共通の環境として整え、特定の業務の件数が多い場合に法律特化型を足す順番にすれば、管理の手間を増やしすぎずに済むでしょう。

ChatGPTを使う場面

ChatGPT Businessは従業員2〜200名のチーム向けのプランで、事務所の人数に合わせてシートを増やしたり減らしたりする形になります。文章の下書き・要約・言い換えといった幅広い作業の既定の道具として使いやすく、所員が個人向けのChatGPTに慣れている場合は、同じ画面の感覚で法人の環境へ移ってもらうことが出来ます。利用の多い方には上位のプレミアムシートもあり、全員を同じ席に揃える必要はありません。

Claudeを使う場面

Claude Teamは2〜150名のチーム向けで、スタンダードシートとプレミアムシートを組み合わせて契約する形です。準備書面の構成を見直したり、同じ論点について別の観点から文章を組み立て直したりする場面で、ChatGPTと並べて答えを見比べる使い方が考えられます。事務所で2つ目のAIとして入れるなら、全員分を契約するか、使う方を決めて一部に配るかを、シャドーAIの経路と合わせて考えてみてください。

Geminiを使う場面

事務所のメールや文書の管理にGoogle Workspaceを使っている場合は、契約中のプランでGeminiを使える範囲をまず確かめましょう。GeminiアプリはBusiness Starterから基本的なアクセスがあり、Business Standard以上ではより広いアクセスになるほか、ドキュメントやスプレッドシートの中でGeminiを使えるのもBusiness Standard以上です。すでに払っている費用の中で使える部分があるため、新たに契約するAIの数を考える前に、手元の契約を見直すと無駄を減らすことが出来ます。

法律特化型ツールを使う場面

契約審査や判例・文献の検索に特化したリーガルテックは、その業務の件数が多い事務所ほど、導入の効果を見込みやすいでしょう。選ぶときは、前の節の72条の確認項目に加えて、汎用AIと同じく学習とデータの扱いを確かめることが欠かせません。汎用AIとは別の契約になるため、費用と管理の窓口が増える点も検討の材料に入れておきましょう。

業務別の割り当ての例

割り当てを考えるときは、どのAIが優れているかより、事務所のどの業務にどの環境を使うかを先に決めるほうが運用しやすくなります。例えば次のような割り当てが考えられます。

  • 日常の文書づくり(連絡メール、所内文書、議事メモ):既定のAIを1つ決めて全員で使う
  • 契約書の起案・レビュー:既定のAIで叩き台を作り、重要な案件は2つ目のAIでも論点を問い直す。件数が多ければ契約審査に特化したサービスの導入も比べる
  • 訴訟記録の整理:法人向けの環境で、根拠の箇所を添えさせる形で要約や時系列表を作る
  • 調査の下準備:論点の整理と検索語の候補出しまでにとどめ、判例・条文は一次資料で確かめる
  • Google Workspaceでの文書作業:Business Standard以上の契約があれば、ドキュメントやスプレッドシートの中のGeminiを使う

割り当ては一度決めて終わりではなく、各社の新しいプランや機能が出たときに見直すことになります。

複数のAIを使い分ける運用のコツ

使い分けで大切なのは、用途ごとに既定のAIを1つ決め、判断が必要な場面だけ別のAIの答えと見比べることです。切り替えを所員それぞれの判断に任せると、使うサービスがばらばらになり、事務所として把握できなくなってしまいます。例えば、日常の文書づくりは既定の1つ、重要な書面の論点確認は2つ目のAIでも問い直す、調査は一次資料の検索語を出させるところまで、という程度の粗い割り当てで十分です。4つのAIの違いと割り当て方は、主要4AIの違いと使い分けで詳しく扱っています。

事務所の人数別に見る生成AIの費用

法人プランの費用は、どのサービスもシート(利用者)ごとの月額が基本で、人数とサービスの数の掛け算で増えていきます。ここでは事務所の規模を3つ想定し、各社の公式料金をもとに、年払いを選んだ場合の総額を計算してみました。

※計算の前提:1ドル=150円で計算した場合です。ChatGPT Businessは日本語の料金ページの円表示(スタンダードシート年払い・月3,050円、税の記載なし)、Claude Teamはスタンダードシート年払い・月20ドル(税別の表示)、Google WorkspaceはBusiness Standard・月1,600円(税別・年間プランの月額)で計算しています。料金の確認日は前の節の注記のとおりです。為替と価格は変わるため、実際の検討では各社の公式ページで最新の金額を確かめてください。合計は税の扱いが異なる金額を足したもので、Claude Teamは日本から契約すると消費税10%が加わります。

弁護士1人と事務職員1人の2名の事務所

弁護士白書で6割を超える弁護士1人の事務所を、事務職員1人と合わせた2名で考えてみます。ChatGPT BusinessとClaude Teamはどちらも2名から契約でき、ChatGPT Businessは2名で月6,100円・年間73,200円、Claude Teamは2名で月40ドル、1ドル=150円で計算した場合は月6,000円・年間72,000円です。2つを揃えても月12,100円・年間145,200円で、Google WorkspaceのBusiness Standardを加えると月15,300円・年間183,600円となります。

金額としては大きくない一方で、契約・設定・ルールづくりを弁護士本人が担うことになる点が、この規模の実際の負担になるでしょう。管理画面を複数持つより、確かめる場所を少なくする選び方が向いています。

弁護士2名と事務職員2名の4名の事務所

4名全員にChatGPT Businessを配ると、年払いで月12,200円、年間146,400円になります。Claude Teamも全員に配ると月80ドルで、1ドル=150円で計算した場合は月12,000円、年間144,000円が加わります。Google WorkspaceのBusiness Standardを4名分契約すると月6,400円、年間76,800円で、3つを揃えた場合の合計は月30,600円・年間367,200円です。

費用を抑えるために弁護士2名だけに配ると金額は半分になりますが、事務職員の2名が無料版に流れる経路を残してしまいます。4名の事務所では、所員全員を同じ環境に乗せられるかどうかが、金額以上に大きな分かれ目になるでしょう。

10名の事務所

10名では、ChatGPT Businessが月30,500円で年間366,000円、Claude Teamが月200ドルで、1ドル=150円で計算した場合は月30,000円・年間360,000円となります。Google WorkspaceのBusiness Standardは月16,000円・年間192,000円で、3つを全員に揃えると月76,500円・年間918,000円です。月払いを選ぶとChatGPT Businessは1人月3,850円となり、10名で月38,500円、年払いより年間96,000円高くなってしまいます。Claudeも月払いは1人月25ドルで、10名で月250ドル、1ドル=150円で計算した場合は年払いより年間90,000円の上乗せになります。

使う量が多い弁護士だけを上位の席にする場合、ChatGPT BusinessとClaude Teamのプレミアムシートは、どちらも年払いで月100ドルです。10名のうち2名をClaudeのプレミアムシートにすると、スタンダードとの差額は1人月80ドルで、2名分では月160ドル、1ドル=150円で計算した場合は月24,000円の上乗せとなります。

30名の事務所

30名では、ChatGPT Businessが月91,500円で年間1,098,000円、Claude Teamが月600ドルで、1ドル=150円で計算した場合は月90,000円・年間1,080,000円、Google WorkspaceのBusiness Standardが月48,000円・年間576,000円かかります。3つを全員に揃えた場合の合計は、月229,500円・年間2,754,000円です。30名規模になると、シートの追加と削除、退所者のアカウント停止、学習の設定の確認を、契約したサービスの数だけ繰り返す管理の手間も無視できなくなってしまいます。

金額と同じくらい、誰がどのサービスのアカウントを持っているかを把握し続けられるかを、検討の軸に入れてみてください。費用の考え方をさらに詳しく見たい場合は、ChatGPT法人プランの料金や、38サービスを並べた法人向け生成AIの料金比較も参考になります。

費用を比べるときに一緒に数えたいもの

シートの料金だけを比べると、管理にかかる時間や、配らなかった所員が無料版に流れた場合の危険が抜け落ちてしまいます。契約するサービスが増えるほど、アカウントの発行と停止、設定の確認、請求書の処理をサービスごとに繰り返すことになり、少人数の事務所ではその作業を経営弁護士か事務局長が担うことになるでしょう。年間の総額に加えて、月に何時間を管理に使うことになるかも見積もってみてください。

すでに事務所のメールにGoogle WorkspaceのBusiness Standard以上を使っている場合は、Geminiはその契約の中で使えるため、上の試算から差し引いて考えることが出来ます。反対にBusiness Starterを使っている場合、ドキュメントやスプレッドシートの中でGeminiを使うにはBusiness Standard以上への変更が必要で、差額は1人月800円、10名なら月8,000円・年間96,000円となります。

生成AIの出力と著作権の注意点

生成AIの出力を書面や事務所の発信に使うときは、著作権の面でも注意が必要です。出力が既存の文章や図表と似た表現になることがあり、そのまま使うと他人の著作物を利用したと評価されるおそれが残ります。個別の事案での判断は事情によって変わるため、ここでは事務所の運用として押さえておきたい一般的な点に絞りましょう。

  • 書籍・判例評釈・有料データベースの記事を丸ごと入力する前に、その利用規約や契約で許されている使い方かを確認する
  • 出力に既存の文献と似た言い回しが含まれていないか、引用として扱うべき部分がないかを確認する
  • 事務所のウェブサイトやセミナー資料に出力を使う場合は、下書きとして扱い、自分の言葉で書き直す
  • 画像生成AIの出力を広告や資料に使う場合は、各サービスの利用規約で商用利用の条件を確認する

依頼者から受け取った資料にも第三者の著作物が含まれていることがあり、入力の可否は守秘義務だけでなく、権利の面からも考える必要があるでしょう。著作権の論点は法改正や裁判例の動きもあるため、事務所のルールには、判断に迷ったら担当の弁護士が確認するという手順を入れておくのが無理のない形です。

事務所のウェブサイトのコラムやセミナー資料のように広く公開する文章は、書面以上に多くの人の目に触れることになります。生成AIで下書きを作った場合も、参考にした文献を自分で確かめ、引用する部分は出典を示し、それ以外は自分の言葉で書き直しておきましょう。依頼者の事例を下敷きにした発信では、守秘の面から事例が特定されない形になっているかも、あわせて確かめてみてください。

事務所内ルールの策定と周知

事務所の生成AIルールは、弁護士会の指針を土台に、事務所で使う環境と所員の役割に合わせて作るのが近道です。日弁連のAI戦略ワーキンググループの「弁護士業務における生成AIの利活用等に関する注意事項」は、LIBRAの紹介によると2025年9月に取りまとめられ、2026年2月に更新版が公表されました。会員限りの資料で、日弁連の公式見解を示すものではなく、綱紀・懲戒の直接の基準となるものでもないと位置づけられているため、内容は、所属の弁護士が日弁連の会員向けの案内で確認してください。

東京弁護士会のガイドラインも本体は会員限定で、LIBRAの紹介では、遵守を義務付けるものではない推奨事項であり、綱紀・懲戒の直接の基準とされるものではないとされています。整理の観点は、生成AIサービスの選定基準、誤情報(ハルシネーション)とファクトチェック、依頼者への説明、弁護士報酬、安全管理措置の5つです。報酬については、提供される価値に応じた柔軟な報酬設計を採用することも否定されないとされ、安全管理については、弁護士情報セキュリティ規程に基づいて適切な安全管理措置を講じる必要があると指摘されていると紹介されています。

5つの観点を事務所のチェックリストに落とす

5つの観点を、事務所が所員に配るルールの項目に置き換えると、次のような形になります。観点の名前はLIBRAの紹介によるもので、各項目の書き方は事務所の実情に合わせて調整してください。

  • 選定基準:業務で使ってよいサービスとプランを名指しで決めている事務所が契約した法人プランだけを業務に使い、個人アカウントや無料版には依頼者の情報を入れないことを明記します。
  • 選定基準:学習・アクセス・暗号化・削除の条件を確かめた記録がある利用規約やデータの取扱いの説明で確かめた日と、参照した資料を残します。規約が変わったときの見直しにも使えます。
  • 誤情報:判例・条文・文献は一次資料で確認してから書面に載せる判例データベース、e-Gov法令検索、文献の該当ページなど、確認に使う資料を決めておきます。
  • 誤情報:確認した人と確認した資料を起案の記録に残す事務職員が下調べをした場合も、弁護士が最終確認をしたことが分かる形にします。
  • 依頼者への説明:秘匿性の高い情報を入れる場合の説明と同意の取り方を決めている委任契約書や受任時の説明に、利用の範囲と安全管理の方法をどう書くかの文例を用意します。
  • 依頼者への説明:依頼者が利用を望まない場合の扱いを決めているその事件では入力しない、担当者に周知する、といった手順を定めます。
  • 弁護士報酬:生成AIで短縮した作業の報酬の考え方を揃えている提供する価値に応じた報酬設計の考え方を、所内で共有しておきます。
  • 安全管理措置:アカウントの発行・停止と端末の扱いを定めている弁護士情報セキュリティ規程に沿って、入所時の発行、退所時の停止、私物端末での利用の可否を決めます。
  • 安全管理措置:事務職員を含む全員に研修と指導・監督を行う職務基本規程19条の指導・監督の方法として、研修の時期と内容を決めます。
  • 見直し:担当者と時期を決めている各社の規約や料金の変更、弁護士会の指針の更新があったときに、このチェックリストを確かめ直します。

1枚にまとめたチェックリストは、所員に配るだけでなく、依頼者から生成AIの使い方を問われたときの説明資料としても使うことが出来ます。社内ルールの文書の組み立て方は、生成AIの社内ガイドラインの作り方も参考にしてみてください。

所員への配布と周知

ルールは配っただけでは守られにくく、事務職員を含めた全員に、なぜそのルールなのかを短く説明する場を設けることが大切です。特に事務職員には弁護士と同じ守秘の意識を求めることになるため、規程19条の考え方と、入力してよい情報・いけない情報の具体例を示すと理解が進みやすくなります。新しく入所した方には、アカウントを発行する日にルールの説明も済ませる流れにしておきましょう。

具体例は、事務所の実際の業務から選ぶと伝わりやすいでしょう。例えば、依頼者の氏名を伏せた契約条項の言い換えは法人の環境でのみ可、相手方の陳述書の要約は担当弁護士の指示がある場合に限る、個人のスマートフォンのアプリには一切入れない、といった形で、場面ごとに線を引いて示すことが出来ます。

研修は長い時間をかける必要はなく、30分ほどで、事務所で使ってよい環境、入れてよい情報の3段階、一次資料での確認の手順、困ったときの相談先の4つを伝えれば十分でしょう。実際の画面を見せながら、法人の環境へのログインの仕方や、一時的な作業の履歴の消し方まで一緒に確かめておくと、翌日から迷わずに使い始めてもらえます。

委任契約書と受任時の説明に書き加える内容

依頼者への説明を事務所で揃えるには、委任契約書や受任時の説明資料に入れる内容を、あらかじめ決めておくのが現実的です。書き加える内容としては、生成AIを使う業務の範囲、使う環境が学習に使われない法人向けのものであること、出力は弁護士が確認したうえで使うこと、依頼者が望まない場合は使わないことなどが考えられます。文言は事務所の方針と実際の環境に合わせて決め、LIBRAで紹介された東京弁護士会のガイドラインの考え方にも照らして確かめてみてください。

生成AIで短くなった作業と報酬の考え方

生成AIで起案や整理の時間が短くなると、時間を基準にした報酬の考え方との関係をどう整理するかという問いが出てきます。LIBRAの紹介によると、東京弁護士会のガイドラインは、提供される価値に応じた柔軟な報酬設計を採用することも否定されないとしているとのことです。事務所としては、生成AIの利用料を依頼者に請求するのか、作業時間はどう記録するのかといった点を所内で揃え、依頼者に説明できる形にしておくことになるでしょう。

弁護士ごとに扱いが違うと、同じ種類の事件でも依頼者によって請求の考え方が変わってしまいます。報酬の扱いは事務所の経営の判断そのものであり、ルールづくりの段階で経営弁護士が方針を示しておきましょう。

ルールの見直し

生成AIのサービスは、料金や規約、学習の扱いの説明が変わることがあり、この記事で確認した各社の記載も2026年9月時点のものです。見直しの担当者と時期を決め、各社の規約の変更や弁護士会の指針の更新があったときに、チェックリストを改めて確かめる運用にしてください。点検の項目を広げたい場合は、生成AIのセキュリティ対策チェックリストも役に立ちます。

見直しの際には、この半年で所員から出た質問や、判断に迷った場面を集めておくと、ルールのどこが分かりにくいかが見えてきます。ルールを厳しくするだけでなく、使ってよい場面を具体的に書き足すことも、個人アカウントへの持ち出しを減らす手立てになるでしょう。

事務所として安全に生成AIを使うための5つの手順

事務所として安全に使うための道筋は、環境を1つに決め、学習させない設定を確かめ、ログを残し、所員全員に配り、複数のAIを使える状態にするという順に進めると無理がありません。事務所の規模が小さくても、この順番は変わらないでしょう。

手順1:業務で使う環境を事務所として1つに決める

最初に、業務で依頼者の情報を扱ってよい環境を事務所として決め、それ以外の個人アカウントや無料版では扱わないことを明確にします。使うAIが複数あっても、契約と管理の窓口が1つにまとまっていれば、所員の迷いも管理の手間も減らすことが出来ます。

手順2:学習させない設定と保存の条件を確かめる

法人プランを選んだうえで、学習に使われない扱いが全員に一律で効いているか、会話履歴がどこにどれだけの期間残るかを、利用規約とデータの取扱いの説明で確かめましょう。確かめた日と参照した資料を記録に残せば、依頼者から問われたときにそのまま説明の根拠になります。

手順3:ログを残し、利用の状況を見えるようにする

誰がいつどのAIを使ったかを事務所側で確認できる状態にしておけば、規程19条の指導・監督の実際を説明しやすくなるでしょう。ログは所員を疑うためではなく、問題が起きたときに経緯を確かめ、依頼者に説明するための記録と位置づけるのが自然です。ログの取り方の考え方は、生成AIの利用ログの解説で扱っています。

ログで見ておきたいのは、使っている所員の数と使われ方の偏り、想定していない業務での利用、退所した方のアカウントが残っていないかといった点になります。毎日細かく見る必要はなく、月に一度、事務局長が一覧を確かめる程度でも、事務所として把握している状態を保つことが出来ます。

手順4:所員全員に配り、個人アカウントからの移行を案内する

弁護士だけでなく事務職員も含めた全員にアカウントを配り、個人アカウントで使っていた方には、事務所の環境への移行と個人側の履歴の扱いを案内してください。全員が同じ環境を使うことで、シャドーAIの経路をふさぎやすくなり、退所時のアカウントの停止も1か所で済みます。

退所の手続きには、事務所のアカウントの停止に加えて、個人アカウントに依頼者の情報を残していないかの確認も入れておきましょう。入所の日にアカウントを発行し、退所の日に停止するという流れを、鍵や入館証の受け渡しと同じ手続きの一覧に並べておくと、抜けが起きにくくなります。

手順5:複数のAIを使い分けられる状態にしておく

答えを見比べたい場面や作業の違いに合わせて、複数のAIを事務所の管理下で使えるようにしておくと、個人で別のサービスに登録する動機が減っていきます。各社と個別に契約する場合は、費用が人数とサービスの数の掛け算で増えることを、前の節の試算と合わせて確かめてみてください。複数のAIを1つの環境で使う方法は、マルチAIの解説にまとめています。

最初の1か月の進め方の例

5つの手順を少人数の事務所で進める場合、1か月ほどを目安に次のように区切ると、本業の合間でも進めやすくなります。

  • 1週目:所員への聞き取りで今の使い方をつかみ、業務で使う環境の候補を2〜3に絞る
  • 2週目:候補の利用規約とデータの取扱いの説明で、学習・アクセス・保存・削除の条件を確かめ、記録に残す
  • 3週目:事務所のルールとチェックリストを作り、委任契約書や受任時の説明に書き加える内容を決める
  • 4週目:全員にアカウントを配って説明の場を設け、個人アカウントからの移行を案内する

最初から全業務で使う必要はなく、依頼者の秘密を含まない所内文書から始め、確認の手順が定着してから事件の業務に広げる順番でも十分です。使い始めて1〜2か月たった頃に、ログと所員の声をもとにルールを一度見直せば、実際の使い方に合った形に整っていくでしょう。

依頼者の情報を扱う環境を、事務所で1つに

UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で使える法人向けサービスです。所員の利用ログや権限、使えるモデルのON/OFFは管理者ダッシュボードでまとめて扱え、会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理します。月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。

UPGEAR AIの詳細を見る

よくある質問

弁護士が生成AIに依頼者の情報を入力すると守秘義務違反になりますか?
弁護士法23条や弁護士職務基本規程23条に生成AIを名指しした規定はなく、一律に違反になる、ならないとは言えません。入力した情報が学習に使われるか、提供事業者が中身にアクセスできるか、どこにどれだけ保存されるか、依頼者にどう説明しているかといった事情を踏まえて判断することになります。東京弁護士会のガイドライン(本体は会員限定)も、会報LIBRAの紹介によると、学習に利用されないことなどを利用規約で確認するよう推奨し、秘匿性の高い情報を入力する場合は依頼者への説明などを求めているとされています。
無料版のChatGPTを業務に使ってもよいですか?
個人向けのChatGPTは、OpenAIのヘルプで、提供されたコンテンツを学習に使うことがあると説明されています。設定でオフにすることは出来ますが、所員ごとの設定に任せる形では、事務所として確認が行き届きません。依頼者の情報を扱う業務では、既定で学習に使わない法人プランを事務所で契約し、その環境に利用を集めることをおすすめします。
生成AIで作った契約書のレビュー結果を依頼者に渡すと弁護士法72条の問題になりますか?
法務省の令和5年8月のガイドラインは、弁護士がサービスの結果も踏まえて契約書を自ら精査し、必要に応じて自ら修正する方法で利用するときは、通常72条に違反しないと考えられるとしています。ただし、このガイドラインはサービスを提供する側についての整理です。出力を精査せずにそのまま渡す運用は避け、弁護士が確認・修正したものを渡す形にしてください。
日弁連の生成AIの注意事項はどこで読めますか?
日弁連AI戦略ワーキンググループの「弁護士業務における生成AIの利活用等に関する注意事項」は、東京弁護士会の会報LIBRA(2026年7・8月号)の紹介によると、会員限りの資料とされています。2025年9月に取りまとめられ、2026年2月に更新版が公表されました。日弁連の公式見解ではなく、綱紀・懲戒の直接の基準でもないと位置づけられています。内容は日弁連の会員向けの案内で確認してください。
弁護士1人の小さな事務所でも生成AIのルールは必要ですか?
弁護士白書2025年版では、法律事務所の62.17%が弁護士1人の事務所です。弁護士が1人でも、事務職員が生成AIに何を入れるかも、弁護士職務基本規程19条の指導・監督の範囲に入ると考えられます。使ってよいサービス、入力してよい情報、一次資料での確認の手順の3点だけでも、書面にして共有しておくことをおすすめします。
事務職員にも生成AIのアカウントを配るべきですか?
事務職員に配らないと、記録の整理や書面の整形に手元の無料版を使う経路が残りやすくなります。事務所で契約した環境を全員に配り、入力してよい情報の範囲と確認の手順を同じルールで示すほうが、使い方を把握しやすくなります。人数分の費用がかかるため、各社のシート単価と事務所の人数で年間の総額を計算したうえで判断してください。
生成AIを使うことを依頼者に伝える必要はありますか?
東京弁護士会の会報LIBRA(2026年7・8月号)の紹介によると、同会のガイドラインは、秘匿性の高い情報を入力する場合には、その利用について説明を行い、必要に応じて同意を得る、委任契約書に明記するなどの対応を求めているとされています。ガイドラインは遵守を義務付けるものではない推奨事項とされていますが、依頼者との信頼の面からも、使う範囲と環境を受任時に説明しておくことをおすすめします。
Google Workspaceを使っていればGeminiだけで足りますか?
事務所の業務がGoogle Workspaceの文書作業に集まっているなら、Business Standard以上の契約でドキュメントやスプレッドシートの中のGeminiを使えるため、まずそこから始めることは出来ます。一方で、答えを別のAIと見比べたい場面がある場合や、所員が別のAIを個人で使い続けている場合は、1種類に絞ることで持ち出しの動機が残ることもあります。業務の割り当てとシャドーAIの経路の両面から判断してください。
生成AIの出力に誤りがあった場合、責任は誰が負いますか?
生成AIの出力を使って書面や助言を出した場合、その内容に責任を負うのは、書面や助言を出した弁護士です。東京弁護士会の会報LIBRA(2026年7・8月号)の紹介では、同会のガイドラインの内容は弁護士職務基本規程の法令等調査義務(37条)などとも関係するとされています。判例・条文・文献は一次資料で確かめ、確認した人と資料を記録に残す手順を事務所で決めておくことをおすすめします。
事務局長が最初に取りかかるべきことは何ですか?
最初に取りかかりたいのは、所員がいま何を使っているかの聞き取りです。使っているサービスの名前、無料版か有料の個人向けプランか、どの業務に使ったか、学習の設定を確かめたことがあるかを聞けば、事務所の状況はおおむね見えてきます。そのうえで、業務で使う環境を事務所として1つに決め、学習とデータの条件を確かめ、全員に配る順に進めると無理がありません。

まとめ

弁護士の生成AI活用は、契約書の起案やレビュー、訴訟記録の整理、依頼者への説明文、調査の下準備、事務所運営の文書づくりまで幅広く考えられます。どの業務でも、出力は下書きとして扱い、判例・条文・文献は一次資料で確かめてから書面に載せることが前提となります。

守秘義務の面では、弁護士法23条、弁護士職務基本規程23条・19条・18条、刑法134条、個人情報保護委員会の注意喚起を押さえたうえで、学習の扱い・事業者のアクセス・保存期間・依頼者への説明という4つの材料で入力の可否を判断することになるでしょう。弁護士法72条に関する法務省のガイドラインはサービスを提供する側の整理ですが、事務所がリーガルテックや汎用AIを選ぶときの確認項目としても使うことが出来ます。

費用の面では、ChatGPT Business・Claude Team・Google Workspaceはいずれも利用者ごとの月額が基本で、人数とサービスの数の掛け算で増えていきます。金額だけでなく、事務職員を含む全員に配れるか、管理の窓口をいくつ持つことになるかを合わせて比べることが、シャドーAIの経路を残さないための判断材料になります。

事務所として取り組むなら、依頼者の情報を扱ってよい環境を1つに決め、学習させない設定と保存の条件を確かめ、ログを残し、事務職員を含む全員に配る順で進めてみてください。法人のAI活用に関するほかの記事は、AI活用コラム一覧にまとめています。