物流AIの活用。中小の運送・倉庫会社は事務所の文章仕事から始める

物流AIとは、配車やルートの最適化、需要予測、倉庫のロボット、画像による検品など、物流の仕事にAIを使う取り組みの総称です。社員10〜200名の運送会社や倉庫会社がまず手を付けやすいのは、大がかりな設備より先に、事務所の文章仕事を生成AIで減らすことになります。運行指示書や事故の記録、荷主へのメールといった書類は、下書きをAIに任せて確定を人が行う形にすれば、今いる人数のままでも手間を減らすことが出来ます。そのうえで、会社として使うAIの環境を1つに決めると、情報の扱いも管理しやすくなるでしょう。

物流AIとは|設備投資型のAIと生成AIの2種類

物流AIは、大きく分けると、機械や専用システムに組み込んで現場の作業を変える設備投資型のAIと、文章を読んだり書いたりする汎用の生成AIの2種類になります。前者は配車システムやピッキングロボット、検品カメラのように、専用の機器やソフトを導入して使うものです。後者はChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityのような生成AIで、パソコンやスマートフォンの画面に指示を打ち込めば、その日から使い始めることが出来ます。

比べる点設備投資型の物流AI汎用の生成AI
主な例配車・ルートの最適化システム、需要予測、ピッキングロボット・AMR、画像検品、AI-OCR、バース管理ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityなどの対話型AI
変えるもの現場の作業そのもの(走る順番、歩く距離、検品の目視)事務所の文章仕事(書類の下書き、メール、要約、社内説明)
必要なもの過去の実績データ、既存システムとの連携、機器の設置場所パソコンかスマートフォン、会社として決めた利用環境と社内ルール
始めるまでの期間検証から本番まで数か月以上かかることが多い環境を決めれば、その日から使える
向く規模扱う量が多く、同じ作業が大量に繰り返される現場規模を問わない。事務員が少ない会社ほど効果を感じやすい
苦手なことデータが少ない、業務が毎日違う、といった現場正確な数値の計算や、法定記録そのものの代わり

検索で上位に出てくる物流AIの解説記事は、多くが前者の事例集になっています。大手の倉庫ロボットや宅配会社の配車システムは、読み物としては興味深くても、車両が数十台の会社がすぐに真似できる話ではありません。一方で運送会社の事務所には、運行指示書、点呼や事故の記録、荷主へのメール、ドライバー向けの掲示物など、毎日の文章仕事が積み上がっています。この文章仕事こそが、生成AIで先に軽くできる部分です。

設備投資型のAIが向いている会社

設備投資型のAIは、扱う荷物の量が多く、同じ作業が大量に繰り返される現場ほど効果が出やすくなります。数百台規模の配車や、1日に大量の出荷がある倉庫であれば、わずかな効率化でも会社全体では大きな金額に変わるためです。反対に、荷主ごとに運び方が違い、毎日の配車が担当者の経験で組まれている会社では、AIに学ばせるデータがそろうまでに時間がかかってしまいます。

生成AIから始めるのが向いている会社

社員10〜200名の運送会社・倉庫会社では、運行管理者や事務員が少人数で多くの書類を回していることが多いでしょう。こうした会社では、書類の下書きやメールの文面をAIに任せるだけでも、白紙から書き始める時間を減らせる場面が数多くあります。生成AIは、今ある書類の形をそのまま使えるため、システムの入れ替えや現場の作業手順の変更が要りません。まずは事務所の中で成果を確かめ、そのあとで設備投資型のAIを検討する順番をおすすめします。

物流の2024年問題と人手不足|AIが求められる背景

物流でAIが求められる背景には、ドライバーの労働時間の上限規制と、担い手の不足があります。2024年4月から、自動車運転の業務にも時間外労働の上限が適用され、臨時的な特別の事情がある場合でも年960時間が上限となりました。これにあわせて、トラック運転者の拘束時間や休息期間を定めた改善基準告示も改正されています。物流の2024年問題と呼ばれているのは、この2つの見直しによって、これまでと同じ働き方では運べる量が減ってしまうという問題のことです。

ドライバーの労働時間の上限と改善基準告示

厚生労働省は、2024年4月1日以降に適用されるトラック運転者の改善基準告示の主な数字を、次のように示しました。

項目基準(2024年4月1日以降)
拘束時間(1年)原則3,300時間以内(例外3,400時間以内)
拘束時間(1か月)原則284時間以内(例外310時間以内・年6か月まで)
拘束時間(1日)13時間を超えない。延長する場合の上限は15時間
休息期間勤務終了後、継続11時間以上を与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らない
運転時間2日平均で1日9時間、2週平均で1週44時間
連続運転時間4時間を超えない
時間外労働の上限(労働基準法)臨時的な特別の事情がある場合でも年960時間

※出典:厚生労働省「トラック運転者の改善基準告示」(https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/truck/notice)。2026年9月26日に確認しました。例外の適用には条件があります。実際の運用は必ず原文でご確認ください。

基準を守る難しさは、業界団体の調査にも表れています。全日本トラック協会の「物流の2024年問題対応状況調査結果」(2025年3月公表、運送事業者向けは2024年11月21日〜2025年1月15日に実施、回答2,973事業者)では、改正後の改善基準告示で守れていない基準がある、と答えた事業者が29.9%でした。守れていない基準として最も多く挙がったのは1日の拘束時間で、該当する事業者の59.3%が選んでいます。同じ調査では、2024年4〜9月の6か月で時間外労働が480時間、つまり年960時間の半分を超えたドライバーがいる事業者も27.4%あったと報告されています。

EC市場の拡大で、小口の荷物が増えている

通信販売の広がりによって、1回あたりの荷物が小さく、届け先が多い配送が増えてきました。小口の配送は、同じ量を運ぶのにも配送先の数と連絡の回数が増えるため、ドライバーだけでなく事務所の負担も大きくなってしまいます。届け先の変更、再配達の手配、荷主からの問い合わせといった連絡は、どれも文章と電話のやりとりです。こうした連絡の多さが、事務所の人手不足をさらに目立たせる結果となりました。

2030年度に向けた輸送力の見通し

国の検討会も、担い手不足の影響が続くとみています。国土交通省の「2030年度に向けた総合物流施策大綱に関する検討会」の提言案の資料では、当初想定されていた2030年度の約34%のトラック輸送の需給ギャップのうち、約14%は2024年問題に対応するための官民の取組の成果などによっておおむね克服できたとの見方が示されました。そのうえで、再検証の結果として、2030年度には前提の置き方によって約7%〜最大で約25%(1.7億トン〜7.2億トン)の輸送力不足が生じうるという見通しも示されています(平均的な想定では約15%)。人を増やしにくいなかで運ぶ量を保つには、ドライバーの時間を守るだけでなく、事務所の仕事も少ない人数で回せる形に変えていく必要があるでしょう。

物流関連法の改正で、事務所の書類が増えている

ここ数年の法改正で、運送会社と倉庫会社の事務所では、作る書類と残す記録が確実に増えています。2025年4月からは改正物流効率化法(物資の流通の効率化に関する法律)で荷主と物流事業者の努力義務が始まり、改正貨物自動車運送事業法では運送契約の書面交付や実運送体制管理簿の作成が求められるようになりました。現場の運び方を変える前に、まず紙とメールの仕事が増えているのが中小の会社の実感ではないでしょうか。

改正物流効率化法と特定事業者の基準

国土交通省によると、改正物流効率化法では、2025年4月1日に荷主と物流事業者に対する努力義務が施行され、2026年4月1日からは一定規模以上の事業者が特定事業者として指定される仕組みになりました。特定事業者には中長期計画の作成や定期報告が義務付けられ、特定荷主には物流統括管理者(CLO)の選任も求められています。

区分特定事業者に指定される基準主な義務
特定貨物自動車運送事業者等保有車両台数150台以上中長期計画の作成、定期報告
特定倉庫業者貨物の保管量70万トン以上中長期計画の作成、定期報告
特定荷主・特定連鎖化事業者取扱貨物の重量9万トン以上中長期計画の作成、定期報告、物流統括管理者(CLO)の選任

※出典:国土交通省「物流効率化法」関連資料(https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/freight/content/001993308.pdf)。届出は原則としてe-Govの電子申請(GビズIDが必要)で行うと案内されています。2026年9月26日に確認しました。

社員10〜200名の運送会社の多くは、保有車両150台の基準には届かないはずだと考える方も多いでしょう。全日本トラック協会の「日本のトラック輸送産業 現状と課題2025」によると、トラック運送事業者は約6万3千者あり、一般貨物自動車運送事業者の99%以上が中小企業にあたります。特定事業者に当たらない会社にも努力義務はかかるため、荷主から荷待ちや荷役の時間の資料を求められる場面は増えていくと考えられます。基準に届かない会社でも、記録を整えて説明できる状態は必要になります。

貨物自動車運送事業法の改正|書面交付と実運送体制管理簿

国土交通省の資料では、改正貨物自動車運送事業法のもとで、運送契約を結ぶときの書面交付、元請事業者による実運送体制管理簿の作成、一定規模以上の事業者による管理規程の作成と責任者の選任が義務付けられたと説明されています。実運送体制管理簿は2025年4月1日に施行され、元請事業者が真荷主から引き受けた貨物の運送について利用運送を行ったときに、貨物の運送ごとに作るものです(下請の構造が固定している場合は、運送ごとに作らなくてもよいことになります)。作成の対象は1.5トン以上の貨物で、引き受けた貨物をすべて自社で運ぶ場合は作成不要とされています。あわせて、利用運送を行う事業者には下請の情報を通知すること、実運送を行う事業者には元請へ自社の情報を通知することが求められました。

国土交通省は、改正法の目標として、施行後3年で(2019年度比)荷待ち・荷役時間を1人あたり年間125時間削減すること、積載率の向上によって輸送能力を16%増やすことを掲げています。目標の数字は大きくても、事務所に届くのは書面、通知、記録という地道な作業です。

荷待ち・荷役の記録が全車両に広がった

2025年4月1日からは、業務記録に荷待ちや荷役作業の時間を残す義務の対象が、全車両へと広がりました。国土交通省のチラシによると、以前の対象は車両総重量8トン以上または最大積載量5トン以上の車両に限られていました。記録が必要になるのは、荷主の都合で30分以上待機したときと、荷役作業や附帯業務を行ったときです(荷主との契約書に行った作業がすべて明記されている場合は、合計1時間以上になったときに限られます)。記録は最低1年間、保存しておく必要があります。同じチラシでは、この記録を、待機時間料や積込料などを荷主から適正に受け取るための根拠にできると説明されています。

事務所で扱う主な法定書類と保存期間

運送会社の事務所で日々扱う主な書類を、根拠と保存期間でまとめました。いずれも貨物自動車運送事業輸送安全規則などで定められたもので、生成AIの使い方を考えるときの土台になります。

書類・記録根拠保存期間生成AIの役割
点呼の記録輸送安全規則 第7条第5項1年間記録の代わりにはしない。月次の傾向のまとめまで
業務の記録(荷待ち・荷役を含む)輸送安全規則 第8条1年間記録の代わりにはしない。荷主への報告文の下書きに使う
事故の記録輸送安全規則 第9条の2営業所で3年間概要と原因の文章化、再発防止策の壁打ち
運行指示書とその写し輸送安全規則 第9条の3運行の終了の日から1年間記載事項に沿った下書き。確定と指示は運行管理者
実運送体制管理簿貨物自動車運送事業法(2025年4月施行)運送を完了した日から1年間下請への通知文・依頼文の定型化

※輸送安全規則の条文は e-Gov法令検索(https://laws.e-gov.go.jp/law/402M50000800022)で2026年9月26日に確認しました。実運送体制管理簿の保存期間は、国土交通省のチラシ(https://www.mlit.go.jp/jidosha/content/001865381.pdf)で2026年9月26日に確認しました。

表の右端の列を見ると、AIに記録そのものを作らせる書類はひとつもないことが分かります。生成AIが担うのは、記録の周りにある下書き、整理、報告文の作成といった文章の部分です。次の章で設備投資型のAIの領域を見たあと、後半ではこの文章の部分を書類ごとに掘り下げていきます。

物流AIでできること|業務ごとの活用領域

物流AIでできることは、配車、需要予測、倉庫作業、検品、書類のデータ化、安全管理、問い合わせ対応、荷待ちの削減と、物流の工程ごとに分かれています。どれも設備投資型のAIの代表的な使い道で、上位の解説記事でも中心に扱われている領域です。ここでは、それぞれが何を変えるのか、中小の会社から見てどこに壁があるのかを順に見ていきます。

配送ルート・配車の最適化

配車・ルートの最適化は、届け先、時間指定、車両の積載量、ドライバーの勤務時間などの条件を入れて、走る順番と車両の割り当てをAIが計算する使い方です。ベテランの配車係が頭の中で組んでいた計画を、条件の数が多くても短い時間で出せるようになります。一方で、荷主ごとの細かな約束ごとや、軒先の事情といった紙に書かれていない条件は、先に文章やデータにしておかないとAIに渡せません。配車の仕組みを入れる前に、担当者の頭にある条件を書き出す作業が必要になるでしょう。

需要予測・在庫の最適化

需要予測は、過去の出荷量、季節、曜日、天候、販促の予定などから、先の物量をAIに予測させる使い方です。倉庫では人員の配置や在庫の置き場所を、運送会社では必要な車両の台数を前もって決めやすくなるでしょう。精度を出すには、ある程度の期間の実績データが必要で、荷主から受け取るデータの形式がそろっていることも条件になります。荷主の数が少なく物量の波が読みやすい会社では、表計算の集計で足りる場合もあるでしょう。

倉庫作業の自動化(ピッキングロボット・AMR)

倉庫では、棚から商品を取り出すピッキングの作業を、ロボットや自律走行搬送ロボット(AMR)が支える例が増えています。AMRは、決められたレールの上ではなく、周りの状況を見ながら自分で経路を選んで走る搬送ロボットのことです。作業員が歩く距離を減らし、人手の少ない時間帯でも出荷を続けやすくなります。ただし、棚の配置や床の状態、扱う商品の大きさによって向き不向きがあり、倉庫のレイアウトを見直す工事を伴うこともあり、初期の投資は大きくなってしまいます。

画像認識による検品の自動化

画像認識による検品は、カメラで撮った商品や伝票の画像をAIが見て、数の違い、傷、ラベルの貼り間違いなどを見つける使い方です。人の目視に頼っていた確認を、同じ基準で続けられるようになります。扱う商品の種類が多い現場では、商品ごとに見分け方を学ばせる手間がかかり、照明やカメラの位置の調整も必要になってしまいます。

AI-OCRによる伝票・FAXのデータ化

AI-OCRは、紙の伝票やFAXの文字を読み取ってデータにする仕組みです。手書きの文字や、荷主ごとに形の違う伝票にも対応する製品が増えており、入力の手間を大きく減らせる領域として多くの記事で紹介されています。中小の運送会社でも、FAXで届く配車依頼を手で打ち直している場合は、効果を感じやすいでしょう。読み取った内容に誤りがないかは、最後に人が確かめる前提で使います。

安全管理(フォークリフト・運転のAI判定)

安全管理では、ドライブレコーダーや倉庫内のカメラの映像をAIが見て、急ブレーキやわき見、フォークリフトと歩行者の接近などを知らせる使い方があります。事故が起きる前の危ない場面を拾えるため、運転者への指導の材料が増えることになります。映像を扱うため、撮影していることの社内への周知や、映像の保存と閲覧の範囲を決める作業も欠かせません。

問い合わせ対応(AIオペレータ・チャットボット)

荷物の状況確認や再配達の受付など、決まった形の問い合わせは、AIの音声応答やチャットボットに任せる例が出てきています。大手の宅配会社のように問い合わせの件数が多い会社では、電話がつながりにくい状態を減らす効果が見込めます。中小の会社では、問い合わせの多くが荷主の担当者からの個別の連絡であるため、自動応答より、返信の文面をAIで整えるほうが先に役立つ場面が多いでしょう。

バース管理と荷待ち時間の削減

バース管理は、倉庫や物流センターの荷降ろし場(バース)の予約と受付をシステムで行い、トラックの到着を分散させて荷待ちを減らす仕組みです。受付の記録がそのまま残るため、荷待ちの時間を数字で示しやすくなる点も利点になります。ただし、バースの予約システムを入れるのは主に荷主や倉庫の側で、運送会社の立場では自社だけで荷待ちを減らすことは難しいのが実情です。運送会社が自分で出来ることは、荷待ちの記録を整え、荷主に改善をお願いする文書を作ることになります。

AIエージェントという新しい動き

最近は、複数の作業を自分で順番にこなすAIエージェントを物流向けに打ち出す会社も出てきました。管理の業務をAIが分析し、人の承認を受けながら指示を出す構想などが、各社の製品ページで紹介されています。AIエージェントがどういう仕組みで動くのかはAIエージェントとはで詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。業界向けに作り込まれたAIと汎用のAIの分け方は、バーティカルAI(業界特化AI)の考え方も参考になります。

領域ごとの壁と、中小の会社が先に出来ること

ここまでの領域を、中小の会社から見た壁と、設備を入れる前に出来ることで並べ直しました。どの領域でも、設備を入れる前の準備として文章と記録を整える作業が出てくることが分かります。

領域中小の会社から見た壁設備を入れる前に出来ること
配送ルート・配車の最適化条件が担当者の頭の中にあり、データになっていない荷主ごと・届け先ごとの条件を文章と表に書き出す
需要予測・在庫の最適化荷主から届くデータの形式がそろわない荷主ごとの出荷実績を同じ形の表にまとめる
倉庫作業の自動化レイアウトの変更を伴い、初期の投資が大きい作業手順書を整え、歩く距離の多い作業を洗い出す
画像認識による検品商品の種類が多く、学ばせる手間がかかる検品で起きた誤りの記録を残し、多い種類を知る
AI-OCR伝票の形が荷主ごとに違うよく届く伝票の種類と枚数を数えておく
安全管理のAI判定機器の費用と、映像の扱いのルールづくり事故の記録を法定の8項目でそろえ、原因の傾向を見る
問い合わせ対応問い合わせの多くが個別の連絡で、自動化しにくいよくある問い合わせと返信の文面を型にする
バース管理予約の仕組みを入れるのは主に荷主や倉庫の側荷待ち・荷役の記録を集計し、荷主に届ける

右の列の作業は、どれも生成AIが得意とする文章と表の整理にあたります。設備投資型のAIを検討するのは、この準備が一通り進み、効果を見込める領域がはっきりしてからでも遅くはありません。

国内外の企業事例と、中小の会社との距離

物流AIの事例として紹介されることが多いのは、大手企業の取り組みです。海外の大手通販会社の倉庫ロボット、国内の大手宅配会社による配車や伝票入力の効率化、物流センターでの検品や作業指示の自動化などが、各社の発表をもとに上位の解説記事で数多くまとめられています。読み比べると、事例に登場するのはAmazon、日本通運、ヤマト運輸、佐川急便、NTTロジスコ、アスクル、花王といった名前が中心になります。

大手の事例に共通していること

大手の事例に共通しているのは、大量の実績データ、専任の担当部署、数年単位の投資という3つの前提がそろっていることです。扱う荷物の量が大きいため、少しの効率化でも投資を回収しやすく、失敗したときに試し直す余力もあります。社員10〜200名の会社が同じ仕組みをそのまま入れようとすると、データの量も担当者の数も足りず、検証の段階で止まってしまうことが少なくありません。事例は、自社の規模で何を先に取り入れるかを考える材料として読むのがよいでしょう。

生成AIを社内で使う環境を先に整えた例

大手の中には、現場の設備より先に、社員が生成AIを安全に使える環境を整えた会社もあります。NIPPON EXPRESSホールディングスは2023年9月13日、Azure OpenAI Serviceを使い、入力した内容がAIの学習データとして使われないよう対策したグループ内向けの生成AIサービスを始めたと発表しました。対象はNIPPON EXPRESSホールディングス、日本通運、NXキャッシュ・ロジスティクスの3社で、約33,000人の従業員を対象に利用を始めたと発表されています(同社発表)。

この例で目を向けたいのは、使えるAIを配る前に、入力が学習に使われない環境を会社として用意している点です。中小の会社が自前で同じ仕組みを作るのは難しくても、法人向けのサービスを契約すれば、考え方は同じ形で取り入れることが出来ます。見習いたいのは規模ではなく、社員が個人のアカウントに業務の情報を貼らなくて済む場所を、会社が先に用意しているという順番のほうです。

調査から見える、物流業界のAI活用の現状

業界全体では、AIを使いたい気持ちと、実際に使えている状態との間にまだ開きがあります。Hacobuと物流メディアのLOGISTICS TODAYが共同で行った調査(リポート名「物流×AI活用の実態調査リポート」、2025年10月16〜29日、荷主企業と物流事業者の268名・232社が回答、2025年11月18日公表)では、AIを業務で活用している企業は36.6%でした。一方で、今後の導入に前向きな企業は95%以上(積極的という回答が52.6%、機会があればという回答が43.3%)にのぼっています。導入の障壁として挙がったのは、AIを使いこなせる人材がいない(50.4%)、効果が見えにくい(47.4%)、ツール選定が難しい(38.1%)の順です。

※上記は民間企業による調査で、各社の発表をもとにしています。回答企業の規模の内訳は公表資料でご確認ください。

人材、効果、ツール選びの3つの壁は、どれも大がかりなAIほど高くなります。文章仕事に生成AIを使う形であれば、使う人は今の事務員で、効果は書類1枚あたりの時間で測れ、選ぶのは会社で使う環境1つだけです。3つの壁が低い場所から始めると、社内にAIを使った経験のある人が育ち、次の投資を判断する材料も集まっていくでしょう。

文章仕事で使うAIは、会社で決めた環境で

文章仕事に生成AIを使うなら、その環境は会社で1つに決めておきたいところです。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。

物流AIを導入するメリットとデメリット

物流AIのメリットとデメリットは、設備投資型のAIと汎用の生成AIのどちらを入れるかで、中身がかなり変わります。2つをまとめて語ると、自社に当てはまる話なのかどうかが見えにくくなってしまうため、分けて考えるのがおすすめです。

設備投資型のAIで期待できること

  • 人手に頼っていた作業を減らせる:ピッキングや搬送をロボットに任せたり、配車を自動で組んだりすれば、熟練者が少なくても現場を回しやすくなります。
  • ミスと事故のリスクを下げられる:画像による検品や、フォークリフト・運転の危ない動きを見つける仕組みは、人の目だけでは見落としやすい誤りを拾ってくれるでしょう。
  • 走る距離と在庫のむだを減らせる:走る順番を組み直したり需要を予測したりして、空で走る距離や持ちすぎの在庫を抑えられれば、燃料費や保管費の削減につながります。

生成AIで期待できること

  • 事務所の書類にかかる時間を減らせる:運行指示書や事故の記録の文章部分、荷主へのメールの下書きをAIに任せれば、人は確認と確定に時間を回せるようになります。
  • ベテランの知識を文章に残せる:配車係や運行管理者が頭の中に持っている条件や注意点を、AIとやりとりしながら文章にまとめておくと、引き継ぎや新人の教育にそのまま使えるはずです。
  • 小さく始めて、合わなければ見直せる:機器の設置がいらず、費用は月額の利用料が中心なので、うまくいかなければ使い方を変えるだけで済みます。

導入前に知っておきたいデメリットと対策

どちらのAIにも、入れる前に知っておきたい弱点があります。デメリットごとに、先に打てる手をまとめました。

  • 費用と、回収までの期間:設備投資型のAIは、機器やシステム、既存システムとの連携の開発に費用がかかり、効果が出るまでにも時間がかかります。導入前に、走行距離や作業時間など、効果を測る数字を決めておいてください。
  • データがそろっていないと精度が出ない:予測や配車の自動化は、過去の実績データがあることが前提です。荷主ごとに形式の違う記録や紙の記録が多い会社では、まず記録の項目をそろえるところから始めることになります。
  • 想定外の状況に弱い:急な荷量の変化や道路の事情、荷主ごとの細かな約束ごとは、AIが判断を誤りやすい場面です。最後の判断と指示は人が行う流れを、必ず残しておきましょう。生成AIも、法令の数字や日付をもっともらしく誤ることがあるため、数字と固有名詞は原文で確かめる手順を決めておくと安心です。
  • 使いこなす人とルールが要る:上の調査で最も多かった障壁も、人材でした。担当者を決め、指示文のひな形と社内ルールを用意しておくと、使える人が少しずつ増えていきます。
  • 情報が会社の管理の外に出るおそれ:生成AIを社員が個人のアカウントで使うと、入力が学習に使われる設定かどうかを、会社がまとめて確かめる手段がありません。荷主の情報やドライバーの個人情報を入れてしまう前に、入れてよい情報の線引きと、会社として使う環境を決めておくことが対策になります。

こうして並べると、生成AIのデメリットは、使う環境とルールを先に決めればかなり小さくできるものが中心です。設備投資型のAIは、費用とデータの準備が大きな分かれ目になるので、文章仕事で社内の記録を整えてから検討しても遅くはありません。

導入コストと費用対効果|設備型AIと生成AIを比べる

導入コストは、設備投資型のAIと汎用の生成AIとで、かかり方そのものが違います。設備投資型のAIは、機器やシステムの購入、既存システムとの連携の開発、検証の期間の人件費が先にかかり、効果が出るまでに時間がかかります。生成AIは、会社で使う環境の月額料金が主な費用で、効果は使い始めた週から書類の時間で確かめることが出来ます。

比べる点設備投資型の物流AI汎用の生成AI(会社で契約する環境)
初期にかかるもの機器・システムの購入、連携の開発、設置工事、検証の期間の人件費契約の初期費用(サービスによる)、社内ルールと指示文のひな形づくり
毎月かかるもの保守費、ライセンス料、通信費月額の利用料
始めるまでの期間検証から本番まで数か月以上契約と社内の設定が済めば、すぐ
必要なデータ過去の実績データ(形式がそろっていること)今ある書類とメモ
効果の測り方走行距離、作業時間、誤出荷の件数などの変化書類1件あたりの作成時間、差し戻しの回数
失敗したときの影響投資の回収が難しくなる使い方を見直せば、やり直しがきく
向く規模扱う量が多い会社、荷主側の大きな物流センター規模を問わない

具体的な金額は製品と規模によって大きく変わるため、ここでは比べ方だけを示しました。AIの導入費用の内訳と見積もりの見方はAI導入の費用で、使える補助金はデジタル化・AI導入補助金の記事で扱っています。

費用対効果を測るときの物差し

生成AIの効果は、書類ごとに使う前と使った後の時間を比べると、数字で説明しやすくなります。たとえば運行指示書、事故の記録、荷主への報告書のそれぞれについて、作成にかかった時間と、運行管理者から差し戻された回数を2週間ほど記録してみてください。数字がそろうと、どの書類から広げるか、次にどの設備を検討するかを判断する材料がそろいます。効果は書類ごとの時間で測ると、社内で説明しやすくなります。反対に、AIを使った時間の合計だけを見ていると、何が楽になったのかが見えにくくなってしまいます。

データ整備と既存システム(WMS・TMS)との連携

設備投資型のAIを入れるときに壁になりやすいのが、データの整備と既存システムとの連携です。WMSは倉庫の入出庫や在庫を管理する倉庫管理システム、TMSは配車や運行を管理する輸配送管理システムのことを指します。AIに予測や最適化をさせるには、これらのシステムに入っている実績データが、同じ形式でそろっている必要があります。荷主ごとにデータの形が違ったり、紙とExcelが混ざっていたりすると、AIの前にデータを整える作業が大きくなってしまいます。

生成AIで文章仕事を先に進めておくと、この整備にも役立つ場面があります。配車係の頭の中にある条件を文章にする作業や、紙の記録の項目をそろえる作業は、そのまま後のデータ整備の下準備になるためです。いきなりシステムをつなぐのではなく、まず事務所の情報を文章と表の形にそろえることから始めてみましょう。

中小の運送・倉庫会社が先に減らせる文章仕事

中小の運送会社・倉庫会社で生成AIが先に役立つのは、書類の下書き、荷主や下請へのメール、社内向けの説明文、日報や記録の要約といった文章仕事です。どれも毎日発生し、書く人が限られ、書き方の型がある程度決まっているという共通点があります。一方で、法定の記録そのものや、運行の可否の判断はAIに任せず、人が行うという線は最初から引いておきます。

文章仕事主に書く人AIに任せる部分人が必ず行う部分
運行指示書運行管理者・補助者記載7項目に沿った下書き内容の確定、運転者への指示
点呼記録・業務記録運行管理者・補助者記録の抜けの洗い出し、月次の傾向のまとめ記録そのものの作成と保存
事故の記録安全担当・運行管理者聞き取りメモの整理、原因と再発防止策の案事実の確認、対策の決定
荷主への改善のお願い営業・社長荷待ち・荷役の記録を文書にまとめる数字の確認、送るかどうかの判断
荷主への返信メール営業・事務員お詫び、料金のご相談、協力依頼の文面約束する内容の決定
下請への通知・依頼配車係・事務員定型文の作成送る相手と内容の確認
ドライバー向けの社内説明運行管理者・総務原文をやさしく言い換える数字と原文の突き合わせ
日報の要約・引き継ぎ資料配車係・倉庫の責任者メモの整理、見出しと表への並べ替え内容の確認と更新
倉庫の作業手順書・掲示物倉庫の責任者手順の言い換え、多言語の下訳現場での確認

表の右の列が空いた書類は、ひとつもありません。生成AIが作るのはあくまで下書きで、確定と責任は人が持つという形を、会社としてはっきり決めておくことが大切です。この線がはっきりしていると、社員も安心してAIに下書きを頼めるようになり、使う人が一部に偏りにくくなるでしょう。

事務所の1日の流れに当てはめると、生成AIが入る場面は次のようになります。どれも今ある仕事の中の一部分で、新しい仕事が増えるわけではありません。

時間帯今ある仕事生成AIが入る場面
早朝・出庫前乗務前点呼、注意事項の伝達確かめた天気や規制の情報から、注意事項の文案を作る
午前荷主からのメール・問い合わせへの返信お詫びや日程調整の返信の文面を整える
午後翌日以降の配車、運行指示書の作成配車係のメモを運行指示書の7項目に並べ直す
夕方・帰庫後乗務後点呼、日報の確認名前を外した日報から、遅延や待機の記述を要約する
月末荷待ち・荷役の集計、請求の準備集計表から荷主への改善のお願いの文書を作る

次の節からは、書類ごとにそのまま使える指示文(プロンプト)のひな形を紹介します。固有名はすべて架空で、実在の会社や人物とは関係ありません。ひな形の中の〔 〕は、自社の内容に差し替えて使う欄です。指示文の書き方そのものを基礎から知りたい方は、ChatGPTのプロンプトの書き方もあわせてご覧ください。

運行管理の書類で生成AIを使う|ひな形つき

運行管理の書類では、生成AIを法令の記載事項に沿った下書きと、記録の整理に限って使うのが安全な使い方です。運行指示書や事故の記録は、記載する項目が輸送安全規則で決まっているため、項目をそのままひな形の欄にすると、AIの出力を確かめやすくなります。点呼の記録と業務の記録は法定の記録そのものなので、AIに作らせる対象から外しておきましょう。

運行指示書の下書き|記載7項目に沿って作る

運行指示書は、貨物自動車運送事業輸送安全規則 第9条の3で、乗務前と乗務後の点呼をいずれも対面などで行えない業務を含む運行ごとに作成し、運転者に携行させるものと定められています。記載する事項は次の7つです。

  1. 運行の開始及び終了の地点及び日時
  2. 乗務員等の氏名
  3. 運行の経路並びに主な経過地における発車及び到着の日時
  4. 運行に際して注意を要する箇所の位置
  5. 乗務員等の休憩地点及び休憩時間(休憩がある場合に限る)
  6. 乗務員等の運転又は業務の交替の地点(交替がある場合に限る)
  7. その他運行の安全を確保するために必要な事項

運行指示書とその写しは、運行の終了の日から1年間保存する必要があります。生成AIに頼むのは、配車係のメモを7項目の欄に並べ直し、抜けている欄を知らせてもらうところまでです。

あなたは運送会社の運行管理者を補助する事務担当です。
下の【運行の情報】をもとに、運行指示書の下書きを作ってください。

<守ること>
・項目は次の7つの順に並べる
 1 運行の開始と終了の地点・日時
 2 乗務員等の氏名
 3 運行の経路と、主な経過地の発車・到着の日時
 4 運行に際して注意を要する箇所の位置
 5 休憩地点と休憩時間
 6 運転や業務の交替の地点
 7 その他運行の安全を確保するために必要な事項
・休憩や交替がない場合は、その欄に「なし」と書く
・【運行の情報】に書かれていないことは推測で埋めず、「要確認」と書く
・時刻や距離の計算はしない。書かれた数字をそのまま使う
・最後に、運行管理者が確かめるべき点を3つ挙げる(可否の判断はしない)

【運行の情報】
出発:〇〇運送 第二営業所 〔月日〕22:00
到着:△△物流センター(〇〇県〇〇市) 〔翌日〕7:30着予定
乗務員:ドライバーA(氏名は社内で記入)
経路:〇〇IC→高速道路→△△IC、主な経過地は□□SA
注意箇所:△△IC出口付近の工事規制、センター前の生活道路は通学時間帯
休憩:□□SAで30分以上
交替:なし

ひな形では、乗務員の氏名を「社内で記入」とし、AIに個人名を渡さない形にしています。出てきた下書きは、運行管理者が改善基準告示の拘束時間や連続運転時間に照らして確かめ、必要な修正を加えてから確定させてください。AIが作るのは下書きまでで、確定と運転者への指示は運行管理者が行います。下書きの段階で要確認の欄が見えるため、運行管理者は確認に集中できるようになるでしょう。

点呼記録・業務記録はAIに作らせない|使ってよい範囲

点呼の記録は輸送安全規則 第7条第5項で、運転者等ごとに点呼を行った旨や報告・確認・指示の内容などを記録し、1年間保存することが定められています。業務の記録も第8条で1年間の保存が求められており、どちらも会社が責任を持って残す法定の記録です。生成AIは、これらの記録の代わりにはなりません。AIの出力を記録として保存したり、実際に行っていない点呼をAIの文章で埋めたりする使い方は、はっきり禁止しておきましょう。

使ってよい範囲使わない範囲
記録用紙の様式に、書き漏れやすい欄がないかを点検させる点呼の記録や業務の記録そのものをAIに書かせて保存する
個人を特定しない形に集計した数字から、月次の傾向を文章にまとめるアルコール検知の結果や健康状態を、運転者名つきでAIに入力する
点呼で伝える注意事項(天候、道路の工事、繁忙期の注意)の文案を作る点呼の実施そのものをAIとのやりとりで済ませる
運行管理者向けの社内研修の資料の下書きを作る記録の記載内容を、あとからAIの文章で書き換える

月次の傾向をまとめるときは、運転者の名前を外し、件数だけにした表をAIに渡します。たとえば、今月の点呼で多かった指示の種類や、荷待ちが30分を超えた運行の件数を曜日別に並べた表であれば、個人を特定せずに傾向を読むことが出来ます。AIには、その表から読み取れることと、来月の点呼で重点的に伝える事項の案を3つ出してもらう程度にとどめてください。

点呼で伝える注意事項の文案

点呼で伝える注意事項は、毎日似た内容になりやすく、運転者の耳に残りにくいという悩みを持つ運行管理者も多いでしょう。確かめた情報を材料として渡し、理由を添えた短い呼びかけに整えてもらうと、同じ注意でも伝わり方が変わってきます。

あなたは運送会社の運行管理者です。
明日の乗務前点呼で運転者に伝える注意事項の文案を作ってください。

<守ること>
・1つの項目を30秒ほどで読める長さにする
・【明日の状況】に書かれていることだけを材料にし、天気や道路の状況を推測で足さない
・命令口調ではなく、理由を添えた呼びかけにする
・最後に、運転者に確かめてもらう問いかけを1つ入れる

【明日の状況】
・〔地域〕は朝から雨の予報(気象情報で確認済み)
・〇〇線の〇〇付近で夜間の工事規制
・月末で、荷主先の構内が混み合う見込み

天気や規制の情報は、AIに調べさせず、気象情報や道路情報で確かめた内容を人が書き込みます。点呼そのものは運行管理者が行うもので、AIの文案は伝える言葉を整える補助として使ってください。

事故の記録|法定の8項目と再発防止策の壁打ち

事故の記録は、輸送安全規則 第9条の2で、事業用自動車に係る事故が発生した場合に次の8項目を記録し、その車両の運行を管理する営業所で3年間保存することが定められています。

  1. 乗務員等の氏名
  2. 事業用自動車の自動車登録番号又は車両番号その他の当該事業用自動車を識別できる表示
  3. 事故の発生日時
  4. 事故の発生場所
  5. 事故の当事者(乗務員等を除く)の氏名
  6. 事故の概要(損害の程度を含む)
  7. 事故の原因
  8. 再発防止対策

このうち、生成AIが役に立つのは6〜8の文章の部分です。1・2・5の氏名や車両の番号は、AIに入れずに社内で記入する欄として残しておきます。

あなたは運送会社の安全管理の担当者です。
下の【聞き取りメモ】を、事故の記録の様式に沿って整理してください。

<様式の欄>
1 乗務員等の氏名 → 「社内で記入」とだけ書く
2 車両の登録番号等 → 「社内で記入」とだけ書く
3 発生日時
4 発生場所(市区町村と施設の種類まで。番地は書かない)
5 当事者(乗務員等を除く)の氏名 → 「社内で記入」とだけ書く
6 事故の概要(損害の程度を含む)
7 事故の原因
8 再発防止対策

<守ること>
・メモにない事実は足さない。分からない点は「要確認」とする
・原因は、運転者の注意だけで終わらせず、運行計画・車両・荷主側の条件・社内の指導体制の4つの面から候補を挙げる
・再発防止対策は、明日から出来ることと、1か月以内に仕組みで直すことに分けて案を出す
・事実を淡々と書き、謝罪や人物の評価の言葉は入れない

【聞き取りメモ】
〔月日〕14時ごろ、〇〇市内の荷主倉庫の構内でバック中に、構内の柱に車両後部を接触。けが人なし。車両後部のバンパーに凹み、柱の塗装がはがれた。誘導員はいなかった。到着が予定より40分遅れ、急いでいたと本人。構内は荷待ちの車両で混んでいた。

原因の候補を4つの面から出させるのは、事故の原因が運転者の不注意だけでまとめられてしまうのを防ぐためです。上の例であれば、到着の遅れを生んだ運行計画、誘導員のいない構内のつくり、荷待ちの車両が混み合う時間帯といった点が、話し合いの材料として並ぶことになります。出てきた案をもとに、安全担当と運行管理者が事実を確かめ、再発防止対策を決めてください。

荷主に出す事故の報告書は、社内の事故の記録とは目的が違うため、別に作ります。社内の記録は事実と再発防止のためのもので、荷主向けの報告書では、お詫び、経緯、今後の対応を相手に伝わる順に並べることになります。社内の記録からAIに荷主向けの文を作らせるときは、ドライバーの氏名や社内の指導の内容を入れないよう、渡す範囲を先に絞っておきましょう。

荷主・下請とのやりとりで生成AIを使う|ひな形つき

荷主や下請とのやりとりでは、記録の数字を相手に伝わる文書に直す作業と、毎回似た形になるメールの定型化に生成AIが向いています。とくに2025年4月から全車両に広がった荷待ち・荷役の記録は、残すだけで終わらせず、荷主との話し合いの材料に変えてこそ意味を持つものです。数字は人が確かめ、言い回しをAIに整えてもらう分担にすると、営業や社長が文面に悩む時間を減らすことが出来ます。

荷待ち・荷役の記録を、荷主への改善のお願いにする

国土交通省は、業務記録に残した荷待ちや荷役の時間を、待機時間料や積込料などを荷主から適正に受け取るための根拠にできると説明しています。記録を文書にするときは、次の順に進めると手戻りが少なくなります。

  1. 業務記録から、荷主ごと・月ごとに、荷主都合で30分以上待機した回数と時間、荷役作業等を行った回数と時間を集計する(集計は表計算で行い、AIには計算させない)
  2. 集計表から運転者の氏名と車両の番号を外す
  3. 集計表と伝えたいことを生成AIに渡し、お願いの文書の下書きを作らせる
  4. 営業担当か社長が、数字と約束する内容を確かめて仕上げる
あなたは運送会社の営業担当です。
下の【荷待ち・荷役の記録の集計】をもとに、荷主の物流ご担当者あての改善のお願いの文書を作ってください。

<守ること>
・最初に、日ごろのお取引へのお礼を1文で書く
・集計の数字は表にそのまま載せ、計算し直さない
・待機が長かった時間帯を事実として並べ、相手を責める言い方はしない
・お願いしたいことは3つまでに絞る(例:到着時刻の指定の幅、バースの予約、附帯作業の分担)
・待機時間料や積込料の扱いについて、話し合いの場をお願いする一文を入れる
・A4で1枚に収まる長さにする

【荷待ち・荷役の記録の集計(〔月〕分・△△倉庫様向け・数字は例)】
運行回数:22回
荷主都合で30分以上待機した回数:15回
待機時間の合計:1,380分(1回あたりの最長150分)
荷役作業等を行った回数:9回
待機が長かった時間帯:8時〜10時

お願いの文書は、1回で結論を求めるより、毎月の数字を同じ形で届け続けるほうが話し合いにつながりやすいでしょう。同じひな形を使えば、月ごとの変化も荷主に見てもらいやすくなります。改正物流効率化法で荷主にも努力義務がかかっているため、数字を添えたお願いは、以前より受け止めてもらいやすくなっていると考えられます。

荷主への返信メールの型|お詫び・料金のご相談・協力依頼・書面交付

荷主へのメールは、場面ごとに型を決めておくと、書く人が変わっても同じ品質で出せるようになります。よく使う4つの場面と、AIに渡す材料をまとめました。

場面AIに渡す材料人が決めること
遅延・事故のお詫び起きたこと(時刻・場所は大まか)、今の状況、次の連絡の予定原因の説明の範囲、補償の有無
運賃・料金のご相談見直したい便、理由、打ち合わせの希望見直しの幅と時期
荷待ち削減の協力依頼記録の集計、お願いしたいことお願いの優先順位
運送契約の書面交付のお願い書面で確かめたい項目、やりとりの予定契約の中身そのもの
あなたは運送会社の社長に代わって文面を整える担当者です。
下の【伝えたいこと】をもとに、荷主のご担当者あてのメールを作ってください。

<守ること>
・件名を1つ、本文を1つ作る
・丁寧だが回りくどくない文にし、本文は400字以内にする
・見直しの幅や時期は【伝えたいこと】に書かれた内容だけを使い、足さない
・理由は【伝えたいこと】に挙げたものに限る
・一方的な通知ではなく、打ち合わせのお願いとして書く
・最後に、こちらから候補日をお送りする一文を入れる

【伝えたいこと】
・〇〇商事様向けの定期便の運賃について、見直しのご相談をしたい
・理由:ドライバーの拘束時間を守るための運行の組み直し、燃料費の上昇
・希望:来月中に30分ほどの打ち合わせ

料金のご相談のメールでは、AIが気を利かせて値上げ幅や時期を書き足してしまうことがあります。ひな形に「足さない」と書いておくのはそのためで、送る前には必ず数字と日付を人の目で確かめてください。お詫びのメールも同じで、補償や再発防止の約束は、社内で決めた内容以上のことを書かせないようにしましょう。

実運送体制管理簿と下請への通知文

元請として利用運送を行う会社では、実運送体制管理簿を作るために、協力会社から情報を集める連絡が運送ごとに発生します。管理簿に書く項目と保存の扱いは国土交通省の資料で確かめ、自社の様式を決めたうえで、依頼のメールだけをAIで定型にしておくと便利です。管理簿の表そのものは、配車のデータから人が転記する形を守ってください。

あなたは運送会社の配車担当を補助する事務担当です。
実運送体制管理簿を作るために、協力会社(下請の運送会社)へ情報の提供をお願いするメールの定型文を作ってください。

<守ること>
・宛名、件名、本文、署名の順に書く
・お願いする情報は【お願いする項目】だけにし、ほかの項目を足さない
・法令の説明は1文にとどめ、詳しくは国土交通省の資料を案内する形にする
・返信の期限は〔 〕で空けておく
・運送ごとに使い回せるよう、日付・荷主名・運送区間は〔 〕の差し込み欄にする

【お願いする項目】(自社の管理簿の欄に合わせて書き換える)
・実運送を行う事業者の名称
・運送の区間
・貨物の内容と重量
・さらに別の会社へ再委託する場合は、その会社の情報

通知や依頼のメールは、1通ごとの手間は小さくても、協力会社の数と運送の回数だけ積み重なっていきます。定型ができると、配車係が毎回文面を考える必要がなくなり、書き漏れも減らせるようになります。

社内の説明と引き継ぎで生成AIを使う|ひな形つき

社内向けの文章では、法令や手順の原文を、ドライバーや現場の作業員に伝わる言葉へ言い換える作業に生成AIが役立ちます。ここで守りたいのは、数字や決まりごとを必ず原文から貼り付け、AIには言い換えだけをさせることです。AIに記憶で法令の数字を答えさせると、古い基準や誤った数字が混ざってしまうおそれがあります。

改善基準告示を、ドライバー向けのやさしい説明文にする

改善基準告示の拘束時間や休息期間は、運行管理者には身近でも、ドライバーにとっては分かりにくい言葉が並んでいます。全日本トラック協会の調査で、守れていない基準として1日の拘束時間を挙げた事業者が多かったことを考えると、ドライバー自身が基準を理解していることは大きな意味を持ちます。厚生労働省のページから該当部分を貼り付け、掲示物や朝礼の説明文に直してもらいましょう。

あなたは運送会社の運行管理者です。
下の【原文】だけを材料に、ドライバー向けの社内掲示の文章を作ってください。

<守ること>
・数字は【原文】のとおりに書き、丸めたり言い換えたりしない
・【原文】にないルールや例外は書かない
・1つの項目を2行以内の、やさしい言葉にする
・最後に、分からないときは運行管理者に聞くよう一文を入れる
・同じ内容を、やさしい日本語版と〔言語名〕版の2つ作る
・〔言語名〕版の下には、日本語に訳し戻した文も付ける

【原文】
(厚生労働省のトラック運転者の改善基準告示のページから、拘束時間・休息期間・運転時間・連続運転時間の部分をそのまま貼り付ける)

外国語版を作るときは、訳し戻した日本語を運行管理者が読み、意味が変わっていないかを確かめる手順を入れてください。できあがった掲示物は、原文のページの住所と確認した日を下に小さく書いておくと、基準が変わったときに見直す場所がすぐに分かります。

日報の要約と、配車係の引き継ぎ資料

中小の運送会社では、荷主ごとの約束ごとや届け先の事情が、特定の配車係の頭の中にだけある状態が珍しくありません。担当者が休んだり辞めたりすると、配車も荷主とのやりとりも止まりかねず、会社にとっては大きな弱点となってしまいます。本人に話してもらった内容を書き起こし、生成AIで引き継ぎ資料の形に整えると、口頭のノウハウを会社の資料として残すことが出来ます。

あなたは運送会社の配車係です。
下の【メモ】は、長く担当していた配車係が話した内容の書き起こしです。
後任の配車係が読む引き継ぎ資料に整理してください。

<守ること>
・荷主ごと、届け先ごとに見出しを分ける
・届け先ごとに、受付時間、車両の制限、荷降ろしの場所、連絡先の部署名、注意点を表にする
・個人の名前と電話番号は書かず、「ご担当者」「代表番号」と書く
・メモに書かれていない内容は足さない
・あいまいな点は、最後に「確認が必要な点」としてまとめる

【メモ】
(書き起こしを貼り付ける)

日報の要約も同じ考え方で進められます。ドライバーの日報から、遅延の理由、荷主先での待機、道路の状況といった記述だけを抜き出し、週ごとに要約させると、配車の見直しや荷主との話し合いに使える材料がたまっていきます。要約に使う日報は、運転者の名前を外した写しを使うようにしてください。

倉庫の作業手順書と安全の掲示物

倉庫会社では、入荷、保管、ピッキング、出荷の作業手順書や、フォークリフトの通路の掲示物を作る場面で生成AIが役立ちます。ベテランの口頭の説明を書き起こして手順書の形に整えたり、写真に添える短い説明文を作ったりする使い方です。手順書の作り方はマニュアル作成のAI活用でも手順とひな形を紹介しています。どの手順書も、最後は現場の責任者が実際の作業と照らし合わせて確かめる流れにしておきましょう。

生成AIに入れてよい情報・入れない情報の線引き

物流の事務所で扱う情報には、ドライバーの個人情報、荷受人の住所、荷主との取引条件など、外に出してはいけないものが多く含まれています。個人情報保護委員会は2023年6月2日の注意喚起で、個人情報取扱事業者が生成AIに個人情報を含む指示を入力する場合には、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確認するよう求めました。あわせて、本人の同意なく個人データを入力する場合には、提供する事業者がその個人データを機械学習に利用しないことなどを十分に確認するよう呼びかけています。

情報扱い代わりの書き方
ドライバーの氏名・住所・免許証の番号入れないドライバーA、社内で記入
ドライバーの健康状態・アルコール検知の結果入れない件数だけの集計にする
荷受人の氏名・住所・電話番号入れない〇〇市の個人宅、届け先B
荷主との契約単価・運賃表・取引条件原則として入れない見直しの有無と理由だけを書く
車両の登録番号入れない2号車、大型1台
事故の概要・聞き取りメモ氏名・番号・番地を伏せれば入れてよい市区町村と施設の種類まで
荷待ち・荷役の集計運転者の名前を外せば入れてよい荷主名は会社のルールで判断
公開されている法令・告示の原文入れてよい出典の住所を一緒に控える
社内の掲示物・手順書の文案入れてよい完成版は人が確認する

※出典:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月2日、https://www.ppc.go.jp/files/pdf/230602_alert_generative_AI_service.pdf)。2026年9月26日に確認しました。

表のとおり、伏せ字にすればほとんどの文章仕事は進められます。運転者の名前と健康状態、荷受人の住所は、どの環境でも入れない決まりにしましょう。入れてよいかの判断に迷う情報が出てきたときは、個人で判断せず、運行管理者か総務に聞く流れを決めておくと安心です。社内に配る一覧の作り方はAIに入れてはいけない情報、個人情報を入れてしまったときの対応はChatGPTに個人情報を入力するリスクで詳しく扱っています。

入力する前に、固有の情報を置き換える手順

伏せ字をその場の思いつきで行うと、人によって残す情報がばらばらになってしまいます。置き換えの決まりを先に作り、誰が行っても同じ手順になるようにしておきましょう。

  1. AIに貼り付ける前の文章を、いったんメモ帳などに写す
  2. 人の名前を、ドライバーA、ご担当者Bのような記号に置き換える
  3. 住所は市区町村までを残し、番地と建物名を消す
  4. 車両の登録番号は、社内の号車の呼び名に置き換える
  5. 金額や単価は、必要がなければ消し、必要なときは現行・見直し後といった言葉に置き換える
  6. 記号と元の情報の対応表は、AIには渡さずに社内に残す
置き換える前の情報置き換えた後の書き方
運転者の氏名ドライバーA
届け先の番地と建物名〇〇市の集合住宅
車両の登録番号3号車
荷主のご担当者の氏名荷主のご担当者
契約で決めた運賃現行の運賃

AIの出力を使うときは、社内に残した対応表を見ながら記号を元に戻し、それから確定の作業に入ります。置き換えの手順を社内ルールの1枚に書き添えておくと、新しく入った事務員にも同じやり方を伝えやすくなるでしょう。

会社で安全に使うには|AIの環境を1つに決める

生成AIを会社で安全に使うには、社員がそれぞれ好きなサービスを使う状態をやめ、会社として使う環境を1つに決めることが出発点になります。配車係や事務員が、個人の無料アカウントやスマートフォンのアプリに、荷主のメールや事故の情報をそのまま貼り付けている会社は少なくないでしょう。会社が把握していないところで業務にAIが使われている状態は、シャドーAI(野良AI)と呼ばれています。

シャドーAIの問題は、便利さそのものではなく、入力された情報がどう扱われているかを会社が説明できない点にあります。個人のアカウントでは、入力が学習に使われる設定のままになっていても会社からは確かめられず、退職した社員の履歴を消すことも出来ません。禁止だけで抑えようとしても、忙しい事務所ほど隠れて使われやすいため、同じ使い方ができる環境を会社で用意するほうが現実的です。シャドーAIの全体像は野良AI(シャドーAI)とはで詳しく解説しました。

環境を選ぶときに確かめる4つの点

  • 入力が学習に使われない設定が、全員に一律でかかるか社員ごとの設定に任せる形では、設定漏れが起きます。会社側でまとめて適用できるかを確かめます。
  • 誰がいつどのAIを使ったかを、会社側で確かめられるか利用ログが見えると、使われ方の偏りや、入れてはいけない情報の入力に気づきやすくなります。
  • 使わせるAIを、会社が選べるか管理者が、使ってよいAIと使わせないAIを決められるかを確かめます。異動や退職のときにアカウントをどう止めるかも、契約前に確認しておきましょう。
  • 複数のAIを、同じ環境の中で使い分けられるか文章の下書き、長い資料の読み込み、調べものでは、向いているAIが違います。1つの環境で切り替えられると、個人の別サービスへ流れにくくなります。

複数のAIを1つの環境でまとめて使う考え方はマルチAIとは、主要な4つのAIの向き不向きはChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityの使い分けで紹介しています。環境を決めたあとに点検したい項目は、生成AIセキュリティ対策チェックリストにまとめてありますので、あわせて確かめてみてください。

運送会社ならではの注意点

運送会社では、事務所のパソコンより、運行管理者やドライバーのスマートフォンからAIが使われる場面が多くなりがちです。スマートフォンで使う場合も、会社で決めた環境のアカウントでログインして使うことを決まりにし、個人のアプリに業務の情報を貼らないよう伝えておく必要があります。点呼の場や車内でAIを操作することは、運転中の操作につながらないよう、使ってよい場所と時間を社内ルールで区切っておくと安全です。

もう1つ注意したいのが、荷主から預かった情報の扱いになります。荷主との契約に情報の取り扱いの定めがある場合は、AIに入れてよい範囲が契約で狭まることもあります。大口の荷主とは、生成AIの利用について一度確認しておくと、後から問題になるのを防ぐことが出来ます。

AIの答えを確かめる習慣をつける

生成AIは、もっともらしい文章の中に、事実と違う内容や古い情報を混ぜてしまうことがあります。とくに法令の数字、日付、条文の番号は、AIが自信のある書き方で誤ることがあるため注意が必要です。社内で使うときは、AIの答えのうち数字と固有名詞だけは必ず原文や社内の記録と突き合わせる、という習慣を全員に持ってもらいましょう。荷主や下請に送る文書は、送る前に作った本人とは別の人が一度読む流れにしておくと、誤りに気づく機会が増えます。

人材育成と運用ルールの整備|ひな形を社内で共有する

生成AIを事務所に根づかせるには、使える人を育てることと、使い方のルールを文書にすることを同時に進める必要があります。前の章で紹介したHacobuとLOGISTICS TODAYの調査でも、導入の障壁として最も多く挙がったのは、AIを使いこなせる人材がいないという回答でした。ただ、文章仕事で使う生成AIに、専門の技術者は要りません。よく使う指示文をひな形にして社内で共有すれば、初めて使う事務員でも、同じ品質の下書きを作れるようになります。

ひな形を共有して、使える人を増やす手順

  1. 最初のひな形を4本にしぼる(運行指示書、事故の記録の整理、荷主へのメール、日報の要約)
  2. 運行管理者と事務員の2〜3名で2週間使い、うまくいかなかった点を指示文に書き足す
  3. ひな形ごとに、入れてはいけない情報と、人が確かめる点を1行で添える
  4. 社内で決めた環境の中に、ひな形を置く場所を1つ決め、全員が同じものを使う
  5. 月に1回、うまくいった使い方を持ち寄り、ひな形を更新する

ひな形を置く場所がばらばらだと、古い版が使われ続けたり、人によって指示文が変わったりしてしまいます。置き場所を1つに決めて、更新したら日付を書き換えるだけでも、使う人の迷いは大きく減るでしょう。ひな形は置き場所を1つに決め、全員が同じ版を使う形にしてください。社内で育てる進め方の全体はAI人材育成の進め方でも紹介しています。

運行管理者・事務員・営業の役割分担

ひな形を共有するときは、誰がどの書類でAIを使い、誰が確かめるのかも一緒に決めておくと混乱が起きにくくなります。社員10〜200名の会社でよくある分担の一例を示しました。

役割AIで下書きする書類確かめる人
運行管理者・補助者運行指示書、点呼の注意事項の文案、事故の記録の整理運行管理者(補助者の下書きも含めて確定)
事務員下請への依頼メール、日報の要約、社内の掲示物運行管理者か総務の担当者
営業・社長荷主への改善のお願い、料金のご相談、お詫びのメール社長か営業の責任者(数字は事務員と二重に確認)
倉庫の責任者作業手順書、安全の掲示物、引き継ぎ資料倉庫の責任者本人が現場で確認

確かめる人を決めておくと、AIの下書きがそのまま外に出てしまう事故を防げます。人数の少ない会社では1人が複数の役割を持つことになりますが、その場合も、作った人とは別の人が一度読む流れだけは残しておきたいところです。

社内ルールに書いておきたいこと

社内ルールは、長い規程にする前に、事務所の壁に貼れる1枚から始めてみてください。次の項目が入っていれば、最初のルールとしては十分に機能します。

  • 使ってよいAIは、会社で決めた環境だけ個人のアカウントやアプリで業務の情報を扱わないことを明記します。
  • 入れてはいけない情報の一覧運転者の氏名・健康状態・アルコール検知の結果、荷受人の住所、契約単価など、前の章の表を貼り付けます。
  • AIが作るのは下書きまで法定の記録の代わりにしないこと、確定と送信は人が行うことを書きます。
  • 数字と法令は原文で確かめる改善基準告示などの数字は、AIの答えではなく厚生労働省や国土交通省の原文で確かめます。
  • 迷ったときの相談先運行管理者か総務の担当者の名前を書き、1人で判断しない流れにします。

ルールの項目をもう少し広く検討したい場合は、生成AIの社内ガイドラインの作り方で、社内ルールで決める項目とひな形を公開しています。まずは1枚のルールで始め、使い方が広がってから規程へ育てていく順番で問題ありません。

スモールスタートで始める進め方|最初の3か月

生成AIの導入は、全社で一斉に始めるより、事務所の数名と数本の書類から小さく始めるほうがうまくいきます。設備投資型のAIでいう検証(PoC)にあたる段階を、生成AIなら費用も期間も小さく回せるためです。ここでは、最初の3か月の進め方の一例を紹介します。

時期やること終わったときの状態
1か月目会社で使う環境を1つに決める。入れてはいけない情報の一覧と1枚のルールを作る。運行指示書と荷主メールのひな形を2〜3名で試す使う場所とルールが決まり、2本のひな形が動いている
2か月目事故の記録の整理と日報の要約を加える。書類ごとの作成時間と差し戻しの回数を記録する4本のひな形と、使う前後の時間の記録がそろう
3か月目使う人を事務所全体に広げる。荷待ちの集計から荷主へのお願いの文書を作る。3か月の結果を振り返る次に広げる書類と、設備投資型のAIを検討するかどうかが決まる

3か月目の振り返りでは、時間の記録をもとに、どの書類でどれだけ楽になったかを経営者と共有してみてください。そのうえで、配車や倉庫作業のように数字の効果が大きそうな領域があれば、設備投資型のAIを検討する段階に進みます。事務所の文章仕事で成果を出した経験は、次の投資でデータを整えたり、担当者を決めたりするときの土台として生きてくるでしょう。

進めるうえでつまずきやすいのは、最初から多くの書類に広げようとすることです。ひな形が十分に磨かれないまま使う人だけが増えると、出てくる下書きの質がばらつき、結局は人が一から書き直すことになってしまいます。ひな形を作ったまま更新しないことや、忙しい時期に数字の確認を省いてしまうことも、よくあるつまずきといえます。2本のひな形で手応えをつかんでから広げる、確認の手順は忙しい時期ほど省かない、という2点を最初に決めておきましょう。

中小企業が生成AIを導入するときの全体の流れは中小企業のAI導入でも整理しています。物流の会社に限らない一般的な進め方と合わせて読むと、自社の順番を決めやすくなるでしょう。

事務所の文章仕事を、会社で決めた1つの環境で

UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けのAI基盤です。全モデルで学習非利用を標準適用し、管理画面では誰が・いつ・どのAIを使ったかを一覧で確かめられます。よく使う指示と手順をBOTにして社内限定で共有できるカスタムプラスを使えば、運行指示書や荷主メールのひな形を事務所の全員で使えます。UPGEAR AI上の会話履歴・利用ログ・アカウントは、国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理されます。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名・スタンダード6〜20名・プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。

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よくある質問

社員が数十名の運送会社でも、物流AIは使えますか?
使えます。配車の最適化やロボットのような設備投資型のAIは、扱う量が多い会社ほど効果が出やすいものですが、汎用の生成AIは規模を問いません。運行指示書の下書き、事故の記録の整理、荷主へのメールといった事務所の文章仕事から始めれば、今ある人数と書類の形のままで使い始めることが出来ます。
運行指示書や点呼の記録を、生成AIに作らせてもよいですか?
運行指示書は、記載事項に沿った下書きまでをAIに任せ、確定と運転者への指示は運行管理者が行う形であれば使えます。点呼の記録と業務の記録は、輸送安全規則で1年間の保存が求められている法定の記録です。AIの出力を記録として保存したり、行っていない点呼をAIの文章で埋めたりする使い方はしないでください。
保有車両が150台に届かない会社も、改正物流効率化法の対応が必要ですか?
特定事業者として中長期計画や定期報告を求められるのは一定規模以上の事業者ですが、荷主と物流事業者の努力義務は規模にかかわらず2025年4月1日から施行されています。荷主から荷待ちや荷役の時間の資料を求められる場面もあるため、業務記録を整え、数字を説明できる状態にしておくことが大切です。
事務員が個人の無料AIを業務で使うのは問題ですか?
会社が設定や履歴を確かめられないため、業務の情報を入れる使い方はおすすめできません。個人のアカウントでは、入力が学習に使われる設定のままかどうかを会社が確かめられず、退職後の履歴も残ります。禁止するだけでなく、同じ使い方ができる環境を会社で用意し、そちらに移ってもらう形が現実的です。
ドライバーの名前や事故の情報を、生成AIに入れてもよいですか?
ドライバーの氏名・健康状態・アルコール検知の結果、荷受人の住所などは、どの環境でも入れない決まりにすることをおすすめします。事故の概要は、氏名・車両の番号・番地を伏せれば、原因や再発防止策を整理する材料として使えます。個人情報保護委員会は、個人情報を含む指示を入力する場合は利用目的の範囲内かを十分に確認するよう注意を呼びかけています。
配車の最適化システムと生成AIは、どちらを先に入れるべきですか?
中小の会社では、費用と期間の小さい生成AIを事務所の文章仕事から先に始めるのがおすすめです。配車係の頭の中にある条件を文章にする作業は、後で配車システムを入れるときのデータ整備の下準備にもなります。扱う量が多く、配車の条件がデータでそろっている会社であれば、配車システムを並行して検討してもよいでしょう。
生成AIが答えた法令の数字が違っていたら、どうすればよいですか?
法令や告示の数字は、AIの答えではなく、厚生労働省や国土交通省、e-Gov法令検索の原文で確かめてください。AIに社内向けの説明文を作らせるときは、原文を貼り付けて言い換えだけを頼み、数字は原文のとおりに書くよう指示すると、誤りが混ざりにくくなります。
生成AIを使うと、運行管理者の仕事は減りますか?
書類の下書きや文面を整える時間は減らせますが、運行管理者の役割そのものはなくなりません。運行指示書の確定、点呼の実施、事故の原因の確認と再発防止対策の決定は、これまでどおり運行管理者が行います。AIに下書きを任せることで、確認と判断に使える時間を増やす、という考え方で取り入れるのがおすすめです。
スマートフォンから生成AIを使わせても大丈夫ですか?
会社で決めた環境のアカウントでログインして使う形であれば、スマートフォンからの利用も選択肢になります。個人のアプリに業務の情報を貼らないこと、運転中や点呼の最中に操作しないことを、使ってよい場所と時間とあわせて社内ルールに書いておきましょう。
倉庫会社でも、同じ使い方が出来ますか?
出来ます。倉庫会社では、作業手順書や安全の掲示物の作成、荷主への報告書、引き継ぎ資料の整理などで生成AIが役立ちます。手順書は、ベテランの口頭の説明を書き起こして整える使い方が向いており、最後に現場の責任者が実際の作業と照らし合わせて確かめる流れにしておくと安心です。
物流AIを導入するデメリットは何ですか?
設備投資型のAIは、機器やシステムの費用と回収までの期間、過去の実績データがそろっていないと精度が出ないこと、想定外の状況で判断を誤りやすいことが主なデメリットです。生成AIは費用と期間が小さい一方で、社員が個人のアカウントで使うと、入力した情報が会社の管理の外に出るおそれがあり、法令の数字や日付をもっともらしく誤ることもあります。会社として使う環境と、入れてよい情報の線引きを先に決めておくと、そのおそれはかなり小さくできます。

まとめ

物流AIには、配車の最適化や需要予測、倉庫のロボット、画像検品のような設備投資型のAIと、文章を扱う汎用の生成AIの2種類があります。上位の解説で紹介される事例の多くは大手の設備投資型で、社員10〜200名の運送会社・倉庫会社がすぐに真似できるものは多くありません。

中小の会社が先に手を付けやすいのは、運行指示書、事故の記録、荷主へのメール、改善基準告示の社内説明、配車の引き継ぎ資料といった事務所の文章仕事です。法定の記載事項をそのままひな形の欄にし、AIには下書きまでを任せ、確定は運行管理者や担当者が行う形にすると、法令の線を守りながら手間を減らすことが出来ます。点呼の記録や業務の記録は法定の記録なので、AIに作らせる対象から外しておきましょう。

設備投資型のAIは、文章仕事で手応えをつかみ、記録と条件が文章や表にそろってから検討しても遅くはありません。事務所で育てた記録と引き継ぎ資料は、配車の最適化や需要予測に進むときのデータ整備の下準備にもなっていきます。

使い始める前には、入れてよい情報と入れない情報の線を引き、会社として使うAIの環境を1つに決めてください。入力が学習に使われない設定、利用ログ、使わせるAIを会社で管理できる環境を選び、ひな形を1つの場所で共有すれば、使える人は少しずつ増えていきます。業務別のAI活用のほかの記事はAI活用コラム一覧からご覧いただけます。