
プロンプトエンジニアリングとは、生成AIから望む答えを得るために、AIに渡す指示文(プロンプト)を設計し、試しながら直していく技術です。会社で成果を分けるのは難しい手法よりも、してほしいこと・背景・出力の形の3点を毎回書くことと、良い指示を社内で使い回せる形に残すことになります。ただし効く書き方はAIごとに少しずつ違い、各社の公式ガイドが勧める内容にも差があります。4要素の出典ごとの違いから、複数のAIで試す手順、社内台帳のひな形まで順に見ていきましょう。
プロンプトエンジニアリングとは|意味と注目される背景
プロンプトエンジニアリングは、指示の出し方を工夫して、生成AIの答えを狙いどおりの質に近づける取り組み全体を指す言葉です。もともとはAIを組み込んだシステムの精度を上げる開発者の技術として広まりましたが、今ではChatGPTやGeminiを業務で使う社員の方にも関わる話になっています。同じAIに同じ仕事を頼んでも、指示文の書き方ひとつで、そのまま使える答えが返るか、手直しに時間のかかる答えになるかが分かれてしまいます。
プロンプトとは、AIに渡す指示文のこと
プロンプトとは、生成AIに入力する指示や質問の文章のことです。「この議事録を3行で要約して」という一文も、役割や条件を細かく書いた長い依頼文も、どちらもプロンプトになります。画像を作るAIに渡す「青い背景に白いロゴ」のような説明文も、同じくプロンプトと呼ばれます。AIは渡された文字だけを手がかりに答えを組み立てるため、書かれていない前提は推測で補われることになってしまいます。
なぜ今、プロンプトエンジニアリングが重要なのか
重要性が増している背景には、生成AIを使う人が一部の詳しい社員から、ふだんの事務を担う社員へと広がりつつあることがあります。Googleの利用者向けの手引き「Prompting Guide 101」(2024年10月版)には、良い結果が出たプロンプトは平均で約21語だった一方、実際に試されるプロンプトは9語未満が多かったという記載があるのです。短い一言だけで頼むと期待外れの答えが返りやすく、AIは仕事に使えないと判断されてしまう場面もあります。指示の質が社員ごとにばらつくと、同じ道具を配っても成果は人によって大きく変わってしまいます。
※21語・9語は英語のプロンプトの語数で、Googleが自社の利用者から得た傾向として記載しているものです(調査の母数や方法は示されていません)。Googleの資料(Prompting Guide 101、2024年10月版)によります。
身につけると何が変わるか|メリット
メリットは、答えの手直しにかかる時間が減ることと、誰が頼んでも同じ水準の答えを得やすくなることです。指示の型が決まれば、AIに慣れていない方でも型に沿って書くだけで、使える下書きを受け取れるようになります。良い指示を文章として残せば、部署の中で使い回せる財産にもなるでしょう。何を渡せば良い答えが返るかを考える過程で、仕事の目的や前提を言葉にする力も鍛えられます。
プロンプトの4要素は出典によって中身が違う
プロンプトの4要素と呼ばれるものは1つではなく、どの資料を元にするかで中身が変わります。国内の解説記事でよく引用されるのは、Prompt Engineering Guide(DAIR.AI)が挙げる命令・文脈・入力データ・出力指示子の4つです。一方で、Googleの利用者向け手引きは役割(Persona)・してほしいこと(Task)・背景(Context)・形式(Format)の4つを、Microsoft Copilotのヘルプは目標・コンテキスト・期待値・ソースの4つを挙げています。3つの出典を共通する軸で並べると、次のようになります。
| 共通する軸 | Prompt Engineering Guide(DAIR.AI) | Google Prompting Guide 101 | Microsoft Copilot のヘルプ |
|---|---|---|---|
| してほしいこと | 命令(実行してほしいタスクや命令) | Task(してほしいこと。動詞を入れる) | 目標 |
| 背景・材料 | 文脈(外部情報や追加の文脈)、入力データ(答えを求めたい入力や質問) | Context(背景) | コンテキスト、ソース(参照してほしいデータや資料) |
| 役割 | (4要素には含まれない) | Persona(役割) | (4要素には含まれない) |
| 出力の形 | 出力指示子(出力のタイプや形式) | Format(形式) | 期待値(トーンや形) |
| 主な読み手 | AIを使う人全般(開発者寄り) | Gemini for Workspace の利用者 | Microsoft Copilot の利用者 |
| 出典 | プロンプトの要素 | Prompting Guide 101(2024年10月版・PDF) | Microsoft Copilot でプロンプトの記述を開始する |
※各資料は2026年9月27日に公式ページで確認しました。軸への対応づけは、各資料の説明をもとにした整理です。役割はPrompt Engineering GuideとMicrosoftのヘルプの4要素には入っていませんが、役割を与える書き方はOpenAIやAnthropicのガイドでも紹介されています。
3つの出典に共通するのは「してほしいこと・背景・出力の形」
共通しているのは、何をしてほしいか、どんな前提があるか、どんな形で返してほしいかの3点です。Googleの手引きは、毎回4つすべてを入れる必要はないとしつつ、いくつかを組み合わせると効果があり、してほしいことに動詞を入れるのが最も大切だと説明しています。社内で教えるときは、出典ごとの呼び名を覚えてもらうより、この3点を毎回書く習慣を先に身につけてもらう方が定着しやすいでしょう。4要素は何かと聞かれたら、出典によって中身が違うと前置きしたうえで、どの資料の分類かを添えて答えてみてください。
基本の型|具体的に・背景・形式・例・段階に分ける
基本の型は、各社の公式ガイドがほぼ共通して勧める書き方にまとまります。どれも特別な知識は要らず、ふだんの依頼メールを丁寧に書くときと同じ感覚で使えるものです。
具体的・明確に指示する
出発点は、曖昧な一言をやめて、対象・分量・読み手を書き込むことにあります。OpenAIのChatGPT利用者向けヘルプも、十分な背景を渡してあいまいさを避けることを、最初のベストプラクティスとして挙げています。
【改善前】 来月の社内イベントの案内文を書いて 【改善後】 10月23日(金)18時から本社3階会議室で行う、社員向けの秋の懇親会の案内文を書いてください。 読み手は全社員(約60名)で、参加は任意です。 400字以内で、日時・場所・参加申込の締め切り(10月16日)・問い合わせ先(総務部)を箇条書きで入れてください。 堅すぎない丁寧語でお願いします。
改善後の指示では読み手と分量が決まっているので、AIが推測で埋める部分はぐっと減るでしょう。
役割(ロール)を与える
役割を一文添えると、答えの視点と言葉づかいがそろいやすくなります。Anthropicのガイドは、システムプロンプト(会話の前提として最初に渡す指示)で役割を与えると、1文でも違いが出ると説明しています。「あなたは中小企業の総務担当者です」と書くだけでも、社内向けの言い回しに寄った答えが返りやすくなるわけです。ただし、役割を与えるだけで専門家と同じ正確さになるわけではない点には注意しましょう。
前提・背景・制約を渡す
なぜその仕事が必要か、何を避けたいかを添えると、AIは判断の基準を持てるようになります。Anthropicは、指示の背景や動機を伝えることと、何をしないかではなく何をするかを伝えることを勧めています。「専門用語を使わないで」と禁止を書くより、「入社1年目の社員にも分かる言葉で」と望む姿を書く方が伝わりやすいでしょう。
出力形式を指定する
箇条書きか表か、文字数や見出しの有無まで指定すると、そのまま貼れる形で答えが返ってきます。OpenAIとGoogleの開発者向けガイドは、Markdownの見出しやXMLタグ(<instructions>のような目印)で、指示と資料の区切りを示す方法を紹介しています。ふだんのチャットなら、「#指示」「#資料」のように見出しを付けて区切るだけでも十分です。形を言葉で説明しにくいときは、見本を1つ貼ってしまう方が早く伝わります。
複雑なタスクは段階に分ける
長い仕事は一度に頼まず、段階ごとに分けて頼む方が答えの質は安定します。GoogleのWorkspaceヘルプも、複雑なタスクは別々のプロンプトに分けるよう勧めています。議事録から報告書を作るなら、決定事項と宿題を抜き出す、報告書の型に流し込む、読み手に合わせて言い回しを整える、の3回に分けてみてください。
試して直す|反復とテスト
1回で完璧な指示を書こうとせず、答えを見て直す前提で書くのが実務の進め方です。Anthropicの概要ページは、プロンプトを直し始める前に、何をもって成功とするかと評価の方法を決めるよう求めています。OpenAIの開発者向けガイドにも、本番で使う指示ではモデルの版を固定し、挙動を測るテストと評価を用意するよう記載があります。社内で使うなら、どんな答えなら合格かを先に1行で書き出してから試してみましょう。
代表的な手法|Zero-shot・Few-shot・Chain-of-Thought
手法の名前は数多くありますが、社員の方がまず押さえておきたいのは、例を見せるかどうかと、考える段階を踏ませるかどうかの2つです。
Zero-shot(例を見せずに頼む)
Zero-shotは、見本を付けずに指示だけで頼むやり方になります。要約・翻訳・言い換えのように、AIが普段から得意な仕事ならこれで足ります。ふだんのチャットのほとんどは、Zero-shotで頼んでいると考えてよいでしょう。
Few-shot(例を見せて頼む)
Few-shotは、入力と望む出力の見本をいくつか見せてから、本番の仕事を頼むやり方です。Anthropicは見本を3〜5個、似すぎないよう幅を持たせて入れるよう勧めており、OpenAIも多様な見本を入れるとAIがパターンを拾うと説明しています。社内の定型文のように、決まった言い回しや形をまねてほしいときに効果が出やすくなります。
次の問い合わせを「経費精算」「勤怠」「PC・アカウント」「その他」のどれかに分類してください。 例1:交通費の領収書をなくしました → 経費精算 例2:先週の打刻が1日抜けています → 勤怠 例3:パスワードを忘れてログインできません → PC・アカウント 本番:出張先で買った備品は経費で落とせますか →
Chain-of-Thought(考える段階を踏ませる)
Chain-of-Thoughtは、答えを出す前に、考える過程を段階的に書かせるやり方です。計算や条件の多い判断で途中の筋道を示させると、どこで誤ったかに気づきやすくなるのが利点になります。ただし、答える前に内部で考える推論型のAIでは事情が変わってきており、公式の説明をもとに後ろの節で整理します。
発展的な手法|思考の木・自己一貫性・知識生成・Least-to-most
研究や開発者向けの解説では、さらに発展した手法も紹介されています。
- 思考の木(Tree of Thoughts)は、考え筋を枝分かれさせて比べ、見込みのある筋を選びながら進める方法
- 自己一貫性(Self-Consistency)は、同じ問いに何通りか答えさせ、いちばん多く出た答えを採る方法
- 知識生成(Generated Knowledge)は、答える前に関連する知識を書き出させ、それを材料に答えさせる方法
- Least-to-most は、難しい問題を小さな問いに分け、易しいものから順に解かせる方法
どれも、段階に分ける・複数の案を比べるという基本の型を発展させたものです。業務で使うなら、手法の名前を覚えるより、「3案出して比べて」「まず小さな問いに分けて」と指示に書けば十分でしょう。
AIごとに公式ガイドが勧める書き方は違う
基本は共通していても、各社の公式ガイドが強調する点は少しずつ違います。4社の公式ガイドの要点を並べると、次のとおりです。
| 提供元 | 主な読み手 | 公式ガイドが強調していること | 公式ページ | 確認日 |
|---|---|---|---|---|
| OpenAI(ChatGPT) | 開発者(API)/ChatGPTの利用者 | 見出しやXMLタグで区切る。役割・指示・例・背景の順が目安。推論モデルには目標を渡し、GPTモデルには明示的な指示を渡す。利用者向けは、明確・具体的に書く、答えを見て直す、トーンを形容詞で伝える | 開発者向けガイド ChatGPT利用者向けヘルプ | 2026年9月27日 |
| Anthropic(Claude) | Claudeの利用者・開発者 | 背景を知らない新入社員に頼むつもりで明確に書く。理由を添える。見本は3〜5個。XMLタグで区切る。長い資料は先頭、質問は末尾。何をしないかより何をするかを書く | プロンプトのベストプラクティス 概要ページ | 2026年9月27日 |
| Google(Gemini) | Gemini for Workspace の利用者/開発者 | Persona・Task・Context・Format の4領域。してほしいことに動詞を入れる。自然な言葉で会話を続ける。複雑な仕事は分ける。Gemini 3 には目標を正確かつ直接的に伝える | Prompting Guide 101(PDF) Workspaceヘルプ(英語) プロンプト設計戦略 | 2026年9月27日 |
| Perplexity | 開発者(Agent API) | 探したい情報が載るページに出てくる語を使う。リストは件数を指定する。URLは本文に書かせず検索結果を正とする。見つからなければ推測せずそう答えさせる | Prompt Guide | 2026年9月27日 |
※各社の公式ページの記載を要約したものです。OpenAIとGoogleは利用者向けと開発者向けの両方、Perplexityは開発者向け(Agent API)のガイドの内容です。ガイドは予告なく更新されるため、使う前に公式ページで最新の内容をご確認ください。
OpenAI(ChatGPT)
OpenAIの開発者向けガイドは、指示の区切りを見出しやXMLタグで示すことと、役割・指示・例・背景の順に並べることを目安として挙げています。最適な順序は変わりうるという注記付きの目安です。ChatGPT利用者向けの日本語ヘルプでは、明確かつ具体的に書く、答えを見て言い回しを直す、形容詞で望むトーンを伝える、の3つが基本として示されています。ChatGPTでの具体的な書き方は、ChatGPTのプロンプトの書き方とChatGPTのプロンプト集も参考にしてください。
Anthropic(Claude)
Anthropicのガイドは、Claudeを、優秀だが社内の決まりや仕事の流れを知らない新入社員と考えて頼むよう勧めています。黄金律として紹介されているのが、仕事の背景を知らない同僚にプロンプトを見せ、同僚が迷うならClaudeも迷う、という確かめ方です。長い資料(2万トークン以上。トークンはAIが文章を数える単位)はプロンプトの先頭に置いて質問を末尾に置くと、特に複数の資料を渡す複雑な入力では、テストで品質が最大30%上がることがあったとも書かれています。社内で指示文を点検するときは、この黄金律をそのままチェック項目に使ってみてください。Claudeの特徴はClaudeとはで詳しく紹介しました。
Google(Gemini)
Googleの利用者向け手引きは、4領域のうちいくつかを組み合わせ、自然な言葉で会話を続けるように頼むことを勧めています。手引き(2024年10月版)には、Make this a power prompt: と頭に付けて、Geminiに自分の指示文の改善案を出させる使い方の紹介もあります。開発者向けの設計ガイドでは、Gemini 3には目標を正確かつ直接的に伝え、余計な言い回しを避けるよう求めています。Geminiでの書き方はGeminiのプロンプトのコツもあわせてご覧ください。
Perplexity
Perplexityは検索して答えるAIのため、開発者向けガイドは検索の当たり方を左右する書き方を重く見ています。探したい情報が載っていそうなページに実際に出てくる語を指示に入れることと、リストが欲しいなら件数を決めることが代表例になります。本文にURLを書かせると打ち間違いや言い換えが起きやすいので、出典は検索結果の欄を正とするよう説明しています。見つからないときは推測せずにそう答えるよう指示することも、誤回答を減らす方法として挙げられているポイントです。Perplexityそのものの特徴はPerplexityとはにまとめました。
Microsoft Copilot
Microsoft Copilotのヘルプは、目標・コンテキスト・期待値・ソースの4つで指示を組み立てる方法を示しています。より具体的にしたいときに要素を足していく、という考え方になります。Copilotでの例文はCopilotのプロンプト例で紹介しています。
AIごとに書き方が違うなら、全員が同じ条件で試せるよう、使う環境を会社で1つにそろえましょう。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
プロンプトエンジニアリングは古い・いらないのか|推論するAIで変わった点
プロンプトエンジニアリングそのものが不要になったわけではなく、推論するAIでは細かい手順を書き込みすぎない方向へ、書き方が変わりつつあります。推論するAIとは、答える前に内部で考える時間を取るモデルのことで、OpenAI・Anthropic・Googleのガイドがいずれもこの種のモデル向けの書き方に触れているのが共通点です。OpenAIは、推論モデルは上級の同僚(senior co-worker)のように目標だけを渡し、GPTモデルは新人の同僚(junior coworker)のように明示的な指示を渡す、というたとえで違いを説明しています。Anthropicのガイドにも、Claudeの思考機能を使うときは、決まった手順を細かく並べるより、徹底的に考えてといった大まかな指示を優先するようにとの記載があります。Googleの開発者向けガイドは、Gemini 3に対して目標を正確かつ直接的に述べるよう求めています。
今も効く書き方と、見直したい書き方
一方で、変わっていないことも数多くあります。背景を渡す、出力の形を決める、良い見本を示す、答えを見て直すという基本は、各社のガイドに引き続き書かれているものです。推論するAIには、考える手順より、目的と判断の材料をしっかり渡しましょう。古い・いらないという声は、決まり文句を並べるだけの昔ながらの書き方を指していると受け止めるのが実態に近いでしょう。見直しの目安を、公式ガイドの記載をもとに分けてみました。
- 今も効く:仕事の背景と目的を書く(Anthropic・OpenAI)
- 今も効く:出力の形を指定する(各社に共通)
- 今も効く:幅のある見本を示す(OpenAI・Anthropic・Google)
- 今も効く:長い資料は先頭、質問は末尾に置く(Anthropic)
- 見直したい:推論するAIに、考える手順を一から細かく指定する(OpenAI・Anthropic)
- 見直したい:「〜しないで」と禁止だけを並べる(Anthropicは何をするかを書くよう勧める)
- 見直したい:1回の指示に仕事を全部詰め込む(Googleは別々のプロンプトに分けるよう勧める)
ChatGPTの推論モデルやClaudeの思考機能を使う場面では、まず目標と材料だけで頼み、足りない点を会話で補ってみてください。
同じ指示を複数のAIで比べる手順と評価シート
効く書き方がAIごとに違う以上、会社で使う指示文は1つのAIで試して終わりにせず、複数のAIに同じ指示を投げて比べるのが確実です。手順は次の5段階になります。
- 比べる仕事を1つ決め、合格の条件を1〜3行で書き出す(例:A4で1枚に収まる、専門用語を使わない、日付の誤りがない)
- 入力してよい情報だけで作った、同じ指示文と同じ資料を用意する
- ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityなどに、新しい会話で同じ指示を投げる
- 評価シートの5つの観点で採点し、直した回数と時間も記録する
- 点の良かったAIと指示文の組み合わせを、台帳に登録する
同じ指示で比べると、どのAIの答えが良いかだけでなく、指示文のどこが曖昧だったかも見えてきます。どのAIも同じところを外したなら、AIではなく指示の書き方を直すべきサインです。
【評価シート】指示文1つにつき1枚 指示文の名称: 試した日: 試した人(2名以上): 合格の条件: 観点 ChatGPT/Claude/Gemini/Perplexity 1 指示どおりの形式か(文字数・見出し・表) ○△×を記入 2 事実の誤りがないか(数字・日付・固有名詞) ○△×を記入 3 根拠の示し方(どの資料・どのページから引いたか) ○△×を記入 4 直した回数(追加の指示を何回出したか) ◯回 5 使える形になるまでの時間 ◯分 所見: 台帳に登録する組み合わせ:
採点は○△×の3段階で十分でしょう。答えの良し悪しは担当者の好みにも左右されるため、1つの仕事につき2人以上で採点すると判断がぶれにくくなります。ただ、4つのAIをそれぞれ別の契約とアカウントで用意すると、比べるたびに画面を行き来することになり、学習の設定も社員ごとにばらばらになってしまいます。複数のAIを1つの環境で使う考え方はマルチAIとは、仕事ごとの割り当ては主要4AIの違いと使い分けで整理しています。
プロンプトを書くときの注意点|誤回答・情報漏洩・インジェクション・偏り
指示の書き方を工夫しても、AIの答えの誤りと、入力した情報の扱いのリスクはなくなりません。書き方と合わせて、次の4つを社内の決まりにしておきましょう。
誤回答(ハルシネーション)を前提に確認する
生成AIは、もっともらしい誤りを事実のように書くことがあり、これをハルシネーションと呼びます。指示で減らすことは出来ても、なくすことは出来ません。分からない場合は分からないと書くよう指示し、数字・日付・固有名詞は必ず元の資料で確かめてください。
情報漏洩・プライバシー|入れてはいけない情報と置き換え例
プロンプトに書いた内容は、使うサービスと設定によっては提供元に保存され、学習に使われる場合もあります。個人情報保護委員会は2023年6月2日の「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」で、個人情報を含む指示を入力するときは、利用目的の達成に必要な範囲かを十分に確認するよう求めています。本人の同意なく個人データを入力し、応答の出力以外の目的で扱われる場合は法令違反となるおそれがあるとして、提供元が機械学習に使わないこと等を十分に確認するよう注意を促しました。入れてはいけない情報と置き換えの例は次のとおりです。
- 顧客名・取引先名 → A社、B社のような記号に置き換える
- 顧客や社員の個人名 → 担当者A、社員Bのように置き換える
- 住所・電話番号・メールアドレス → 削除するか、都道府県までにとどめる
- 具体的な金額・売上 → 300万円台のような幅か、前年比などの比率に置き換える
- 契約番号・案件番号・口座番号 → 削除する
- マイナンバー・健康情報・人事評価 → 置き換えても入力しない
- パスワード・APIキーなどの認証情報 → どんな場合も入力しない
- 未発表の新製品名・決算前の数字 → 仮称(新サービスXなど)にし、数字は入れない
置き換えた記号と実名の対応表はAIに渡さず、答えを受け取ったあとに人が実名へ戻しましょう。入力してよい情報の決め方は生成AIに入力してはいけない情報で詳しく解説しています。
※個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月2日)https://www.ppc.go.jp/news/careful_information/230602_AI_utilize_alert/ 2026年9月27日確認。
プロンプトインジェクションに注意する
プロンプトインジェクションとは、AIに読ませる文書やWebページの中に紛れ込ませた指示で、AIの動きを乗っ取ろうとする攻撃のことです。社外から受け取った資料をそのまま要約させる場面でも起こりうるため、資料の中にある指示には従わないよう一文添えておくのが無難でしょう。具体的な対策はプロンプトインジェクション対策にまとめました。
バイアスの軽減と倫理
AIの答えには、学習したデータの偏りが表れることがあります。採用・評価・与信のように人に関わる判断では、AIの答えを結論にせず、判断材料の1つとして扱ってください。指示文でも、「性別や年齢で判断しないで」と禁止を書くより、「職務に必要な経験と技能だけで比べて」と基準を書く方が伝わりやすくなります。
良い指示を社内で共有するプロンプト台帳のひな形
良い指示文は個人のメモに眠らせず、台帳にして部署で使い回すと、指示の質のばらつきを小さく出来ます。台帳は表計算ソフトでも共有ドキュメントでも構いませんが、1件ごとに次の項目をそろえてください。
【プロンプト台帳】1件につき1枚(記入例) 名称:顧問先向け・月次資料の提出依頼メール 用途:毎月の記帳に必要な資料の提出をお願いする 担当部署:業務部 作成者:(氏名) 版:1.2 最終確認日:2026年9月27日 対象AI:Claude(推奨)、ChatGPT(可) 入力してよい情報の区分:社外秘なし(顧問先名は記号に置き換える) 指示文の本文:(全文を貼る) 入力例と出力例:(見本を1組貼る) 検証したAIと結果:Claude ○ ChatGPT ○ Gemini △(敬語が硬い) 直した履歴:1.1 締め切りの書き方を追加 1.2 箇条書きに変更 使うときの注意:日付と金額は必ず元の資料で確かめる
項目の中で特に大切なのは、入力してよい情報の区分と最終確認日の2つです。AIのモデルが新しくなると同じ指示でも答えが変わることがあるため、月に1回ほど主な指示文を試し直し、版を更新していきましょう。
社内研修の進め方|60分のワーク
台帳は作るだけでは使われにくいため、短い研修で、書き方から登録までの流れを一緒に体験してもらうのが効果的です。
- 10分:よくある悪い指示文を見て、何が足りないかを出し合う
- 15分:してほしいこと・背景・出力の形の3点で書き直す
- 15分:書き直した指示を3〜4のAIに投げ、評価シートで採点する
- 10分:点の良かった組み合わせを台帳の形式で書く
- 10分:入れてはいけない情報の置き換えを確かめ、月1回の見直し担当を決める
登録前のレビューでは、Anthropicの黄金律にならい、その業務を知らない同僚に指示文だけを見せて、迷わず作業できるかを確かめてみてください。研修の組み立て方は生成AIの社内研修で、社内ルールの作り方は生成AIの社内ガイドラインで解説しています。
業務別の改善前後の指示文|総務・経理・情シス・会計事務所
社員10〜200名の会社でよくある4つの業務について、改善前と改善後の指示文を並べました。改善後はどれも、してほしいこと・背景・出力の形の3点を入れています。
総務|社内規程の要約
【改善前】 この規程を要約して 【改善後】 あなたは総務担当者です。 以下は社内の出張旅費規程の全文です。 来月入社する社員向けに、出張の申請から精算までの流れがわかる説明を作ってください。 ・申請、出発前、帰着後、精算の4つの見出しで分ける ・各見出しの下は3行以内の箇条書きにする ・金額や日数は規程の数字をそのまま使い、規程にない内容は書かない ・最後に、参照した条の番号を一覧にする #規程 (ここに規程の本文を貼る)
読み手と使い道が決まっているため、条文の言い換えではなく、社員が知りたい手続きの順に整理された答えが返りやすくなります。
経理|月次コメントの下書き
【改善前】 今月の数字にコメントして 【改善後】 経営会議に出す月次資料のコメント欄の下書きを作ってください。 以下は当月と前年同月の部門別の売上・経費です(取引先名は記号、金額は百万円単位に丸めています)。 ・前年同月より10%以上増減した項目だけを取り上げる ・1項目2行まで、数字は資料の値をそのまま使う ・増減の理由は推測で書かず、【理由:担当者記入】と空欄にする ・読み手は経営陣で、会計の用語はそのまま使ってよい #数字 (ここに表を貼る)
増減の理由はAIには分からないため、理由の欄は担当者が書く前提で空けさせるのがポイントです。
情シス|ヘルプデスクの回答案
【改善前】 PCが遅いと問い合わせが来たので返信を書いて 【改善後】 あなたは社内ヘルプデスクの担当者です。 社員からの問い合わせに返す回答案を作ってください。 ・下の社内手順書に書かれている手順だけを使い、番号付きで3〜5手順にまとめる ・設定画面の名前は手順書の表記どおりにする ・手順書に載っていない場合は手順を作らず、情報システム担当から改めて連絡すると書く ・ITに詳しくない社員が読む前提で、専門用語には短い説明を添える #問い合わせ (社員の名前は外して貼る) #社内手順書 (該当する部分を貼る)
回答案は、担当者が手順を1つずつ確かめてから社員に返す流れにしてください。資料にないことは作らせない一文が、誤った手順を社員に伝える事故を防ぎます。
会計事務所|顧問先への資料提出の案内文
【改善前】 資料を送ってもらうメールを書いて 【改善後】 あなたは会計事務所の担当者です。 顧問先(A社)に、月次の記帳に必要な資料の提出をお願いするメールを書いてください。 ・提出してほしい資料は、通帳のコピー、請求書と領収書、給与台帳 ・締め切りは毎月10日 ・送り方は共有フォルダへのアップロード(URLは送信前に人が貼る) ・相手は社長お一人で経理担当者はいないため、手間が少ないことを伝える ・丁寧だが堅すぎない文面で、300字以内 ・下の見本の書き方と長さに合わせる #見本 (過去に送って返信の早かった案内文を1通、顧問先名を伏せて貼る)
顧問先ごとに言い回しを変えたいときは、過去に送って評判の良かった案内文を見本として1つ貼るFew-shotの形にすると、事務所らしい文面に寄せやすくなるでしょう。
画像生成のプロンプトの書き方
画像を作るAIでも、何を描くか・どんな雰囲気か・どこで使うかを書くという基本は変わりません。社内報の挿絵なら、「オフィスで打ち合わせをする3人、やわらかい水彩風、横長、文字は入れない」のように、主題・画風・縦横比・入れたくない要素を並べると伝わりやすくなります。実在の人物やロゴ、他社のキャラクターに似せる指示は、権利の問題につながるおそれがあるため避けてください。
プロンプトエンジニアという職種と、社員に必要なスキル
プロンプトエンジニアは、AIを組み込んだサービスや社内システムで、狙いどおりの答えが返るよう指示文を設計し、評価する役割を指す言葉です。指示文を書くだけでなく、テストと評価の仕組みを作ることも仕事に含まれ、OpenAIやAnthropicのガイドもこの評価の工程を重く見ています。一方で、業務でAIを使う社員の方に、専門職と同じ知識は要りません。必要なのは、仕事の目的と前提を言葉にする力、答えの誤りに気づく業務知識、良い指示を人に渡せる形で残す習慣の3つになります。資格の有無より、この3つを部署の中で育てる仕組みを先に作ってみましょう。
会社で安全に使うには|学習させない設定・ログ・配布・使い分け
会社で安全に使うための要点は、入力を学習に使わない設定を全員にそろえること、誰がいつ使ったかを会社が把握できること、良い指示を全員に配れること、仕事に合うAIを選べることの4つです。社員が個人のアカウントで使っていると、学習の設定も履歴も会社からは見えず、良い指示文もその人の手元に残るだけになってしまいます。会社から見えないこうした利用は野良AI(シャドーAI)と呼ばれ、情報漏洩の入り口にもなりえます。
指示文の共有には、ChatGPTのGPTs、GeminiのGem、Claudeのプロジェクトのように、指示と資料をまとめて保存しておける機能があります。ただ、AIごとに別々の場所へ保存すると台帳と中身がずれ、どれが最新版か分からなくなりがちです。台帳と保存場所を1つにそろえ、使うAIと入力してよい情報を会社で決めるところから始めてみてください。
良い指示を、4つのAIと社内BOTで全員に
UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです。会話の途中でもモデルを切り替えられるので、同じ指示に対するAIごとの答えの違いをその場で確かめられます。よく使う指示と手順は、カスタムプラス(GPTs・Gem・Claudeプロジェクトの社内版)でBOTにして社内限定で共有出来ます。全モデルで学習非利用を標準適用し、利用ログ・権限・モデルのON/OFFは管理者ダッシュボードで管理します。基盤はAWSの日本リージョンで稼働しています。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名・スタンダード6〜20名・プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AI(アップギアAI)の詳細を見るよくある質問
プロンプトエンジニアリングの4要素は何ですか?
プロンプトエンジニアリングは古い・いらないと言われるのはなぜですか?
プロンプトエンジニアリングを学ぶのに資格は必要ですか?
ChatGPT・Claude・Geminiで同じプロンプトを使い回してもよいですか?
プロンプトに顧客名や社員の名前を入れてもよいですか?
良いプロンプトを社内で共有するにはどうすればよいですか?
まとめ
プロンプトエンジニアリングとは、生成AIから望む答えを得るために指示文を設計し、試しながら直していく技術です。4要素は出典によって中身が違いますが、共通するのは、してほしいこと・背景・出力の形の3点になります。各社の公式ガイドは、背景を渡す、見本を示す、長い資料の置き場所に気を配るといった基本では重なりつつ、推論するAIには細かい手順より目標を渡すよう勧める方向へ変わってきました。
効く書き方はAIごとに少しずつ違うため、同じ指示を複数のAIで比べ、良かった組み合わせを台帳に残して社内で使い回すのが現実的な進め方でしょう。入れてはいけない情報の置き換えと、学習させない設定やログの管理まで会社で整えれば、指示の工夫をそのまま全社の成果につなげることが出来ます。AI活用の他の記事はAI活用コラム一覧からご覧ください。
