
税理士業務のAIエージェントとは、会計ソフトや証憑のフォルダにつながり、仕訳案の作成や記帳チェックといった複数の手順を自分で進めるAIの仕組みのことです。任せてよいのはデータを読む作業と下書き・チェック・期限の通知までで、会計データへの登録と顧問先への送付は人が承認してから、税務判断と申告書の確定は人が行う領域に残すのが現実的な線引きになります。線を引く基準は、その操作が事務所の外に出るか、後から取り消せるか、税理士の専門的な判断を含むかの3点で見ることが出来ます。
チャットで質問して答えをもらう対話型の生成AIの使い方は、税理士のAI活用の全体像で業務別にまとめています。ここでは、その先にある、AIに作業そのものを代行させる場面に絞って線引きを考えます。
対話型の生成AIとAIエージェントの違い|間違いが届く場所が変わる
対話型の生成AIとAIエージェントの違いは、AIの間違いが画面の中にとどまるか、会計データや顧問先にまで届くかにあります。対話型のAIは質問に答えを返すだけで、その答えを使うかどうかは毎回人が決めています。エージェントは、指示を受けると明細の取得、仕訳の判定、会計ソフトへの登録といった手順を続けて実行することが出来ます。
総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」(2026年3月31日)は、AIエージェントを「特定の目標を達成するために、環境を感知し自律的に行動するAI システム」と定めています。同ガイドラインの別添では、AIエージェントが自律的な動作の中で、人間の意図しない商品の注文やファイル削除などを行う可能性があるとの指摘も見られます。税理士業務に置き換えると、取り違えた顧問先の会計データに仕訳が登録される、確認前の月次コメントが顧問先に届く、といった形で表に出てしまいます。そのため、エージェントを使うかどうかより、どの操作まで許すかを先に決めることが大切になります。
会計ソフトとAIをつなぐ仕組みとして、各社が公開を進めているのがMCP(Model Context Protocol、AIと外部のツールをつなぐ共通の接続口)です。MCPでつなぐと、AIは人が会計ソフトを操作するのと同じように、データの読み出しや書き込みを行えるようになります。エージェント全般の仕組みはAIエージェントとはで、権限の絞り方はAIエージェントのセキュリティ対策で詳しく扱っています。
税理士業務の判断表|任せてよい・人が承認してから・任せない
税理士業務は、エージェントに任せてよい業務、人が承認してから実行させる業務、任せない業務の3段階に分けて考えると整理しやすくなります。下の表は、会計事務所の主な業務をこの3段階に当てはめたものです。
| 業務 | 段階 | エージェントに任せる範囲 | 人が必ず持つ部分 |
|---|---|---|---|
| 通帳・カードの明細や証憑の取得と読み取り | 任せてよい | 明細の取得、請求書PDFからの日付・金額・取引先・税率の読み取り | 読み取れなかった証憑や、手書きの資料の確認 |
| 仕訳案の作成 | 任せてよい | 過去の仕訳や顧問先ごとのルールに沿った仕訳案の作成 | 固定資産・役員や親族との取引・交際費など、判断を含む取引の振り分け |
| 会計ソフトへの仕訳の登録 | 人が承認してから | 承認された仕訳の登録作業 | 登録前の承認(顧問先名・会計年度・件数・金額合計の確認) |
| 記帳チェック | 任せてよい | 異常値・重複・消費税区分の誤りの疑いの抽出と一覧化 | 抽出された項目を直すかどうかの判断 |
| 修正の反映 | 人が承認してから | 承認された修正の反映 | 修正内容の承認 |
| 月次レポートのコメント下書き | 任せてよい | 試算表の増減分析とコメント原案の作成 | 経営者に伝える内容と表現の決定 |
| 顧問先への送付・通知 | 人が承認してから | 承認された文面の送付 | 送付先と内容の最終確認 |
| 顧問先の質問対応(操作方法・書類の出し方など) | 人が承認してから | 回答案の作成と、過去の回答の検索 | 回答を送る前の確認 |
| 顧問先の質問対応(経費になるか・税区分など) | 任せない | 関係する条文・通達・過去の回答の下調べ | 回答の判断と送付 |
| 申告期限・必要書類の管理 | 任せてよい | 期限の一覧化、担当者へのリマインド、未提出書類の洗い出し | 顧問先への催促の文面と送付の判断 |
| 税務判断(処理方針・特例の適用など) | 任せない | 論点の洗い出しと条文・通達の下調べ | 判断そのもの |
| 申告書の確定・電子申告の送信 | 任せない | 作成途中の数値の突合や記入漏れの洗い出し | 内容の確定と送信 |
※判断表は、各社の公開資料と税理士法の規定をもとにした一つの目安です。顧問先の業種や事務所の体制に合わせて調整してください。
3段階を分ける3つの基準
段階を分ける基準は、操作が事務所の外に出るか、後から取り消せるか、税理士の専門的な判断を含むかの3つになります。証憑の読み取りや異常値の抽出は、間違えても人が見る前の下書きにとどまるため、任せる側に置くことが出来ます。会計ソフトへの登録や顧問先へのメール送付は、実行した時点で事務所の外の記録や相手に届くため、人の承認をはさむ段階に入れています。税務判断と申告書の確定は、税理士が資格にもとづいて責任を負う仕事で、エージェントには任せない側に置きました。読む・下書きする作業は任せ、書き込む・送る・決める作業は人が持つと覚えておきましょう。
事務所向けの各社も人の承認を前提にしている
事務所向けにエージェントを出している各社も、公開資料では人の承認を前提にした設計を打ち出しています。TKCが同社のAIエージェントの紹介ページで、必ず人が確認する仕組みとして「AIは候補や下書きを出し、人が確認して承認する流れを徹底」すると説明しているのが一例です。Blinxは税理士事務所向けAIエージェントのページで「承認・判断は必ず税理士が行います」とし、修正や顧問先への送付は税理士の承認後に実行される設計だと説明しています。3段階の線は、特別に慎重な考え方ではなく、今回確認した各社の前提と重なります。
税理士法38条・41条の2をエージェントの場面に当てはめる
税理士法の条文にAIやクラウドの語はなく、エージェントへのデータの受け渡しが違反になるかどうかを条文だけで一律に決めることは出来ません。確かめられるのは、守秘義務と監督義務を果たしていると説明できる使い方になっているかどうかになります。
※税理士法 第38条(秘密を守る義務)「税理士は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に洩らし、又は窃用してはならない。税理士でなくなつた後においても、また同様とする。」/第41条の2(使用人等に対する監督義務)「税理士は、税理士業務を行うため使用人その他の従業者を使用するときは、税理士業務の適正な遂行に欠けるところのないよう当該使用人その他の従業者を監督しなければならない。」/第54条(税理士の使用人等の秘密を守る義務)「税理士又は税理士法人の使用人その他の従業者は、正当な理由がなくて、税理士業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。」(後段で、従業者でなくなった後も同様と定めています)。第59条は、第38条または第54条の規定に違反したときを「二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金」の対象としています。条文は2026年9月29日にe-Gov法令検索で確認しました。
38条は税理士本人に、54条は職員を含む使用人その他の従業者に、業務で知り得た秘密を正当な理由なく漏らすことを禁じています。41条の2は、職員を使う税理士に、業務が適正に行われるよう監督することを求める規定になります。41条の2の監督の対象は使用人その他の従業者で、エージェントを動かすのは職員です。職員がエージェントに何をさせたかを、事務所として監督できる形で使うのが無難でしょう。
日本税理士会連合会は、41条の2の監督義務を適切に履行するための「税理士事務所等の内部規律及び内部管理体制に関する指針」を平成27年4月に策定し、令和5年3月に改訂しています。附録の様式集には「税理士事務所における情報管理チェックリストモデル」や使用人等の雇用時の誓約書のモデルが含まれており、エージェントの運用ルールを考えるときの土台として使うことが出来ます。
エージェントの場面での確認項目
条文ごとに、エージェントを動かす前に事務所で答えを用意しておきたい問いを並べます。
- 38条・54条(秘密)の観点では、エージェントが読める範囲に、その作業に要らない顧問先の情報まで含まれていないか
- 同じく、入力したデータを提供元が学習に使わない契約・設定になっているか、処理と保管の場所を顧問先に説明できるか
- 41条の2(監督)の観点では、誰がどのエージェントに何を実行させたかを後から確認できるか
- 職員がエージェントに許す操作(読み取り・下書き・登録・送付)を、事務所として決めて文書にしているか
- 職員の退職や担当替えのときに、エージェントの接続の権限を止める手順があるか
- 誓約書や服務規程に、AIの使い方に関する事務所のルールを反映しているか
違反かどうかの結論をAIの提供元や記事が代わりに出すことは出来ないため、判断に迷う使い方は所属の税理士会に確認してみてください。守秘義務と生成AIの関係は税理士の守秘義務と生成AIで、懲戒の量定まで含めて整理しています。
日税連のAI・クラウド活用ガイドラインとエージェント
日本税理士会連合会のデジタル・システム委員会は、2026年9月に「税理士事務所のためのAI・クラウド活用ガイドライン」(Ver1.0)を策定し、9月30日に日税連の会員向けお知らせで案内されました。税理士が法令を守りながら安全にAIやクラウドを使うための文書で、本文は会員の税理士だけが読める扱いです。
本文を読んだ税理士の解説動画(荒井悠輔税理士。私見を含むと概要欄で明記)では、対象は情報を外に送る5つのカテゴリーで、生成AI・単独のAIサービス・クラウドストレージ・ブラウザの拡張機能と並び、AIエージェントも含まれるという解説です。同じ動画で紹介されている区分の考え方では、マイナンバーを含む情報は入力禁止とされ、それ以外の顧問先や事務所の機密情報・個人情報を扱えるのは、ビジネス向け有料プラン、企業版でのDPA(データ処理契約)と学習利用のオフ、所内のルールと教育の3つを満たすツールに限ると解説されています。
エージェントについては、慣れないうちは挙動を制御しにくいため、最小権限から始めて安定運用ができてから広げる使い方がよい、という見方が示されました。この記事の段階的な導入手順で、読み取り、下書き、承認後の書き込みへと広げる順番と同じ向きの考え方になります。ガイドラインの要点と事務所版ルールの作り方は税理士会のAIガイドライン(日税連の要点と事務所版ルール)にまとめました。
顧問先データをエージェントに渡す前のチェックリスト
顧問先のデータをエージェントに渡す前に、次の8項目を事務所で確かめておきましょう。
- 入力したデータが学習に使われない契約・設定か法人向けプランの既定で決まるのか、職員ごとの設定頼みなのかを確認します。個人のアカウントでは設定が各自任せになります。
- 処理と保管の場所(国・事業者)を顧問先に説明できるか会計ソフトの提供元と、つなぐAIの提供元の両方を確認します。
- 接続の権限を読み取りだけから始めているか書き込み・削除の権限は、承認の手順が決まるまで外しておきます。
- 1回の作業で扱う顧問先を1社に絞っているか顧問先の取り違えを防ぐための基本の決まりです。
- マイナンバーや給与の明細など、渡さない情報を決めているか作業に要らない情報は、接続の範囲から外します。
- 誰がいつ何を実行させたかの記録が残るか承認した人と日時まで残ると、後から経緯を説明できます。
- つなぐ接続口(MCPサーバーなど)は提供元が公式に出しているものか出どころの分からない接続口は、隠れた指示を仕込まれるおそれがあります。
- 顧問先への説明と同意の取り方を決めているか顧問契約書への記載や案内文など、事務所としての方針を先に決めます。
7つ目の接続口について、Anthropicは自社のヘルプで、悪意のあるMCPサーバーには意図しない操作をさせようとする隠れた指示が含まれる場合があると注意を促しています。同じヘルプは外部のアプリで書き込みを行うツールを無効にすることも勧めており、チェックリストの3つ目と同じ考え方になります。8項目のうち1つでも答えられないなら、顧問先の実データはまだ渡さないでおきましょう。答えられない項目は、テスト用の顧問先データや架空のデータで手順を試しながら埋めていくことが出来ます。
確かめる項目が多いからこそ、事務所で管理できる環境を1つにそろえて進める方法もあります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
段階的な導入手順|対話型AIで慣れてからエージェントへ
エージェントの導入は、職員全員が対話型の生成AIに慣れる段階から始め、読み取り、下書き、承認後の書き込みへと権限を少しずつ広げる順番が安全です。いきなりエージェントから始めると、AIの間違え方を知らない職員が承認者になってしまいます。AI事業者ガイドラインの別添は、AIの判断を人が過度に信頼して自らの確認を怠ってしまう状態を「自動化バイアス」と呼び、注意を促しています。承認の手順は、AIの誤りを見抜ける職員がいて初めて意味を持ちます。
- 段階1:職員全員が、事務所で契約した対話型の生成AIを日常業務で使う(顧問先名を伏せた文章の要約、メールの下書き、条文や通達の下調べなど)
- 段階2:入力してよい情報の線、よく使う指示の型、チェックの観点を所内ルールとして文書にする
- 段階3:テスト用の顧問先で、読み取りだけのエージェントを試す(明細の取得、異常値の抽出)
- 段階4:仕訳案・修正案・月次コメントの下書きまでを任せ、人が確認する
- 段階5:承認した操作に限って登録・送付を許し、対象の顧問先を少しずつ広げる
段階3〜5は、JGA税理士法人が自事務所のコラム(2026年7月1日)で公開している進め方と近い形になります。同コラムは、最初は取得と分析だけのRead only、次に下書きや修正案を作るDraft、人の承認後にだけ書き込むApprove & Writeへ進む段階を示しています。いきなり自動登録を目指さないことが、結果的に安全で早い導入につながるという一文もあります。
段階1と2を飛ばさない理由
段階1と2は、エージェントのための準備というより、承認する側の目を育てる期間になります。対話型のAIを毎日使っている職員は、もっともらしい誤りや条文番号の取り違えといった、AIの間違え方の癖を体で覚えていきます。その経験がないまま承認のボタンだけを任されると、確認が形だけになってしまいます。職員向けの研修の組み立ては会計事務所のAI研修にまとめています。
段階1の前提として、職員全員が同じ事務所の環境でAIを使えることが欠かせません。個人のアカウントに任せたままでは、学習の設定も利用の記録も事務所から見えず、段階2のルールを作っても守られているかを確かめられなくなってしまいます。
事務所向けAIエージェントの3つの型と料金
事務所向けのAIエージェントは、各社の発表を見る限り、会計システムに組み込まれる型、会計ソフトの接続口に汎用のAIをつなぐ型、会計事務所向けの外部サービス型の3つに分けられます。どの型でも、線引きを決めるのが事務所であることは変わりません。
型1:会計ソフト・事務所システムに組み込まれる型
型1は、会計システムの提供元が自社の製品の中でエージェントを動かす形になります。TKCは2026年5月27日、関与先企業向けの「FXエージェント」と会計事務所向けの「OMSエージェント」を発表し、「9月末から順次提供を開始します」としています。価格は、プロトタイプ段階でのフィードバックを踏まえて別途案内するとの発表です。同社の紹介ページでは、OMSエージェントの機能として、関与先企業からの問合せに対する回答のドラフト生成などが並びます。発表では、関与先企業のデータを守る設計の考え方として、MCPサーバーを提供しない方針も示されました。
マネーフォワードは2026年3月17日、『マネーフォワード クラウド会計』で「消費税区分チェックエージェント」を一部の士業事務所向けに提供開始したと発表しています。仕訳入力の担当者が上長へレビューを依頼する前のセルフチェックとして使う位置づけで、消費税区分の入力ミスをAIが検知して知らせる仕組みです。同社は、今後の予定として修正案の提示やワンクリックでの修正反映の機能も挙げています。
型2:freee・マネーフォワードの接続口に汎用AIをつなぐ型
型2は、会計ソフトが公開する接続口に、ClaudeなどのAIを事務所がつないで使う形です。freeeは2026年3月2日、約270本のAPIをMCPのツールとして使える「freee-mcp」を発表し、Claude Desktop・Claude Code・Cursorなどから利用できると案内しています。マネーフォワードも2025年10月3日に、公認メンバーのプラチナメンバーを対象にMCPサーバーのβ版を発表しました。この型は自由度が高い反面、権限の設定や承認の手順を事務所が自分で組み立てることになります。製品ごとの契約や設定の違いは税理士事務所のAIの契約と設定で扱っています。
型3:会計事務所向けの外部サービス型
型3は、エージェントの運用ごと外部の事業者に任せる形です。Blinxは税理士事務所向けAIエージェントとして、記帳チェック・修正提案、顧問先からの質問対応、月次レポートの作成、申告期限の管理など7つの領域を掲げ、freeeとマネーフォワードとの連携をうたっています。AIの提案を税理士が承認・修正・却下してから顧問先へ送る流れを前提にしている点は、判断表の「人が承認してから」の段階と重なります。
料金の示され方と年額の目安
事務所向けのエージェントは、料金を公開しているところと、個別の案内にしているところに分かれます。Blinxのページには、顧問先10社までで7領域から2領域を選ぶスタータープランが月5万円、7領域すべてを使えるスタンダードプランが月8万円と表示されています。10社を超える場合は追加10社ごとに月3万円が加算され、30社を超えると個別見積もりとの記載です。顧問先30社で7領域すべてを使うと月14万円、年間では168万円の計算になります。同社のページに税込・税抜の表記はないため、見積もりの際に確かめてみてください。TKCの2つのエージェントは、前述のとおり価格が別途案内とされています。ツールごとの比較は税理士向けAIツールの比較にまとめました。
※各社の提供内容・料金は、2026年9月29日時点で各社の公式ページとニュースリリースに掲載されている内容(各社の発表)です。月14万円はBlinxのページの料金表(拡張プラン:スタンダードプラン月8万円をベースに追加10社ごと月3万円)から計算しました。同社の料金表にはAIの利用料(AIコスト)をBlinxが負担するプランがある旨の表示もあり、月額にAIの利用料が含まれるかはプランによって異なる可能性があります。提供範囲や価格は変わることがあるため、検討の際は各社の最新の案内をご確認ください。
公開されている事務所の運用例
実際にエージェントを業務に組み込んでいる事務所の例は、事務所自身や会計ソフトの提供元が公開した記事で読むことが出来ます。いずれも本人や掲載元の発表で、第三者が効果を検証した数字ではない点に注意が必要です。
JGA税理士法人|登録・送信・税務判断は人が承認する
JGA税理士法人は2026年7月1日のコラムで、Claude Code・MFクラウド会計・MCPサーバーを組み合わせた「AIエージェント経理」の構想を公開しています。基本方針として「AIは下書き・チェック・資料作成を担う」とし、登録・送信・税務判断・顧客別の重要方針は人間が確認して承認すると明記した内容です。1事業者1セッション、登録前の二重確認、高リスク取引の自動対象外といった所内運用ルールの案も挙げられており、判断表の線引きに近い形になります。
畠山税理士事務所|1人の事務所で登録まで進める例
freee公式noteのインタビュー記事では、スタッフを置かずに1人で60社の顧問先を持つ畠山税理士事務所の運用が紹介されています。記事によると、freeeのMCPとClaudeをつなぎ、共通の指示書を置いておくだけで、AIが明細の取得から仕訳の判断、登録までを本人への確認なしで進め、60社分の仕訳登録が1〜2時間で終わるようになったといいます。同じ記事では、毎回AIに判定させるのではなく、freeeの自動登録ルールそのものをAIで増やしていく運用も語られています。
登録まで任せる運用は、判断表の「人が承認してから」の段階を、所長本人が自分の設計した指示書とルールでまとめて引き受けている形と見ることが出来ます。職員を抱える事務所では担当者ごとに品質の差が出やすく、承認の段階をはさむ方が安全でしょう。事務所の事例をもっと見たい方は会計事務所のAI活用事例をご覧ください。
事務所で生成AIを安全に使うために先に整える4つのこと
エージェントに進む前に事務所で整えたいのは、学習させない設定、利用の記録、職員への配布、複数のAIの使い分けの4つになります。AI事業者ガイドラインの別添は、企業のルールが未整備の場合、従業員が業務外の利用者向けの生成AIを業務に使うおそれがあると指摘しています。同じ箇所には、機密情報を扱うときはビジネス利用を想定したセキュリティ機能を持つサービスを使うことを推奨する記載もあります。
- 全19条・様式4つ。判定の順(マイナンバー→入力禁止、顧問先・事務所の機密や個人情報→区分A、公開・一般・匿名化済み→区分B)で情報を分け、区分Aはビジネス向け有料プラン・DPA(データ処理契約)と学習オフ・ルールと教育の3つの要件を満たすサービスに限る作りです
- 守秘義務(税理士法第38条・第54条)、申告書等は税理士が確認すること、顧問先へのご案内と同意書(様式4)も入っています
- 日本税理士会連合会「税理士事務所のためのAI・クラウド活用ガイドライン」(会員向け)と併せて確認してください
学習させない設定を事務所で一律にする
ChatGPTやClaudeの個人向けプランでは、学習への利用を各自の設定で止める仕組みになっています。法人向けのプランについては、OpenAIやAnthropicが既定でビジネスデータを学習に使わないと案内しているのが特徴です。職員の設定頼みにせず、事務所の契約で一律に決まる環境を選んでみてください。
誰がいつ使ったかを記録に残す
41条の2の監督を説明するには、職員が何にAIを使ったかを事務所が後から確かめられる状態が役に立ちます。個人のアカウントでの利用は、事務所から履歴も記録も見えません。点検の項目は生成AIのセキュリティ対策チェックリストで整理しています。
職員全員に同じ環境を配る
一部の職員にだけAIを配ると、配られなかった職員が個人のアカウントで使い始めることがあります。事務所が把握していないAIの利用は野良AI(シャドーAI)と呼ばれ、顧問先の情報が見えない場所に出ていく経路になってしまいます。全員に配れる料金の形かどうかを、ツール選びの最初に確かめておきましょう。
複数のAIを業務で使い分ける
条文の下調べ、長い資料の要約、顧問先向けの文面づくりでは、得意なAIが分かれることがあります。1つの画面で複数のAIを切り替えられると、同じ質問を2つのAIに投げて答えの食い違いを確かめる使い方も出来ます。食い違った箇所は、そのまま人が確認すべき箇所になります。使い分けの考え方はマルチAIとはで、所内ルールの作り方は生成AIの社内ガイドラインの作り方で紹介しています。
職員全員が安全に使える環境から、エージェントの準備を
UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。全モデルで学習非利用を標準適用しており、会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理します。管理者ダッシュボードで利用ログ・権限・モデルのON/OFFを管理でき、よく使う指示と手順をBOTにして所内限定で共有することも出来ます。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名、スタンダード6〜20名、プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
AIエージェントに仕訳の登録まで任せてもよいですか?
顧問先のデータをAIエージェントに渡すと、税理士法の守秘義務違反になりますか?
AIエージェントが間違えた場合、責任は誰が負いますか?
職員10〜50名の会計事務所は、何から始めればよいですか?
事務所向けのAIエージェントの料金はどのくらいですか?
職員が個人のAIアカウントで顧問先の資料を扱うのは問題ですか?
日税連のAI・クラウド活用ガイドラインは、AIエージェントも対象ですか?
まとめ
税理士業務のAIエージェントは、読む・下書きする作業を任せ、書き込む・送る作業は人の承認を経て、税務判断と申告書の確定は人が行う、という3段階で線を引くと扱いやすくなります。税理士法の条文にAIの語はなく、守秘義務と監督義務を果たしていると説明できる使い方かどうかを事務所で確かめることが欠かせません。顧問先のデータを渡す前には、学習の設定、保管の場所、接続の権限、記録の残り方をチェックリストで確かめてみてください。
導入の順番は、職員全員が対話型の生成AIに慣れる段階から始め、読み取り、下書き、承認後の書き込みへと広げていく形が安全です。エージェントの前に、職員全員が同じルールで使える事務所の環境を整えることが、最初の一歩になります。法人のAI活用に関する他の記事はAI活用コラム一覧をご覧ください。
