
士業のAI活用とは、弁護士・税理士・社労士などの士業事務所が、書類の下書きや調べもの、議事録の整理に生成AIを使い、所内の作業を軽くする取り組みのことです。進めるうえで最初に決めるべきなのは使い方ではなく、依頼者の秘密をどの環境になら入力してよいかという線引きになります。士業の多くは法律で守秘義務を負い、事務所の職員にまで同じ義務を課す条文もあるため、職員それぞれの個人アカウントに任せたままでは、依頼者に説明がつかなくなってしまいます。条文と士業団体の指針を確かめたうえで、環境・ルール・依頼者への説明の順に整えてみてください。
結論:士業のAI活用は「どこに入力するか」を先に決める
士業事務所で生成AIを使い始めるときは、どの業務に使うかより先に、依頼者の情報をどこに入力してよいかを所内で決めておくことが出発点になります。生成AIへの入力は、多くの場合、サービスを提供する外部の事業者にデータを送ることを意味します。送った先で学習に使われるのか、どのくらいの期間どこに保存されるのか、誰が見られるのかは、使うサービスとプランによって大きく変わってしまいます。
確かめる順番は、次の3つです。
- 自分の士業の守秘義務の条文と、職員にも及ぶ規定を確かめる
- 所属する士業団体が、生成AIについて指針や会員向けの資料を出しているかを確かめる
- 事務所として職員に使わせる環境を1つ決め、入力してよい情報の線を引く
この3つが決まれば、職員への通知文や依頼者への説明文は、決めた内容を文章に直すだけで作ることが出来ます。反対に、環境を決めないまま使い方の研修だけを進めると、職員は手元の個人アカウントで試すことになってしまいます。業務ごとの使いどころや費用、導入の手順は後半でまとめていますので、所長・事務長の方は、まず次の条文表から自分の士業の行を確かめてみてください。
士業ごとの守秘義務と、生成AIへの入力の関係
士業の守秘義務は資格ごとの法律に条文があり、多くの士業では事務所の使用人や従業者にも同じ義務が及びます。下の表は、8つの士業について、e-Gov法令検索で条文の原文を確かめた内容をまとめたものです。
8士業の守秘義務の条文一覧
| 士業 | 法律と条 | 義務を負う人 | 使用人等の規定(確認した条文) | 罰則の法定刑 |
|---|---|---|---|---|
| 弁護士 | 弁護士法第23条(秘密保持の権利及び義務) | 弁護士又は弁護士であった者 | 弁護士法第23条は弁護士であった者まで | 刑法第134条(秘密漏示):六月以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金(告訴が必要) |
| 税理士 | 税理士法第38条(秘密を守る義務) | 税理士(税理士でなくなった後も同様) | 第54条:税理士又は税理士法人の使用人その他の従業者 | 第59条:二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金(告訴が必要) |
| 社会保険労務士 | 社会保険労務士法第21条(秘密を守る義務) | 開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員(社員等でなくなった後も同様) | 第27条の2:開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人の使用人その他の従業者 | 第32条の2:一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金(告訴が必要) |
| 行政書士 | 行政書士法第12条(秘密を守る義務) | 行政書士(行政書士でなくなった後も同様) | 第19条の3:行政書士又は行政書士法人の使用人その他の従業者 | 第22条:一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金(告訴が必要) |
| 司法書士 | 司法書士法第24条(秘密保持の義務) | 司法書士又は司法書士であった者 | 司法書士法第24条は司法書士であった者まで | 第76条:六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金(告訴が必要) |
| 弁理士 | 弁理士法第30条(秘密を守る義務) | 弁理士又は弁理士であった者 | 第77条:弁理士の使用人その他の従業者 | 第80条:六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金(告訴が必要) |
| 公認会計士 | 公認会計士法第27条(秘密を守る義務) | 公認会計士(公認会計士でなくなった後も同様) | 第49条の2:公認会計士、外国公認会計士若しくは監査法人の使用人その他の従業者 | 第52条:二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金(告訴が必要) |
| 土地家屋調査士 | 土地家屋調査士法第24条の2(秘密保持の義務) | 調査士又は調査士であった者 | 土地家屋調査士法第24条の2は調査士であった者まで | 第71条の2:六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金(告訴が必要) |
※条文は2026年9月26日時点でe-Gov法令検索に掲載されている現行の原文で確認しました。罰則の欄は、守秘義務の条文(使用人等の規定を含む)への違反に定められた法定刑です。いずれも告訴がなければ公訴を提起できない定めになっています。弁護士法の罰則には第23条違反の定めがなく、弁護士による秘密の漏示は刑法第134条(秘密漏示)の対象となります。弁護士の場合は、守秘義務に反すれば懲戒の対象にもなり得ます。
職員・使用人にも及ぶ規定
表のうち、税理士・社会保険労務士・行政書士・弁理士・公認会計士の5つの士業では、使用人その他の従業者にも秘密を守る義務を課す条文が置かれています。例えば税理士法第54条は、税理士や税理士法人の使用人その他の従業者が、正当な理由なく税理士業務に関して知り得た秘密を他に漏らすことや盗用することを禁じ、使用人でなくなった後も同じ扱いとなります。罰則も税理士本人の第38条違反と同じく第59条の対象で、二年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金と定められています。
職員が私物のスマートフォンで顧問先の資料を生成AIに入力したとき、使用人等の規定がある士業では、その職員自身も守秘義務を負う立場にあります。所長にとっては職員個人の問題として片づけにくく、事務所としてどの環境を使わせていたのかを依頼者に説明することになるでしょう。
司法書士・弁護士・土地家屋調査士については、本記事では使用人等の規定を確認していないため、表には資格者本人(資格者であった者を含む)の義務だけを載せました。職員に義務がないと読むのではなく、所属する会の規則や、職員との雇用契約の秘密保持条項とあわせて確かめてみてください。
生成AIへの入力は、直ちに違反になるのか
条文が禁じているのは秘密を漏らすことや盗用することで、生成AIへの入力そのものについては書かれていません。そのため、入力した時点で直ちに違反になると条文から読むことは出来ず、かといって問題がないと言い切る材料にもならないのが実情です。
判断の手がかりになるのが、日本弁理士会の「弁理士業務AI利活用ガイドライン」(令和7年4月)になります。同ガイドラインは、「外部事業者が提供する生成AIに、秘密情報を入力する行為は、生成AI提供者という第三者に秘密情報を開示することになるため、守秘義務に違反するおそれがあり、また秘密保持契約を締結している場合には契約上の義務違反となるおそれがある」と書いています。
ここで押さえたいのは、「違反する」ではなく「違反するおそれ」と書かれている点になります。問題になるのは入力という操作そのものより、秘密を第三者に渡す形になっているかどうかです。入力先の事業者がデータを学習に使うのか、どこにどれだけの期間保存するのか、といった契約の中身によって重さが変わると読むことが出来ます。
知的財産を扱う弁理士にとっては、同じガイドラインの「秘密保持規約のない第三者のプラットフォームに情報を載せた場合には新規性を喪失する可能性がある」という指摘も重い意味を持ちます。他の士業でも、入力先の規約を確かめてから使うという結論は変わりません。
個人情報保護委員会の注意喚起で押さえる点
依頼者の氏名や従業員の給与、相続人の情報のように、士業の業務記録の多くは個人情報でもあります。個人情報保護委員会は2023年6月2日に「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表し、個人情報取扱事業者に向けて2つの注意点を示しました。
1つ目は、「生成AIサービスに個人情報を含むプロンプトを入力する場合には、特定された当該個人情報の利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること」という点になります。2つ目として、「あらかじめ本人の同意を得ることなく生成AIサービスに個人データを含むプロンプトを入力し、当該個人データが当該プロンプトに対する応答結果の出力以外の目的で取り扱われる場合、当該個人情報取扱事業者は個人情報保護法の規定に違反することとなる可能性がある」とし、提供事業者が「当該個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること」を求めています。
士業の立場で読むと、依頼を受けた目的の範囲で使うことと、学習に使わない契約の環境を選ぶことの2つが、守秘義務の整理とそのまま重なります。注意喚起も「違反する」とは言い切らず「可能性がある」という書き方をしているため、弁理士会のガイドラインと同じように、入力先の扱いを確かめる根拠として読むのがよいでしょう。どんな情報を入力してはいけないかの一般的な整理は、AIに入れてはいけない情報で一覧にしています。
士業団体が出している生成AIの指針
士業団体の生成AIの指針のうち、2026年9月26日時点で一般に公開され、本文まで確かめられたのは日本弁理士会のガイドラインです。ほかに確認できたのは、会員向けに告知された社労士会連合会のガイドブックと、日本公認会計士協会の研究文書になります。自分の士業の会が会員向けに資料を出していないか、会員専用ページも含めて確かめておきたいところです。
弁理士:日本弁理士会「弁理士業務AI利活用ガイドライン」(令和7年4月)
日本弁理士会のガイドラインはPDFで一般に公開されており、守秘義務・新規性の喪失・個人情報・著作権・依頼者との合意・出力の確認までを一通り扱っています。事務所の運用に直結する記述は、次の4つになります。
- 秘密情報の入力について、第三者への開示にあたるため「守秘義務に違反するおそれ」があるとする記述(前の節で引用)
- 依頼者との合意について、「クライアントから得た秘密情報を生成AIに入力する場合は、学習の有無によらずクライアントに合意を取るべきである」とする記述
- 出力の確認について、「生成された情報の真偽を確かめるファクトチェックは必ず弁理士によって行う必要がある」とし、検討・精査をせずにそのまま提供することは民法644条の善管注意義務に「違反する恐れがある」とする記述
- 規約の確認について、「利用規約やプラン仕様は定期的に確認することが望ましい」とする記述
学習に使われない環境でも依頼者の合意を取るべきとしている理由として、同ガイドラインは、学習に利用されない場合でも依頼者の側で生成AIの利用を制限していることがある点を挙げています。顧問先の企業が社内で生成AIの利用を制限している場面は他の士業でも起こり得るため、この考え方はそのまま借りることが出来ます。学習に使われない環境であっても、依頼者の秘密を入れるなら先に合意を取る、という順番が基本です。
社労士:全国社会保険労務士会連合会の生成AI活用ガイドブック
全国社会保険労務士会連合会は、2024年9月9日に公式のXで「社会保険労務士向け生成AI活用ガイドブック」の公開を告知しています。会員向けの資料で、都道府県会を経由したログインが必要なため、本記事では本文を確認していません。社労士の方は、所属する都道府県会の会員ページから入手し、事務所のルールと照らし合わせてみてください。
公認会計士:日本公認会計士協会の研究文書
日本公認会計士協会は、2024年8月13日にテクノロジー委員会研究文書第11号「監査におけるAIの利用に関する研究文書」を公表しました。表題のとおり監査でのAIの利用を扱う文書で、事務所の職員向けの利用ルールとして読めるかどうかは、本文を開いて確かめる必要があります。監査業務でAIを使う場面の考え方を知る資料として、所内のルールづくりの参考に置いておくのがよいでしょう。
弁護士・行政書士・司法書士・税理士の現状
日本弁護士連合会については、会員向けに生成AIの利用に関する注意事項が示されているとの情報がありますが、一般に公開された一次資料は本記事では確認できていません。日本行政書士会連合会と日本司法書士会連合会は、公式サイトを確認した範囲では、公開された生成AIの指針は見当たりませんでした。税理士の方は、日本税理士会連合会や所属する税理士会からの会員向けの案内も確かめてみてください。
公開された指針が手元にない士業では、弁理士会のガイドラインと個人情報保護委員会の注意喚起を共通の土台にして、事務所のルールを組み立てるのが現実的な進め方になります。
指針に共通する3つの考え方
確かめられた資料から事務所の運用に落とせる考え方は、次の3つに集約されます。
- 秘密を入力する先が第三者にあたるかどうかを、学習・保存・再利用の条件で確かめる
- 依頼者の秘密を入れる場合は、学習の有無によらず依頼者の合意を得る
- 出力は資格者が一次情報で確かめ、依頼者に出す内容の責任は資格者が負う
この3つは、どの士業の事務所でもそのまま使える骨組みです。以下の節では、1つ目を事務所の環境、2つ目を依頼者への説明、3つ目を業務別の確認点として具体的な形にしていきます。
事務所で用意する環境:確かめる6項目
事務所で用意する環境は、職員が業務で使ってよい生成AIを1つに決め、その契約の中身を所長が説明できる状態にしておくことが基本になります。確かめる項目は、学習への利用、データの保存期間と場所、操作ログと管理者機能、アカウントの配布と退職時の削除、再委託先、契約終了時のデータの扱いの6つです。
学習に使われないか
主要な生成AIの法人向けプランについては、入力したデータを初期設定では学習に使わないと、各社が公式に説明しています。OpenAIのエンタープライズプライバシーのページには、ChatGPT BusinessやChatGPT Enterpriseなどのデータ(入力および出力を含む)について、「モデルの学習や改善に使用されません」との記載があります。AnthropicはClaude for Workなどの商用製品について、GoogleはGoogle Workspaceについて、いずれも既定では顧客のデータを学習に使わない旨をプライバシーの説明ページで示しています。
注意したいのは、同じ会社のサービスでも、個人向けのプランでは扱いが変わる点です。個人向けのChatGPTでは、設定の「データコントロール」で「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにすると、その後の新しい会話はトレーニングに使われなくなります。ただし、回答に高評価や低評価を付けてフィードバックを送ると、その会話全体がトレーニングに使われることがあると、OpenAIはヘルプで説明しています。職員それぞれの個人アカウントの設定に頼る運用は避け、事務所の契約で学習に使わない環境を用意しましょう。設定の場所とオフにしても残る例外は、ChatGPTに学習させない設定でくわしく扱っています。
データの保存期間と保存場所
学習に使われない設定でも、入力した内容が提供事業者のシステムに残らないとは限りません。例えばChatGPT Businessについて、OpenAIは「ワークスペース管理者は、ワークスペース内のデータの保持期間を設定できます」と説明しています。個人向けの一時チャットも、会話は30日後にシステムから削除されるという説明で、入力した瞬間に消えるわけではありません。依頼者に聞かれたときに答えられるよう、保存の期間と、保存される国や地域を、契約書や公式の説明で確かめておきましょう。
操作ログと管理者機能
事務所として説明責任を果たすには、誰が・いつ・どのサービスを使ったかを後から確認できることが欠かせません。ChatGPT Businessでは、ワークスペース管理者がワークスペース内のエンドユーザーの会話履歴を閲覧、エクスポート、削除できると、OpenAIは説明しています。個人のアカウントで使われた分は事務所の側から見えにくく、万一のときに何が入力されたのかを確かめる手段が限られてしまいます。ログを取るのは職員を疑うためではなく、依頼者に「何を入力していないか」を示す材料になると考えるとよいでしょう。
アカウントの配布と退職時の削除
業務で使うアカウントは事務所が発行し、職員が辞めたときに事務所の側で止められる形をとります。個人のメールアドレスで登録したアカウントは本人の管理下にあるため、退職後に顧問先の資料を含む会話履歴が残っていても、事務所からは本人に削除を頼むほかなくなってしまいます。繁忙期だけ来るパートの方や、外部の補助者に使ってもらう場合も、同じ手順で発行と停止を記録しておきましょう。
再委託先と、契約終了時のデータの扱い
生成AIのサービスは、画面を提供する会社と、その裏でAIモデルを動かす会社が別であることも少なくありません。士業向けの専用AIや業務ソフトに組み込まれたAIでは、入力した内容がどの会社のAIモデルに送られるのかを、提供元に確かめておく必要があります。契約を終えたときに会話履歴や取り込んだ資料が削除されるのか、削除したことを書面で示してもらえるのかも、導入の前に聞いておきたい点です。
導入前にベンダーへ出す確認質問リスト
ここまでの6項目は、そのまま提供元への質問として使うことが出来ます。回答は口頭で済ませずメールや書面で受け取り、依頼者への説明の根拠として保管しておくと安心です。
- 入力した内容をAIモデルの学習に使いますか既定の設定と、その設定を変えられるのが誰か(事務所の管理者か、利用者本人か)まで聞きます。
- 入力した内容と会話履歴は、どの国・地域に、どのくらいの期間保存されますか保存期間を事務所の側で短くできるか、削除の操作をしたときに提供元のシステムからいつ消えるかも確かめます。
- 入力した内容は、どの会社のAIモデルに送られますか再委託先の名前と、その会社との間で学習に使わない条件が結ばれているかを確かめます。
- 誰が・いつ・どのAIを使ったかを、事務所の側で確認できますか画面で見られるだけか、ファイルに書き出せるか、何か月分さかのぼれるかを聞きます。
- アカウントの発行と停止を、事務所の管理者が行えますか退職者のアカウントを止めたときに、その会話履歴を事務所が引き継げるか、削除できるかまで確かめます。
- 使わせるAIや機能を、管理者が制限できますかファイルの読み込みや外部サービスとの連携など、事務所で使わせたくない機能を止められるかを聞きます。
- 契約を終えたとき、データはいつまでに消去されますか消去の時期と、消去したことを書面で示してもらえるかを確かめます。
- 規約やデータの扱いを変えるとき、どのように知らせてもらえますか弁理士会のガイドラインも規約やプラン仕様の定期的な確認を勧めています。通知の方法と時期を聞いておきます。
士業専用AI・業務ソフト内蔵AI・汎用の法人向け生成AIの役割分担
士業向けのAIツールは、大きく3つの種類に分けて考えると選びやすくなります。
1つ目は、税務・会計・法務などの公的な情報を参照先にして答える士業専用AIです。法令や通達を調べる入口として使いやすい反面、試験の正答率などの数字は提供元の発表であり、第三者の検証を経た数字とは限りません。参照先の一次情報を資格者が開いて確かめる使い方が前提になります。
2つ目は、会計ソフトや労務・申告の業務ソフトに組み込まれたAIです。記帳や明細の読み取り、資料の回収など、ソフトの中の決まった作業に向いており、すでに契約しているソフトの延長で使える場合もあります。データの扱いは業務ソフト本体の契約に加えて、AI機能の規約が別に定められていないかを確かめておきましょう。
3つ目は、ChatGPT・Claude・Geminiなどを事務所単位で契約する、汎用の法人向け生成AIになります。文書の下書きや要約、メール、議事録のように、業務ソフトの外にある文章仕事を幅広く受け持つことが出来ます。職員が個人のアカウントで使いたくなるのはこの種類の用途であり、事務所の公認環境として用意しておく意味が大きいのもここです。
3つは置き換え合う関係ではなく、決まった作業は専用AIや業務ソフトに、それ以外の文章仕事は汎用の生成AIに、と分けて持つことになります。どの種類を選んだとしても、確かめる6項目は変わりません。事務所全体の点検項目は、生成AIのセキュリティ対策チェックリストにもまとめています。
学習に使わせない設定とログの管理を、職員任せにせず事務所の契約でそろえる方法もあります。UPGEAR AI(アップギアAI)は、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1つの契約で使える法人向けサービスです(人数無制限)。
事務所の利用ルールと職員への伝え方
事務所の利用ルールは、入力してよい情報を3つに分けた表と、使ってよい環境を知らせる通知文の2点から作ると、職員に伝わりやすくなります。長い規程を先に作るより、1枚の表と短い通知で運用を始め、迷った事例が出るたびに書き足していく方が続けやすいでしょう。会社向けの規程のひな形は、生成AIの社内ガイドラインの作り方で公開しています。
入力してよい・匿名化すれば可・入力しないの3区分(ひな形)
下の表は、事務所が契約した法人向けの環境で使うことを前提にしたひな形です。個人のアカウントや無料版は、どの区分の情報であっても業務では使わない扱いにします。
| 区分 | 当てはまる情報の例 | 扱い方 |
|---|---|---|
| 入力してよい | 公開されている法令・通達・判例、官公庁の公表資料、事務所が書いた一般向けの解説文、依頼者が特定されない一般的な質問 | 事務所の環境で使ってよい。出力は資格者が一次情報で確かめてから使う |
| 匿名化すれば可 | 氏名・社名・住所・日付・固有の金額などを伏せた事案の概要、就業規則や契約書のうち依頼者を特定できない条項、固有名を記号に置き換えた打ち合わせのメモ | 固有名と番号を記号に置き換えてから入力する。元の資料との照合は所内で行う |
| 入力しない | 依頼者名と案件の中身が結びつく情報、マイナンバー(個人番号)、申告書・決算書・給与データの原本、戸籍や登記の情報、事件記録、未公開の発明の内容、健康に関する情報など要配慮個人情報 | 入力しない。どうしても必要な場合は、依頼者の合意を書面で得たうえで所長が可否を決める(マイナンバーは合意があっても入力しない) |
判断に迷った情報は1つ下の区分として扱う、と最初に決めておくと、職員ごとの判断のぶれを抑えられます。匿名化は、名前を消すだけでは足りないことがある点にも気をつけたいところです。地域・業種・日付・金額の組み合わせから依頼者が推測できる場合は、それらも丸めるか伏せるようにしてみてください。
職員への通知文の文例
通知文は、禁止事項だけを並べるより、使ってよい環境を先に案内する書き方の方が守られやすくなります。次の文例の( )の部分を事務所に合わせて書き換え、そのまま配布できます。
件名:業務での生成AIの利用について(所内通知) 職員各位 業務で生成AIを使う場合の環境と注意点を、(日付)から次のとおり定めます。 1. 業務で使ってよい生成AIは、事務所が契約した(サービス名)だけとします。ログイン用のアカウントは事務所が発行します。 2. 個人のアカウント、無料版、私物のスマートフォンのアプリに、依頼者・顧問先の情報を入力することは禁止します。一般的な調べものであっても、業務の中で使う場合は事務所の環境を使ってください。 3. 入力してよい情報は、別紙「生成AIに入力してよい情報の区分表」に従ってください。迷ったときは入力せず、(担当者名)に相談してください。 4. 生成AIの出力は下書きとして扱います。依頼者に出す前に、条文・通達・数字を一次情報で確かめ、資格者の確認を受けてください。 5. 事務所の環境の利用記録は、管理のために事務所が確認することがあります。 6. これまでに個人のアカウントで業務の情報を入力したことがある場合は、(期日)までに(担当者名)へ申し出てください。申し出たことを理由に不利益な扱いはしません。 (事務所名) 所長(氏名)
6番目の申し出の項目は、過去の利用を責めるためではなく、どこに何が残っているかを把握するために入れています。申し出が出てきたら、そのアカウントの会話履歴の削除と、学習の設定の確認を本人と一緒に進めるとよいでしょう。
野良AIを防ぐには、使ってよい環境を先に渡す
事務所が環境を用意しないまま禁止だけを伝えると、職員は私物のスマートフォンや自宅のパソコンで、個人のアカウントを使い続けることになりがちです。事務所が把握していない生成AIの利用はシャドーAI(野良AI)と呼ばれ、士業事務所では、繁忙期に顧問先へのメールや説明文を急いで仕上げる場面で起きやすいと考えられます。
所長が気づくきっかけとしては、職員の作る文面の調子が急に変わった、出典のない数字や条文番号が資料に混じるようになった、といった変化があります。それでも外から見て分かることには限りがあるため、本人に直接聞いてみるのが確かな方法になります。通知文の6番目のように、申し出ても不利益にならないと先に約束しておけば、実態を話してもらいやすくなるでしょう。
職員研修で伝えること
研修は、使い方のコツよりも、3区分の表を実際の書類に当てはめる練習に時間を使う方が身につきます。例えば、顧問先から届いたメールを1通選び、どこを伏せれば「匿名化すれば可」の区分に入るかを全員で確かめてみる方法があります。出力の誤りを見つける練習として、条文番号を含む質問をさせ、回答に出てきた条文をe-Gov法令検索で開いて照らし合わせる回を入れるのもよいでしょう。入社時と、ルールを書き足したときに、同じ内容を短く繰り返してみてください。
依頼者・顧問先への説明
依頼者への説明は、生成AIを使う業務の範囲と、最終的な確認と判断は資格者が行うことの2点に絞ると伝わりやすくなります。日本弁理士会のガイドラインは、秘密情報を入力する場合について「学習の有無によらずクライアントに合意を取るべきである」としており、この考え方は他の士業の事務所にも当てはめることが出来ます。秘密情報を入れるかどうかは事務所だけで決めず、依頼者の了解を得る形にしておきましょう。
依頼者への説明文の例
新規の依頼の受付時や、顧問契約の更新の案内に添える文の例です。
生成AIの利用について 当事務所では、書類の下書き、公開されている法令や制度の調査、打ち合わせ記録の整理などの補助として、生成AIを利用することがあります。 ・利用するのは、入力した情報を学習に使わない条件で事務所が契約した環境に限ります。 ・お預かりした資料のうち、お名前や番号など、個人や会社を特定できる情報は、原則として入力しません。入力が必要な場合は、事前にご相談します。 ・生成AIの出力はそのまま使わず、内容の確認と最終的な判断は、担当の(資格名)が責任をもって行います。 ・生成AIの利用を望まれない場合は、お申し付けください。そのご依頼では利用いたしません。
説明文は、ホームページに載せるだけでなく、書面やメールで直接渡すと、依頼者が読んだことを確かめやすくなります。
委任契約書・顧問契約書に足す一文の例
契約書に入れる場合の条項の例を示します。
第○条(生成AIの利用) 1 受任者は、本件業務の補助として、入力した情報を学習に利用しない条件で受任者が契約した生成AIサービスを利用することがある。 2 受任者は、委任者の秘密情報を前項のサービスに入力する場合、あらかじめ委任者の同意を得るものとする。同意がない場合は、委任者を特定できる情報を除いたうえで利用する。 3 受任者は、生成AIの出力を、受任者自らが内容を確認したうえで本件業務に用いるものとし、本件業務の成果についての責任は受任者が負う。 4 委任者は、書面により、本件業務において生成AIを利用しないよう求めることができる。
※条項は一般的な形を示した例です。実際の契約書に入れる際は、所属する会の規則や既存の秘密保持条項との整合を確かめ、必要に応じて専門家の確認を受けてください。
既存の顧問先には、契約の更新時に条項を足すほか、説明文を送って異議がないかを確かめる方法もあります。弁理士会のガイドラインが挙げるように、依頼者の側で生成AIの利用を制限している場合もあるため、返事を待ってから使い始めると行き違いを防げます。
業務別の使いどころと、人が確認する点
生成AIが力を発揮しやすいのは、書類の下書き、メールの文面、調べものの入口、議事録の整理、顧問先向け資料のたたき台といった、文章を組み立て直す作業になります。下の表では、業務ごとに使いどころと、前の節の3区分のどこに当たるか、人が確認する点を並べました。
| 業務 | 使いどころ | 入力の区分 | 人が確認する点 |
|---|---|---|---|
| 書類の下書き(契約書・就業規則・意見書の骨子など) | 構成案、言い回しの候補、条項の抜け漏れの洗い出し | 匿名化すれば可 | 条文番号・日付・金額、依頼者固有の事情が反映されているか |
| 依頼者・顧問先へのメール | 説明の順番の整理、やわらかい言い回しへの書き直し | 匿名化すれば可 | 宛名・数字・期限、約束していない内容が入っていないか |
| 法令・通達の調べもの | 論点の洗い出し、関係しそうな法令名の当たりを付ける | 入力してよい | e-Gov法令検索や官公庁の原文を開いて照合し、改正の有無も確かめる |
| 打ち合わせの議事録 | 文字起こしの要約、決まったことと宿題の抜き出し | 匿名化すれば可(録音するかどうかは依頼者の了解が前提) | 発言者の取り違え、話していない結論が書かれていないか |
| 顧問先向けの説明資料 | 制度改正の解説のたたき台、図の構成案 | 入力してよい | 施行日・対象・金額の基準を一次情報で確かめる |
| 問い合わせの一次対応の準備 | よくある質問と回答文の整理 | 入力してよい(個別の案件は除く) | 個別の相談に答える内容になっていないか、資格者の判断が要る内容を含まないか |
契約書の確認にAIを使う場合の注意点はリーガルチェックAIの記事で、税理士事務所の業務に絞った使い方と指示文は税理士のAI活用ガイドと税理士事務所のAIプロンプト集で扱っています。
誤った答え(ハルシネーション)には一次情報で当たる
生成AIは、もっともらしい文章の中に、誤った条文番号や改正前の制度の説明を混ぜることがあります。弁理士会のガイドラインもこの現象を「ハルシネーション」と呼び、「生成された情報の真偽を確かめるファクトチェックは必ず弁理士によって行う必要がある」としたうえで、情報が古い場合があることにも触れています。確かめる先は、条文ならe-Gov法令検索、税務なら国税庁、というように公的な原文に決めておきます。AIの回答に出典が示されていても、そのページを開いて該当箇所を読むところまでを確認の手順に入れてみてください。
出力の確認と責任は資格者が負う
出力をそのまま依頼者に渡すことについて、弁理士会のガイドラインは、検討・精査もせずにそのままクライアントに提供することは「善管注意義務に違反する恐れがある」と書いています。依頼を受けた専門家として求められる注意の水準は、道具が変わっても下がるわけではありません。確認の担当と方法を書類の種類ごとに所内で決めておけば、忙しい時期でも確認が抜けにくくなります。
AIに任せる作業と、人に残る判断
任せやすいのは、下書き・要約・言い換え・候補の洗い出しのように、あとで人が確かめられる作業です。人に残るのは、依頼者の事情を聞き取って方針を決めること、書類に責任を持つこと、説明して納得してもらうことになります。士業の仕事がなくなるのかという問いは、作業の一部が軽くなり、判断と説明に使う時間の割合が増える、と捉えるのが実務に近い見方でしょう。
費用の目安と、公表されている導入の形
汎用の法人向け生成AIの多くは利用者1人あたりの月額料金のため、事務所の職員数がそのまま毎月の費用に響きます。見積もりは1人あたりの単価ではなく、職員全員に配った場合の月額と年額で比べてみてください。
費用を見るときの考え方
例えばChatGPT Businessの標準シートは、日本から表示した料金ページで月3,050円(年額課金の場合)と表示されています。職員10人の事務所が年額課金で全員に配ると、毎月30,500円、1年で366,000円の出費になってしまいます。Claude Teamのスタンダードシートは税抜で年払い時に1人月20米ドルのため、10人なら毎月200米ドルとなります。Google WorkspaceはGmailやドキュメントの中でGeminiを使えるStandardプランが1人月1,600円(年間プラン・税別)で、10人なら毎月16,000円です。
※料金は2026年9月15〜16日に各社の公式料金ページで確認した表示です。ChatGPTの料金ページには税込か税別かの記載がないため、税を足していません。ChatGPT Businessの月額課金は1人月3,850円です。Claudeは日本から表示すると消費税10%込みの米ドル表示(年払い時は1人月22米ドル)になります。価格・為替・プランの内容は変わるため、検討の際は各社の公式ページで確かめてください。
利用料のほかに見落としやすいのが、ルールと通知文づくり、職員研修、提供元への確認、依頼者への説明文の差し替えといった所内の手間になります。業務ソフトに組み込まれたAIは、既存の契約に含まれる場合と別料金のオプションになる場合があるため、見積もりの段階で分けて確かめておきましょう。士業専用AIも料金の体系が提供元ごとに違うので、使う職員の人数と業務の範囲をそろえて比べるのがおすすめです。汎用の法人向けサービスの料金と条件は、法人向け生成AIの料金比較で横並びにしています。
公表されている導入の形
提供元が出している導入事例や、事務所自身の発信を見ると、士業事務所の生成AIの導入は大きく3つの形に分けて見ることが出来ます。
- 会計ソフトや労務の業務ソフトの提供元が出すAI機能を、既存の契約の延長で使い始める形
- 公的な情報を参照先にする士業専用AIを、調べものの入口として一部の職員で試す形
- 汎用の法人向け生成AIを事務所の公認環境として契約し、利用ルールとあわせて職員全員に配る形
どの形でも、事例に出てくる削減時間などの数字は当事者や提供元の発表で、第三者が検証した数字とは限りません。自分の事務所に当てはめるときは、同じ業務・同じ人数で1か月ほど試し、かかった時間を記録して比べるのが確かです。実名の事務所の取り組みは、税理士事務所に絞って会計事務所のAI活用事例で紹介しています。
小さく始める導入の手順
導入は、職員全員に一斉に配るより、所長と2〜3人の職員で1か月ほど試してから広げる進め方が無理なく進められます。次の6つの手順を、事務所の規模に合わせて調整してみてください。
- 自分の士業の条文と、所属する会の指針・会員向けの資料を確かめる
- 使う環境を1つに絞り、確認質問リストを提供元に送って回答を書面で受け取る
- 3区分の表と通知文を事務所の言葉に直し、試す業務を2つ程度に絞る(例:議事録の要約と、顧問先向け解説のたたき台)
- 依頼者への説明文と、契約書に足す一文を用意する
- 1か月後に、使った業務・迷った情報・誤りが見つかった場面を持ち寄り、表と通知文を直してから職員全員に配る
- 年に1回、または提供元の規約が変わったときに、確認質問リストで点検し直す
最初に選ぶ業務は、依頼者の情報を入れずに試せるもの、例えば公開情報の解説づくりや、固有名を伏せた議事録の要約にしておくと安心です。ルールが固まる前に、依頼者の秘密を扱う業務から始めるのは避けましょう。試す期間は、職員が気軽に「これは入れてよいか」と聞ける窓口を1人決めておくと、表に足すべき迷いどころが早く集まります。
依頼者に説明できるAI環境を、事務所に1つ
UPGEAR AIは、ChatGPT・Claude・Gemini・Perplexityを1画面で切り替えて使える法人向けAI基盤です。全モデルで学習非利用を標準適用し、管理画面では誰が・いつ・どのAIを使ったかを一覧でき、使わせるAIも事務所で選べます。会話履歴・利用ログ・アカウントは国内サーバー(AWSの日本リージョン)で管理します。料金は月額30,000円(税抜)から。どのプランも利用人数は無制限で、料金は利用量に応じたプラン設計です(人数の目安はライト1〜5名・スタンダード6〜20名・プレミアム21〜50名)。初期費用100,000円(税抜)が別途かかります。
UPGEAR AIの詳細を見るよくある質問
AIに取られる士業はありますか?
税理士はAIでいらなくなりますか?
無料版でも、名前を伏せれば業務に使ってよいですか?
士業団体の指針に反すると懲戒になりますか?
士業専用AIと汎用の生成AIは、どちらを選べばよいですか?
依頼者の同意は、案件ごとに毎回取る必要がありますか?
まとめ
士業のAI活用は、使い方より先に、依頼者の秘密をどの環境になら入力してよいかを事務所で決めることから始まります。守秘義務の条文は生成AIへの入力について直接定めていませんが、日本弁理士会のガイドラインは外部の生成AIに秘密情報を入力する行為を、守秘義務に違反するおそれがある行為として扱っています。個人情報保護委員会の注意喚起も、提供事業者が個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認するよう求めました。
事務所として整えるのは、学習・保存・ログ・アカウント・再委託先・契約終了時の扱いの6項目を確かめた環境を1つ用意すること、入力してよい情報を3区分で示し職員に通知すること、依頼者に利用の範囲と資格者の確認を説明して合意を得ることの3つになります。出力は必ず一次情報で確かめ、依頼者に出す内容の責任は資格者が持ちましょう。まずは自分の士業の条文と会の資料を確かめ、少人数で1か月試すところから始めてみてください。法人のAI活用に関するほかの記事は、AI活用コラム一覧にまとめています。
